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あかないキミの、異能世界  作者: 竜世界
ProgressⅥ-MAGICAL NIGHTMARE-
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第52話 群がる場を見てみれば(前編)

 ゲーム開始間際(まぎわ)に参加者の前に現れガーデンに戻る際にも出現するポータル……空間を球状に蝕んだかのような穴らしき外見のそれを経由する参加者がグループに所属していたのならばリーダーかメンバーかで扱いが異なる場合がある。


 統合四日目に発生したフィールドでのゲームも終わり、参加者の各々がグループ設立特典である拠点施設(アジト)や自らの住居へと戻る中、このグループは今回出撃したメンバー全てが一斉に戻って来ていたのだが……。


 リーダーは自らのメンバーが帰還する際、アジトにしか戻れなくする事も可能で彼女達にはその制約が課されておらず。


 ガーデン内に設けられているとされるアジトだが出入りにはポータルを経由する必要があり、転送現場を目撃されない条件を満たしている場所が常にあるとは限らない為、それが発生するまで長く待たされる事も度々。


 フィールド発生時のポータルはゲームに参加せずとも利用出来る為、その移動先を自分達のアジトにする事も認められている。


 そんな中、このリーダーは自分が先にアジト内の任意の場所に転送される機能を他のメンバーからやや離れた上で向かい合うよう設定……ポータルから現れたのは青紫の暗清色の後ろ髪に白い飾りをふんだんに付けた金縁眼鏡の女性。


 視線の先にはアジトの出入口と言える場所……利用可能かの確認とその際にポータルを呼び出せる機能がアジトにはあり、それを利用出来るかをリーダーが管理。


 そんな場所から更に、出撃していたメンバー四名がポータルから帰還した。


「お邪魔しまーす」

「戻りましたー」


 ミーティアブラストのボーカルとギターを務める二人はグループ加入二日目の新入り……残る二名の少女の発言が続く。


「昨日に続いて、こんばんわー!」

「いやー、アジトに来るのって久しぶりだぁ……」


 ミーティアブラストのドラム担当ではあるが、このグループでは二人の上司という扱いになる少女に続いたもう一人は古参メンバーなのだが、まるで卒業した母校にでも訪れたかのような様子。


「おかえりー。さーいごにここが、こんなに賑やかになったのって、いつだったかしら……」


 このアジトの管理権限全てを持つルプサのリーダー、クレイミー・ライルマンことクララがそう述べる様はまるで遠い日の記憶を(おぼろ)げに思い出しているかのよう。


「さぁ、こうしちゃいられない!」


 ドラム担当のアンがそう叫ぶや、マイとサリーをグループに迎えるべく作成したシステム上はアンのものである部屋へと駆け出す。


「え、あの……反省会とか」

「サリーもリーダーであるクララさんに報告とか、あるのかと……」


 マイとサリーがそう困惑する中、当のクララが返す。


「あー……報告は有難いけど、別にアンの部屋でも出来るから、そこでいいわ。何か食べたいものがあるんだったら持ってくけど?」

「あ、リーダー。以前買い込んだソーセージミート缶詰って、まだある?」


「均等に残るよう消費してたから、各種まだまだ残ってるわよ」


 ヨーグルト髪のマユがクララにそう尋ね、返って来た言葉を踏まえこう呟く。


「じゃあ今夜は中辛チキンの二缶使って……ラーメン専用機に塩ラーメン作ってもらって、それに乗せようかな」

「アタシはパン専用機でナン焼いて……レトルトのカレーでも挟もうかしら」


 フィールドの発生時刻と開催時間に変動はあるものの、今日のように晩御飯と言える時間帯には終わるのが常。


 ルプサ所属の五名はアンに割り当てられた部屋へと移動し、そこでアンは今日上げた動画の動向や主要なSNSでのコメントをチェックし始める。


「まだ投稿してから十二時間も経ってないけど……やっぱり気になっちゃうなぁ」


 ミーティアブラストではリーダーと言えなくも無いマイがそう発言してから物の数分後、アンが唖然としながら呟く。


「え、何……この再生数?」

「他の動画開いてるんじゃ……あ、うん。サリーたちが投稿した動画だね」

「景気はどーかしら?」


 本来は手狭(てぜま)な共有部屋止まりであるこの場は、並みのリーダーが作成出来る部屋よりも拡張され快適な居間(リビング)と化していた。そんな部屋の広いテーブル目当てにナンを乗せたトレイをクララが運んで来た。


