第51話 終わりを前に黒は見ゆ
統合四日目に発生したフィールドの終了三十分前に光学迷彩されたガラスをその巨躯により突破するという登場演出で現れた、三体目となるマインゴーレム。
このゲームでは「ボーナスエネミー」と位置付けされるマインゴーレムは撃破ポイントが破格で、ダメージを与えた分だけ全体ポイントから獲得出来るのは従来のエネミーと同じ。
他の二体と違い、この三体目にはダメージを与えた際の得点に倍率が加算される処理が施されており、最初は二・五倍、三十分後は等倍になる分単位で減って行くその倍率は一分毎に〇・〇五減少する事になる。
その三十分間でマインゴーレムに何処までダメージを与えられるかという話だが石・鉄・宝石の三段階あるマインゴーレムは全体ポイントからの三等分では無く、石と鉄の二段階分を足しても宝石段階の総ポイントには及ばぬ程の偏りよう。
早い内に三段階目にしたい状況だが、一連の特記事項はアナウンスが行われていない為、実際に戦った者だけが知り得る情報と言える。
以上のボーナス要素を携えたマインゴーレムが出現してから三分が経過。
既に八割以上の部分が鉄段階となる猛攻を受け、その範囲の再生が追い付かぬままマインゴーレムの全体は鉄となる程のダメージを負っていた。
そんな三分間はマインゴーレムの体を縦横無尽に駆け回るような斬撃に魔法と言える能力の生成物による攻撃が入り乱れ、複数の攻撃が目まぐるしく入れ替わって石段階のマインゴーレムのボディを次々と砕いて行く光景を見せる。
全体が鉄段階になると有効なダメージを継続的に与えてはいるものの破壊ペースに鈍化が見られ、マインゴーレム出現から五分が過ぎた瞬間。
突如現れた全長三メートルに迫る黒い人型が繰り出した拳によりマインゴーレムの鉄部分と化した胸部が風穴が開くほど盛大に砕け散る。
二本の腕からなるそんな拳が次々とマインゴーレムのボディに浴びせられ、隆々たる筋骨による体躯を背面越しに見ようものなら、大きな二枚の翼に阻まれる。
その黒い皮膚は表面が乾燥している為、両生類よりも爬虫類に近く、外骨格生物のものと思える要素は無い。
殴打を続けていた黒い人型はやがて、血と燃え盛る炎を混ぜて更に鮮やかにしたようなその赤い鉤爪を振るう度に同じ色合いの赤い斬撃を飛ばすようになり、そんな爪による連続攻撃がマインゴーレムの受けるダメージを加速させる。
マインゴーレム出現から五百秒を待たずに全身が宝石状態になる事が確定したものの爪が放つ数多の斬撃も効果的と言えるか厳しくなっていた。
そんな中、黒い人型が両翼を広げ……角部分の色などと違って燃え盛る炎を見ているかのように朱色に彩られた飛膜が昏く青い光を帯びて行く。
やがて鮮やかに思えて暗い青色で翼全体が燃え上がり、その炎が先端を鋭利にすると共に結晶化しては続々と発射される……その様は宛ら昏く蒼い宝石の群れ。
赤紫色の宝石のようなマインゴーレムの体に多少は突き刺さると、即座に青味を含んだ黒煙と共に結構な爆発を巻き起こすのだが……そんな青い弾丸が翼から次々と常に夥しい数で発射されては爆撃を繰り広げる。
黒い人型には尾がありワニのように立派に伸びた先端の形状は若干ではあるが、矢尻のような形状に見えなくも無い。
筋肉質なその全体は鬼や悪魔を彷彿とさせる邪悪なフォルム……頭部の両側から伸びた角は手足の鉤爪と同じ赤を放つが、角の形状を踏まえて頭部のシルエットを眺めれば、それはまるで――
未だに体中が青い黒煙の花で埋まらんばかりのマインゴーレムだが、その黒煙が晴れていれば至る所で亀裂が広がり、少しずつ欠け落ちて行く様が確認出来る。
そこから多少進んだマインゴーレム出現から十一分頃。黒い人型はその両翼を用いたのかやや上空にいて、マインゴーレムは装甲車一つを優に呑み込む規模の直径を誇る雷のようなエネルギーの束を浴びせられていた。
一発が終わればまた同じ雷が放たれ、雷の色は白いのだが終わり際だけ血のように赤く染まって消える……そんな光景が幾度も続く。
黒い人型の両角の生え際の間には額が位置し、その狭い領域全てを使う瞳は縦長瞳孔で目の全域は黒く、その中で散らばる暗清色の赤と暗清色の青で模様らしきものを描いている事実に気付くにはかなりの接近が必要に。
雷を浴び続けるに連れ、マインゴーレムの体の中心辺りで黒と青の暗清色からなるエネルギーが球状に集まって行き、マインゴーレムがダメージを受ける度にその規模は大きくなって行く様子だった。
