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あかないキミの、異能世界  作者: 竜世界
ProgressⅥ-MAGICAL NIGHTMARE-
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第47話 移ろう山に華を捧ぐ(中編)

「お、おう……よろしくな」


 突如現れたマインゴーレムと戦闘を繰り広げる中、颯爽と現れた魔法少女ファーリーピンク。そんな少女が放った先程の攻撃による光景も相まって困惑の色を拭い切れぬままヴォルフェクスのリーダーがそう言っていた。


 ファーリーと聞こえた気もするけどフェアリーピンクとは可愛いらしい名前ね。


 段階強化型の能力を持つ、深紅の髪を長く伸ばした女性が心の中でそう呟く。


「では、先程のように大きな物体が来た時の迎撃を主に頼みたい……それで我々は攻撃に専念出来る」

「っと、その手があったか!」


 その癖毛と風貌により野性感が漂う金髪の女性の発言に感心しながらヴォルフェクスのリーダーは引き続きリボルバーを構えた。


 浮遊能力とは珍しいけど……遠距離攻撃持ちには是非とも欲しいわよね。


 暫くしてファーリーピンクの戦いぶりを眺めていた深紅の髪の女性が思ったが、浮遊し続ける事に制限がある様子は無く、残った石部分を攻撃せよと言われた通り不自由なく移動してはチャージ式のビームやショットを当てている。


 球状のショット攻撃は着弾時に爆発し、連射式かサイズを肥大化した単発式かをチャージ時に選択……他の攻撃同様にピンク色を放つ。


 ファーリーピンクは自在に飛行しているが速度も旋回性能も遅い事から、それと引き換えに飛行制限が無いのでは? と金髪の女性が思っていた(おおむ)ねその頃、リボルバーの男性が引き金を引く。


「来たぜ!」


 それは少し前に弾倉内に生成された弾丸まで辿り着いた事への歓喜の叫び。


 装弾数八のリボルバーという事は同じサイズの拳銃でも装弾数五の弾丸より小さくなり、火薬がそれだけ減る分、威力が劣る事になる。


 拳銃が抱える構造的な火力問題をヴォルフェクスのリーダーの能力は「発射中に弾丸のサイズを本来のものにする」という芸当により解消。そのサイズは百ミリ強の口径に及び、中に詰まった炸薬も能力により威力が強化されている。


 リボルバーから放たれるや百ミリサイズに変化した弾丸がマインゴーレムの胴体に命中すると、この戦闘が始まって以来の大規模な爆発が起こり、赤熱した爆炎が大量に上がる様は壮観の言葉を冠するに相応しかった。


 マインゴーレムが出現時の強度のままで二メートル程度の体躯ならば、この爆発により胴体は砕け散り、残る五部位が爆風に煽られ暫く飛んでいただろう……しかしマインゴーレムの体躯は五メートルを越え、全体強度もアイアンに迫る。


 ソリッドとしてのアイアンは鉄と鋼鉄の中間となる強度を誇り、そんな金属的な部分が一層の増加を見せマインゴーレムが後ろへ()()るだけの結果は得られた。


 この程度ならばマインゴーレムは体勢を問題無く立て直せるのだが……その状況を見て、深紅の髪の女性は行動を起こす。


 薔薇マーカー設置用のエストックに斬撃用の蛇腹剣、シアンの色を帯びた風による攻撃。それらとは異なる能力が発動され、両足で踏み止まろうとしていたマインゴーレムの動作を阻止……仰向けに倒れる結果へと導いたが。


「ぐっ……」


 使用した能力は「対象全体の関節情報を取得し、それを部分単位で此方の意思通りに強制的に動かす」もの……対象が人体に近い構造であるほど効率的に動かせ、有効気味なのは獣や節足動物辺り。


 関節情報を一切取得出来ない軟体動物や不定形のものは対象外となる為、「球体関節造形化が容易なもの」と考えるのが略式的かもしれない。


 『マリオネット』と称されがちのこの能力は強制的に動かす際の適用範囲を部分的にする事で必要な力の量を抑えるのだが動かした重量分に応じたコストを消費しその負荷は使用者にも伝わる……今回は深紅の髪の女性が思わず声を上げるほど。


 マリオネットを使用した瞬間、今まで金色を維持していた薔薇のマーカーは一瞬にして一段階下の薄ピンクになるや白から水色へと一気に変化して消滅した為、コストがそこから支払われている事が判る光景でもあった。


 女性が(かす)かに上げた声はマインゴーレムが地面に倒れた際の衝撃とその(さま)を見たヴォルフェクスのリーダーが上げた歓声により掻き消え、深紅の髪の女性の能力は初期の強化段階まで戻った。


「これは……行けるぞ!」

「よーし、焼きはらえー!」


 ファーリーピンクも浮かれた様子で存分にチャージしたピンクの炎で横たわるマインゴーレムの全体を包む。これによりマインゴーレムの金属部分は八割強に。


「俺も続くぜー!」


 手榴弾生成を行い爆発を見届けては引き金を引くリボルバーの男性……三セット目が始まる頃にはマインゴーレムは起き上がり、その動作は浴びせ続けられている爆風をものともせずといった様子。


