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あかないキミの、異能世界  作者: 竜世界
ProgressⅡ-SCISSOR LADY-
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第8話 砂漠に水が舞う中で

 とりあえず現れるエネミーどんどん倒して行くか。


 ハームレスウォーターの能力者は今回開催されたゲームの砂漠マップでそう思っていた。


 仲の良い者からルビーと呼ばれる彼女はアイテムとエネミーによる得点対応表を眺め、どのようにゲームを進めるのが効率的かの結論を暫定的に出した。


 砂の地中から次々と現れるRPGで言うワームのようなエネミーは彼女の能力により生成される青い細身の剣で難なく倒せる程度だったが、最低ポイントの相手なら当然だという様子で視界の開けた砂漠をルビーは進む。


 砂の中に宝石があるって言われても……偶然目に付いたヤツだけでも拾うか。


 出現するのはワームだけでは無いが、先程の紫色ボディでシアンの水玉ボディのワームは手強かったとルビーが感じながら進んでいると……同種のワームに苦戦する女性参加者の姿があった。


「横取りしていいなら倒すけど?」

「わりぃっ! 頼むよ」


 ルビーは今までも能力を展開していた為、周囲では能力による水が大量に浮いている……その水を消費し、ルビーは青い剣を四本生成し、水玉ワームの若干手傷を負った部分目掛け発射する。


 やっぱもう一撃必要か。


 周囲の水を更に消費し、それにより剣の強度が向上。駆けるルビーが程なく水玉ワームに辿り着く頃、タイヤの直径は優にあるワームの胴体の両断を試みる。


 元からあった傷口を的確に広げたからか、青の剣はひと思いに水玉ワームの胴体を断ち切り……分断されたワームの肉体が急速に溶けて蒸発する撃破演出が確認された。


「さんきゅー! 助かったよ」


 女性は純粋に感謝を述べており怪しい素振りは無い……そう判断したルビーはこんな質問をする余裕が出来た。


「その鎧」

「お、コイツかい」


 女性は動きやすそうな服装の上から肩や銅などのある程度の部分を覆う軽装鎧を身に着けていた。女性は発言を続ける。


「ゾーンで手に入るって噂のソリッドが手頃な値段で売りに出されてて……衝動買いしちまったのさ」


 固形を意味する『ソリッド』という言葉で呼称される武器防具はゾーン内に出現するアイテムボックスや宝箱の中にあると言われている。


 剣や鎧などごく基本的な形状のものしか確認されておらず、限られた種類しか無いという考えが優勢で、女性の軽装鎧は「プロテクター」という呼称で定着。


「ガーデンまで持ち帰れること自体は興味深いけど……」


 ルビーもソリッドに対しては微妙な評価を抱いており、更に何か言及しようか関考えた末、


「そういえば横取り上手く行ったよ」


 話題を変える事にした。プロテクター姿の女性はその話題を拾い、こう返す。


「スコア一・五倍は美味しいねー……宝石が満足に見つかってるか判らない参加者を倒すより、横取り狙う方が今回はいいのかも」


 他の参加者が倒し掛けているエネミーを、乱入する形で倒すと発生する「横取りボーナス」の倍率はゲームによって異なり、普段は一・二倍程度の中、今回の倍率は魅力的に映る者が多いような状況。


 エネミーがドロップするアイテム判定はラストアタック――最後に攻撃した者にあり、ラストアタックボーナスはエネミーが二名以上の参加者から攻撃を受けている事が発生条件となる。


「助けてもらった上にお喋りにまで付き合ってくれたんで……コイツをどうぞ」


 女性が何かを取り出し、ルビーへと投げる素振りを見せると手にしていた物は消え……程なく、それが宝石アイテムの譲渡だったとルビーは気付く。


 受け取った五点宝石の輝きは黄味掛かった真珠光沢で、砂とよく馴染む色合い。


「そんじゃ、お達者で」


 その言葉と共に女性が去ってから暫くが経ち……歩みを進めていたルビーの足元の砂場が地響きと共に大きく盛り上がる。


 クモにサソリの尾を付けたような姿(すがた)(かたち)


 現れた存在に対し、そんな感想を抱いたルビーだが、タランチュラの全身が血で染まったような外見から青痣(あおあざ)のような色合いのサソリの外殻部分が覗く様は不気味な印象を放つ。


 これで今回三番目の強さのエネミー……倒せるかな。


 そう思いながら、まだ浮上した際の砂が流れ落ち切らぬ内に行動に移るルビー。


 ルビーの周囲に発生した水は多少以上と心許ない量だった。


 ハームレスウォーターは生成した青い剣を動かす度に水が発生するが、能力発動時から水の発生は始まり、「水を始めとする液体がその空間内に充分には無い時、規定量の水を発生」という条件。


 水中を除けばこの条件が成立しない場所はまず無い為、今回の砂漠マップでも大いに有効……その場で水を発生させ続けるほど粘れるならば。


 血濡れ色のエネミーが蜘蛛頭部の口を上下に開くと獣のような牙が並ぶその口から重油のような色合いと光沢の液体が吐き出され砂場に染み込んで行き……それが若干の紫色を帯びている事にルビーが気付く前だった。