黒い人型のボディは色味の無い純粋な黒を湛えていたが、所々に引っ掻き傷のような模様が飛膜と同じ朱色で左右対称に分布し、その傾向は頭部にも。顔の風貌は人間のようではあるが目・鼻・口に該当する凹凸が無い。
顔に仮面でも被せそのまま一体化させたような形状の表面には朱色部分が三箇所あり、二つの目と口に見える程の位置関係にあるそれらは両目とも弧を描くまで細め、裂けそうなほど口角を上げるヒトか何かの表情を模しているかのよう。
そんな黒い人型頭部の左右対称模様は「嗤い」の印象を酷く受け、両側に伸びる角からなる頭部のシルエットも相まって、それはまるで――
道化師としか思えぬ雰囲気を纏った……そんな貌だった。
マインゴーレムが出現してから千秒を過ぎる事となる十七分頃。
膨らみ続けていた青の暗清色エネルギーの内部では黒い波動が荒ぶり、その直径がマインゴーレムの背丈の半分にまで迫り始めた瞬間。
光の塔――そう表すには色は黒に近く、半端な鮮やかさの割にやたらと光沢を放つ青及び黒く滲んだ青による暗い光……そんな暗清色二色に純粋な黒も入った三色が蠢くかの如く流れる様相のエネルギーの柱が現れた。
無残な姿で辺りに横たわる高層ビルの群れが直立しても、そのどれもがこの柱の高さには遠く及ばぬ為、塔という形容は的確なのだろう。
マインゴーレムの全身を包むように上空へと伸びる昏い塔が確認出来たのはごく僅かな時間で、上へと向かっていた前述の三色からなる流れは滝のように落下すると共に塔の背を低くして行き、瞬く間に半分まで減った頃――
爆煙も無く一気に広がった爆発は正に昏く膨れ上がる蒼の球体……それが完全に拡大するのを待たず内部を含めた全体に亀裂が入っていたマインゴーレムは、その巨体ごと砕け散っていた為、出現から十八分で撃破される結果となった。
今回のマインゴーレムを十八分で倒した事により本来の撃破ポイントの一・九倍が入り、今までの攻撃時に獲得していた際の倍率はそれ以上……全身が宝石状態になったのは戦闘開始から九分足らずだった。
そんな三体目のマインゴーレムが現れるまで今回のゲームで最もスコアを稼いでいたグループは一体目の宝石状態全て同然を撃破した制服少女及び二体目の横取りボーナスを遠距離攻撃で得た少女が所属するナベリウスだったのだが。
その記録も三体目のマインゴーレムの出現から五百秒足らずで突破され、今では大幅に水を開けられた形に。
僅かな時間で最大まで広がった昏い蒼の球状爆発は鉄筋コンクリートやアスファルトの建造物や地面を呑み込んでは跡形も無く破壊し尽くして行く。
青く眩い光が収まると、マインゴーレムがいた場所を中心に直径五百メートルを越えるクレーターが形成され、真上から見れば東京ドームが三つ入り、出来た隙間で更に一つ分になる面積がある事に。
尤も、地面も半径二百五十メートルの半円で抉られている為、建造の土台にするのは現実的では無いが……そんなクレーターの地表全てに先程の昏く蒼い三色の炎が燃え広がり、人の背丈半分ほどの青い炎は見る見る内に小さくなって行く。
悪魔とも道化師とも取れる単眼の黒い人型はマインゴーレムの撃破が確定した頃には消え失せていたが、あの広域爆発に巻き込まれていようと自身にはダメージを受けない作用が働く為、無傷で済む。
辺り一帯が穿たれた地表で残り香のように燃えている青い炎は次なる攻撃に利用されるものだったのかもしれないが、今ではそんな炎の勢いも弱まる一方。
群れを為していた全ての火は程なく消え去って……あとは何の遮蔽物も無い抉れた空間がその場に取り残されるだけだった。
ProgressⅤ読了ありがとうございます! よければブックマーク、相応と思った評価ポイント、感想の検討、お願い致します……となるのが当初の予定でしたが、ProgressⅥから数えて9話目に。
今回の内容の文字数まで入れた50話にする案もありましたが、本作は次の第52話で文字数20万字を迎えます。
ここまで読み進めて下さった皆様に、感謝の意と言葉を……ありがとうです。
・ちょっとだけ……m^2、km^2。
直径五百メートルの円の面積は約196,250平方メートルで一平方キロメートルは百万平方メートルなので(1K*1Kは1M)……
0.19625km^2となり東京ドームは約0.047km^2……平方メートルに直しましょうか。
直径五百メートルの円の面積は196,250m^2で東京ドームは47,000m^2。
196250/47000は4.1755...
よって今回の面積がクレーターでは無く平地で東京ドームを切り分けてでも配置していいなら、東京ドーム四つ分のスペースは余裕であるという事になります。