「うっわ……この部屋、どうなってんの?」


 三日前は存在しなかった部屋の充実ぶりに先の宣言通りにトッピングした塩ラーメンをトレイに乗せて入って来たマユの顔と声は唖然としていた。


 この部屋全体が立体投影領域として機能する為、ミーティアブラストの三名はそれぞれのスペースを確保して平面ウインドウや3D映像を表示させていた。


「じゃ、私は虹姫宝乃華(ほのかちゃん)でも……あ、丁度ミニライブ配信やってる」


 装着者が閲覧する領域の音だけを拾う機能を持つヘッドセットを被りながらマユはそう言って……上手く割れた割り箸に(ささ)やかな感動を抱く。


「とーころでマイちゃん」


 クララがマイに近付き「あ、はい!」と返って来るやこう続けた。


「クラウンで願って得たサポートの条件は音楽活動だったよね?」

「ですです。その条件を満たした時だけはガーデンのシステムが手助けしてくれます」


「じゃあ、さ。今この場でこう言ってごらん」


 そう言うとクララはマイに耳打ちし……やがてマイがその通りに発言。


「私たちの新曲に関するネットでの反応を全て収集し、その中でも重要度の高いものを常に表示して」


 発したほぼ直後、アンも調べていた複数の主要サイトから得られる、件の新曲の反応を映したウインドウが続々と部屋の中に表示されて行き……クララが言う。


「重要度の度合いを決めるスライダーまで出て来たわね」

「え、待って……? 今七段階以上で設定されてるって事は……」

「それより下な反応は非表示……それでこの量⁉」


 アンの困惑した声と驚愕するサリーの叫びが続いた。


 部屋の中で存分に広がるウインドウは全てでは無く、数件を表示させ他は格納したものを一つのグループとしているのだが……その状態でも既に一目では数え切れそうに無い程のウインドウの大群。


「ちょ、ちょっと下げてみる……」


 マイがスライダーを下げて行くと表示量が更に増え……最初から表示されていた項目を眺めていたクララが呟く。


「あら、上場してるわ」

「じょう、じょう……?」


 首を傾げたアンを他所(よそ)にクララはマイ達に言う。


「株や先物とかの銘柄みたいに売買出来るようになってるわ……ほら、ここに項目がある。此処のAIってこういうのが得意だし」

「一体、いつ……?」


「ガーデンがキミたちのユニットの商業価値が高いと判断した瞬間でしょうね……それくらい今、話題になってるって事よ」


 状況が掴めない表情をマイがする中、クララがそんな見解を述べていると、マユが視聴していた虹姫(にじひめ)宝乃華(ほのか)の配信が部屋のかなりの領域を使って表示され、これから今話題の曲を歌うと言い出していた。


「準備間に合った! それでは聞いて下さい。今話題のミーティアブラストさんの曲を歌います」


 程なく前奏が流れ、ライブ衣装に身を纏った虹姫宝乃華は今にも歌い始めそうな(おも)持ち……曲名である『ブレイジング(Blazing)ティアーズ(Tears)』という大きな字幕が冒頭を飾り虹姫宝乃華の歌声が繰り出されては歌詞が表示されて行った。