 砂の中に滲み込み沼のように広がっていた黒い部分の全体から、突如として鋭利なトゲが(おびただ)しく生えて来た。


 距離を取っていたルビーに被害は無かったが、これが毒液の成分を硬度に変換する能力によるものとは気付かないものの、暫くすれば急速に蒸発する攻撃である事は見て取れた。


 こんなの連発されたらヤバイけど……もう一度吐き出すまで近付いてみるか。


 背中部分だけで小規模の駐車場が務まりそうな程の体躯を誇る血濡れ色エネミーに対する考えを浮かべたルビーは水を増やしつつ慎重に攻撃の機会を窺う。


 程なく巨大エネミーの周囲で何やら球状のものが複数生成され、それがベイシスの能力に当たる『ファイアボール』である事は一目で判った。


 高得点対象のエネミーが多少の能力を使う事は存分に確認されており、RPGでよく見掛ける初歩的な魔法を一つくらいは有していると考えるのは定石。


 厳密には「RPGの攻撃魔法と同じ結果を生み出す能力」の事を便宜上、魔法と呼称しているのだが……エネミーだけでなく参加者の中にも扱える者はいる。


 火の玉なんてこの剣で防げばいいんだけど、一度にたくさん撃って来るのは厄介だなぁ。


 前述の通りファイアボールは能力であり、生成される火球は能力による生成物。


 同じく能力による生成物であるルビーの青い剣と衝突すれば互いの強度残量による大小でどちらが相殺されるかが決まり、今回は青い剣の圧勝に終わる。


 迫る火球を次々と切り払い巨大エネミーへと接近して行くルビー……新たな生成により発射した青い剣で八つある蜘蛛の目の内、一つを潰す。


 まずは目を全部、潰そうか。


 それが果たされた後、ルビーは巨大エネミーの頭部に取り付き、次にサソリ部分の尾を警戒した。エネミーが見下ろす地面まで突き立てるだけの長さがあるならば体の何処に取り付いていても届く事になる。


 案の定とばかりに青痣色の強靭な尻尾が反時計回りに薙ぎ払われて来た。


 やってみるか。


 ルビーは剣を突き出し、水を消費……剣先からドーム状の水色のバリアが生成され尻尾による打撃の盾となる。


 かなりの水を消費した分、バリアの強度は見込めるが……傍から見て細い剣先で巨大な尻尾を受け止めようとする様は無謀そのもの。


 結果はバリアにヒビが入り始め……砕けるよりも先に尻尾の方が弾かれ、防御は成功した。


 尻尾を根元から切れば一方的に攻撃出来そうだけど……その労力で頭を落とした方がいいかなー……。


 躊躇うルビーだったがハームレスウォーターは水を攻撃に使うよりも先程のようなバリアを生成する方が消費効率がよく、総合的に見れば防御型の能力という評価が有力視される余地も。


 ルビーが頭部を攻撃する際にどれくらいの頻度で尻尾による妨害を受けるか見計うべく頭部への斬撃を続け……周囲を見渡していた為、即座に気付けた。


 遠方より球状のものが複数、こちらに向かっており……何者かの射撃攻撃である事にルビーが気付く中でその球状射撃を捉えるや、思わず叫ぶ。


「サンダーボール⁉」


 ファイアボールの雷版と言えばそれまでだが、雷が球状になるまで制御する行為は最早初級魔法とは言えない。それが反映された能力ならば生成に時間が掛かり、一発撃つのがやっとだと考えるのは自然だろう。


 そんなサンダーボールが一度に複数……しかもあれから更に発射されている。


 ヤバイ能力者が近くにいる。


 そう思ったルビーは頭部から飛び降り……巨大エネミーの腹の下を目指す。


 サンダーボールは最終的に巨大エネミーの頭部に十八発浴びせられ、雷のエネルギーが巨体を駆け抜けていた。


 首尾よく巨大エネミーの腹の下に潜り込んだルビー。近場の砂丘の上にいる人影の前で回転する何かが煌めくと、手にしていた杖が槍へと変わるのが見えた。


 人影がその槍を高く掲げるや、「ライトニング」と称される大規模な落雷が巨大エネミーに直撃する。


 雷魔法は高威力だが実際の雷より威力が劣る場合も目立つ中、少なくとも今回は見た目に負けないだけの威力はあったようで、血濡れの色の蜘蛛型エネミーへのラストアタックとなり、撃破時の融解演出が始まっていた。


 ここまで素早く倒せたのはルビーがある程度体力を削っていた事もあるかもしれないが……少なくとも横取りボーナスは発生していた。


 ルビーが目視出来るか怪しい距離にいる人影を見ると、その者の目の前に横回転するカードが出現しており、


「聖杯かぁ」


 やや落胆の色が窺える見た目相応の少女の声が発せられた頃、手にしていた槍は今や片手で持つにはやや大きい、見事な装飾の施された盃の形状を為していた。


 彼女がこの聖杯を手にしている間、他から能力の作用を受けていない地形概念に基づくものを大規模に操作……この砂漠ならば流砂の渦や砂嵐を発生させる能力を得る事になるが……先程までの攻撃性と比べれば見劣りも止む無し。


 未だ終わらぬ巨大エネミーの融解演出と蒸発音に紛れ込めたからか、背中に剣を背負った少女はルビーに気付く前にその雪のように白い髪をなびかせ立ち去って行く。


 至る所で巻き部分の目立つそのロングヘアは鮮やかなライムグリーンの色も有しその比率は半々を疑い、まるで髪の裏側がライムグリーンであるかのような分布さえ見せるが、実際は白部分の方が多い。


 素顔を覆うサークレットとハーフマスクが一体化したような金属の装飾の色合いはパープルゴールドを思わせ、額部分には突起が幾つかある為、「鬼」の印象を受ける者も少なくは無い形状を為す。


 もしもルビーと彼女が並べば背丈に大差は無く、胸部の膨らみはルビーの方が上回るとはいえ、大きめという評価を得るには充分。


 そんな彼女が背負う剣は「バスタードソード」と呼ばれるソリッドの一種。


 比較的鍛えた鋼鉄程度の強度がある武器という以外に特殊な要素は何一つ無いが攻撃力に当たり外れがある能力の持ち主である彼女――『サーティーン』にとって常に安定して使用出来る武器は手頃な選択肢なのだろう。

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