 ダメージは入っていた為、ビーム少年の追撃もあってマインゴーレムの金属部分は九割越え。


 深紅の髪の女性は近場の建物に入り薔薇マーカーのレベルを着々と上げていたが金色の薔薇に戻るまでには、まだまだ時間が掛かりそうだった。


 そろそろナイフを何本か使い潰す事を考えるか。


 そう思い至った金髪の女性は六本のナイフを一箇所に留まらせ、立て続けに当てては引くを繰り返す攻撃をマインゴーレムに開始。


 円状に整列した六本のナイフの一本がその挙動で突撃する度に六本全てが回転して次のナイフが、と繰り返される様はガトリングの挙動に近いものがあった。


 マインゴーレムの全身金属化が完了するや生成して来たものは鉄の塊も同然……それを見て、リボルバーの男性が発言する。


「頼むぜ、嬢ちゃん!」

「任されたー!」


 チャージ中だったファーリーピンクはピンク色のビームを鉄の塊のド真ん中と言えそうな箇所に直撃させるが、


「ありゃ、チャージ足りなかった?」


 ビームが鉄塊を貫通せず速度が弱まる程度だった事に首を傾げる事に。


「ま、おかげで余裕でよけれたぜ!」


 未だ上機嫌なリボルバーの男性の蓄積ポイントは二十目前で、発言と共に放った結果は無効弾十、通常弾九、強化弾一……九ポイント失う結果に。


「攻撃を一箇所に集中させてヒビが入るか試したいところだが……」

「じゃあボクがやります!」


 金髪の女性の発言にビーム少年がそう言って来たので、


「……では腹部辺りを狙うぞ」


 何かを思い出している様子を垣間見せつつ、金髪の女性はそう返した。


 その後は金髪の女性が先程から六本のナイフで執拗に攻撃し続けている箇所に、少年が青白いビームを浴びせて行く。


 程なくマインゴーレムは生成する塊一つ分の先端を鋭利なものにした上で二分割にして放って来た……射線上にはそれぞれ金髪の女性とファーリーピンク。


 ファーリーピンクは斜め上に飛来した塊を下方向に移動する事で回避し、金髪の女性は一旦周囲の建物の中に逃げ込む事でやり過ごす。


 その間もローテーションで突き刺さる六本のナイフは操作され続けており、ビーム少年の一撃による爆発が収まると、その攻撃箇所を見ながらリボルバーの男性が発言。


「何か宝石みたいな部分が出来てるぞ……?」

「じゃ、じゃあ今度は……全身が宝石になるまで?」


 ボーナスエネミーと言うだけあって事実上の第三形態もあるのか、といった様子で男性二人が動揺する中、同じ考えを持った金髪の女性が指示を出す。


「……集中攻撃はここまでだ。攻撃出来る時に攻撃出来る箇所を狙ってくれ」

「あ、はい……!」


 ビーム少年がそう答えてから暫くすると、


「まさかあれ、クリスタルと同じ強度だって言うんじゃ無いでしょうね……」


 深紅の髪の女性の呆れた声が響いた。薔薇マーカーは金色まで戻り、エストックでマインゴーレムにマーカーを設置すればマリオネットのコスト消費が軽減され、シアンの風を使い続けるだけならばマーカーに貯まったコストは消費されない。


「クリスタル? あの何か赤紫色の宝石部分がか?」

「えーと……ソリッド、の?」


 ルビーとサファイアの間に置けば両者の中間に位置すると思える程の赤紫色を放つ透明度を誇った、あの結晶体らしきものがクリスタルのソリッドと同じならば、その強度はモース硬度でいう八・五に相当する事に。


 マインゴーレムの全体が今後はそんな代物に変化するという事実の兆しを前に、男性二人の間で困惑が走る中、女性二人が発言。


「……今の金属より壊し易いって事は無いわよね」

「攻撃あるのみー!」


 不安の色を帯びた表情のままに声を出した深紅の髪の女性に対し、ファーリーピンクの声と表情は能天気とさえ言えた。


 もしもここに同じ魔法少女と思われるニアリーブルーが現れれば感情的になってファーリーピンクへと襲い掛かり、ファーリーピンクもその事態に疑問を抱く事無く応戦するだろう。


 ファーリーピンクの方からニアリーブルーを目撃した場合でもその光景が訪れるのは、両者の関係を知っていれば余りにも明白に予想出来る事であった。



・ファーリーとフェアリー

 前話後書きの通りfarlyは造語気味。

 妖精はfairyですが公平なfair+lyの「fairly」もあって、まあまあ、かなりという意味も前面に出るように……しかもこの二つの英単語、そこまで大きく発音が違わないという。


・球体関節造形化が容易なもの

 判り易いからと「球体関節人形でいいじゃん」としてしまうと蜘蛛や蟹や獣などが対象外になってケンタウロスなどの半人獣半獣の扱いに困る事に……ここで重要なのは全体の造形では無く部分的な造形。


・マリオネットについて

 人形に糸を繋げて操る光景を描けば話が早いものの本作では既に「目の前の本を能力で動かす場合」問題を精密操作が苦手で一度に大きく動かせるベクトル付与、精密操作した分だけ消費が大きくなるテレキネシスが本編と後書きで既に登場。

 本が対象の場合、今回のマリオネットだと本全体に関節のように分割されている部分が無いか走査し、大まかに捉えれば背表紙に軸が一本通っている判定になってその開閉が出来るだけになる感じです。

 対象が人体のような複雑な構造を持つもの。要するに「関節による分割部分が豊富」でその分割部分を個別に強制的に動かせる上に、部分的に動かす事で低コストで済む……それが本作のマリオネット系能力の強みと言えそう。

 一枚の紙や縄、ナメクジのような軟体動物などは「ここに関節がある!」という断定要素が無い対象にこのマリオネットを使って関節数ゼロと判定されれば、能力自体が発動しない仕様だったりします。

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