 ブレイジングティアーズは英語表記で二つの単語からなり、大文字は二箇所……デビュー当時の惨状から圧倒的に上達した虹姫宝乃華の歌唱力をマイたちは純粋に堪能する。


「この配信終わったら切り抜きをすぐに自分で上げるからねー!」


 配信コメントが大盛況を見せる中、虹姫宝乃華がそう告知していると……SNSを漁っていたアンが突然声を出す。


「げっ……ほのかちゃんが私たちの動画に気付いたのって四時間くらい前だ」


 動画との遭遇直後、「歌いたいなぁ……」とSNSで更に発言。そこから仲間タレントとのやり取りが始まり、虹姫宝乃華がブレイジングティアーズの練習をしている間に耳コピとミックスに長けた個人勢のヴァーチャルタレントが音源を作成。


 そんな流れを読み取る事は出来ても、先程の配信で表示された歌詞の表示演出の動画を作成したのは別の個人勢のヴァーチャルタレントだという情報は今、虹姫宝乃華の口から語られる事で初めて明らかに。


 二名は虹姫宝乃華が今までの活動で歌動画を作る際に知り合い、長い年月を掛けて親睦を深めた間柄……やがて虹姫宝乃華は息が上がり気味の声色で言った。


「どうしても今日中に歌いたくて……でも簡単な動画で済ませるのは勿体無いくらい、すっごくいい曲と動画で……皆に無理言って、何とか間に合いそうだったから突然だったけどミニライブした! 本家のMVも凄いから、絶対観てね!」


 今まで使ったステージの流用ながら普段の2D配信には無い多彩な動きの数々をライブ専用衣装で披露していた虹姫宝乃華による突然の3Dライブ配信はその言葉で締め括られ、当の三名は圧倒された様子で口々に言う。


「やっぱりトップは違うなー」

「あの歌詞動画を三時間くらいって……サリーには真似出来ないよ」

「ワンパートじゃなくて五分強全部やってたし……」


 見ていたものと同じ配信が大きく表示された事に気付き、自分の方は閉じてテーブル越しに眺めていたマユも発言する。


「見入っちゃったなぁ……あ、ラーメン伸びてる? 動画が上がる時間は……食べながら観るのもありかな?」


 余りの出来事にミーティアブラスト三名は言葉を失い、暫くマユがラーメンを(すす)る音だけが部屋に響いた後、マイが恐る恐る口を動かし始める。


「あ、あのー……クララさん」

「新曲動画の反応が気になって今夜は眠れそうにないから明日の出撃は休みたい、でしょ? いいわよ。サリーもアンも今日は徹夜しちゃいなさい。海外の反応もこれからよね? 何なら明後日の事も考えなくていいわよ」


「え……? えっと……」


 マイが困惑する中、ラーメンのスープを蓮華(れんげ)一掬(ひとすく)いして飲んだマユが言う。


「ウチってここ数ヶ月、形ばかり集まる事さえしてなかったトコだから、何も言わずに三日間サボって四日目に顔出すだけでも、めっちゃ優良部員だよ」

「流石に少しは連絡し合ってるけどね」

「アジトにいつも居るのは二人くらいだよねー」


 クララの言葉にそう続けたアン。理解が追い付かぬままにマイは発言する。


「あ、ありがとうございます……あ、私たちも何か食べなきゃ……」

「じゃあサリーは急いでパン製造して来る」

「ボクが作ったジュースも色々あるよー」


 突然ふわふわとした声色が部屋の中を舞い、入って来た人物が持つトレイの上にはそれぞれが異なるミックスフルーツジュースが幾つか。


 パジャマ姿の女性の髪はベージュのセーターに青い染料を加えたような色合いで右目は前髪により隠れ全体の髪も長い。左右の瞳は両方銀色で背は低くは無い。


「あ、ひさしぶりー……相変わらず胸元が際どいね」


 マユが言及した通り、女性が着る上下同じデザインで上がボタン式のパジャマはボタンの数が少なめで間隔が広い為、彼女が有する膨らみでは胸部周辺を覗き込める程の隙間が出来易い。


「そして相変わらず眠そうだねー。マラーヤちゃん」

「今日は結構起きてたけどねー……まさかこのアジトの一室に六人も集まる日が来る何て……ふわぁ」


 眠そうな声と言うよりも聞く側の眠気を誘発させるような声色でそう発言したのはルプサの第三序列『マラーヤ』。


 先程アンがアジトに常駐しているのは二名と言ったが、一人はクララでもう一人がこのマラーヤ。着替えはあるものの、このアジト内ではパジャマ以外の服を着た事が無い事を踏まえれば彼女が普段どのように過ごしているかが(うかが)える。


 ミランダ・ナスタルシェという本名はメンバーの間でも余り知られていない彼女だが、起きている時はルプサで一番の働きぶりを見せる。


 そんなマラーヤはマイ達に話し掛け、互いの自己紹介を済ませて行くのだった。



 第52話まで読了ありがとうございます! これで本作を二十万字以上読まれた事になります。


・今回ばかりは後書きで補足

 ガーデンは地球から完全に隔離された閉鎖空間。

 ガーデン内でのデジタルな操作内容と同じ結果が地球側のサーバーに反映されるような能力みたいなシステムにより、地球と作中のガーデン内とのデータの送受信を実現しているかのような振る舞いをする事は第6話で触れた通り。

 今回は舞台となるガーデンを管理するAIが地球側のインターネット上で得られる膨大なデータを瞬く間に収集したという描写がありましたが、その補足をこの後書きで述べます。


・本作のガーデンと地球との関係を憶測気味に

 経済活動に特化したガーデンのAIが地球側の企業に持ち掛ける内容は軒並み「美味しい話」になるはず。

 ガーデン側の処理を地球側のサーバーに反映する際に認可が必要だっとしても、今までの実績と信頼により多少の無理は聞き入れてくれる関係を構築していてもおかしくありません。

 そして例えば事前に「今度スポンサーになった個人グループの為に御社のサービスに膨大なアクセスを行う場合がございます」と通知しておけば今回のように某青い鳥めいたSNSサイトでの情報収集も素通り同然で認可された……と考えられます。


 後書きでこういった補足をするなら「本文でやれ」なのですが、今回は「少なくともこういう背景はありそうだから難なく成立した」程度で留めるなら後書きの方がいいかなと思った次第です。


・蛇足ながら後書き文字数追加

 ガーデン内でのデジタルな操作内容と同じ結果が地球側のサーバーに反映される事により、データの送受信が疑似的に実現している為、ガーデンから地球側のオンラインゲームを地球側と同じ条件で興じる事が出来る。

 ……これで説明は済んでいるものの、もう少し具体例が欲しい方、いる……?

 という疑念を棄却せずに更に続けてみました。


・ネトゲをする場合

 コントローラーでPCゲームを操作する場合、まずプレイヤーがコントローラーに操作内容を入力し、それをゲーム側が受け取って反映する事で実現しています。

 もしもガーデン側のプレイヤーが操作した内容を地球側のゲーム内に反映させる事が出来たら?

 あとは地球側のゲーム内容をガーデン側の画面に随時反映させる事が出来れば、ガーデンに居ながら地球のネトゲが出来る事になります。

 本来あるべきデータのダウンロードの工程を取らず、絶えず「ガーデン側のデータを地球側のデータと同じ内容にする」事でデータの送受信が不可能な閉鎖空間からの疑似的なアクセスを実現しているわけです。

 ガーデン側でネトゲサーバーを設立した場合、そのサーバーの内容を地球側のサーバーに()()事も可能な為、地球側からガーデン内のゲームにアクセス同然の事も出来ます。


・第6話には転送装置の話もありましたね

 要するに、物体を転送装置に入れて分解して現地で組み立てるのでは無く、「常にその物体の情報が現地で取得されている」感じなんですよね……つまり同じ内容の物体が場所を隔てて二つある事に。

 ガーデン内にいるプレイヤーと地球側にいるプレイヤーが一緒にネトゲ出来ている事で実証を果たしています……本当に完全同期。


・そんなわけで

 地球側にガーデン側のデータ内容を映すサーバーがあれば、あとはガーデン側が地球内の企業サーバー各種にアクセスするような事をするだけ……その行為を地球側が何処まで許すかという話でしょうか。

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