第43話 はじまりは氷山から(前編)
統合四日目の廃墟都市マップでアラーム付きメッセージとその情報が発せられてから三十分前後。
ワインレッドの瞳を湛えピンクの髪をツーサイドアップにした少女が金色の大きな鞭を手にしながら向き合うは、オレンジ色の瞳で毛先がヨーグルトのような白さとよく馴染む赤紫色へとグラデーションする髪を伸ばしたツインテール少女。
そんな少女がピンク髪少女の周りに生じさせた碧色の炎が一斉に停止するや灰色を帯びて行くと共に石化……全体に亀裂が入って砕け散るとミーティアブラストのドラムを担う少女が叫ぶ。
「よーし! 鞭のレベルがあーっぷ!」
「結構掛かったねー……にしても折角ばら撒いた炎が石化されるって、普通に恐怖だ……まだ上げる―?」
「この辺にしとくー」
「わかったー」
そんな団欒とした二人の様子を周囲の警備ロボットを倒しながら遠巻きに眺めていたミーティアブラストのボーカルとギターに当たる二人が発言。
「一気に平和になったね」
「サリーはさっきの青いエネミー引けない方が気になる」
真珠の髪を野性的に伸ばした少女の言葉にネオンイエローでサイドテールの少女がそう返してから少しして先の団欒少女二人と合流……警備ロボットを見つけては倒すも一向に巨大青エネミーは引けず。
そんな中、長い青髪をポニーテールに束ねた少女に「ねぇ」と声を掛けられるのだが……こんなにも緊張感に乏しい状態となった経緯をツインテール少女が三人の前に現れた辺りまで戻って探るのも選択肢だろうか……。
その頃はボーカルのマイとドラムのアンが発言する場面でもあった。
「ボーナスエネミー?」
「このシルエット……素直にゴーレムかなー」
同意見だったギターのサリーが黙する一方で突如現れたツインテール少女による碧色の炎の量が周囲で次第に増して行く。
「あのー」
そんな有色の炎と言えるものを発生させる毛先グラデーションの白ツインテール少女が場違いな声を出すや、続けた。
「登場する所からやり直したいんだけど……いいかな?」
その言葉を受け、マイは「おっけー」と言うと残る二人の方を向き、
「じゃ、それっぽいアドリブも入れよう」
続いた提案は残る両者の頷きによって了承された様子。ツインテール少女が近場の物壁に隠れ、巨大青エネミーを撃破した直後の体でマイ達が発言する。
「手強いエネミーだった……」
「あんなのが、いるなんて」
「これでもう……終わったよね?」
その重たい空気を見計らったかのようにツインテール少女が「ふーん」と呟くとまたもマイから発言が始まる。
「だ、誰⁉」
「人影なんて……見当たらないのに!」
「いったい、何処から!」
そんな三人に対し、ツインテール少女は少し前と同じ発言をする。
「あ、気付いた……じゃあ、さ」
自身を三名の正面に位置する碧色の炎と入れ替え、急速に蒸発する有色の炎の中からオレンジ色の瞳の少女が現れるという事態を実現し、こう続けた。
「挨拶……しておこうかな」
意味有り気な呟きの中で、ツインテール少女の緑色の髪飾りがプラスチック相応の光の反射を見せていた。
辺りが筆舌に困窮し兼ね無い空気を帯びる事となったのは必然なのだろうか……やがてマイがツインテール少女に向け、真顔で言葉を放つ。
「……で、誰なの?」
サリーも同じ意見だった為、またも発言を見送るが……アンは違う様子だった。
「私はねー」
ツインテール少女が能力の生成物であり碧色の炎の発生源とも言えるエメラルドのような結晶体の一部を自身の手元へと移動……結晶体は碧色の炎の量と共にその体積を増していた。
分割も変形も自在で、蛇腹剣の挙動を真似る事も可能なその宝石質感の結晶体を少女は文字を描く為に使用……三つに分かれた手元の結晶体のそれぞれが、大文字のアルファベットを描いて行く。
常に浮遊させて自在に動かせる結晶体を縦軸に百八十度回転させる事でマイ達に読ませようとした少女だったが、反転させる前にマイは読み上げた。
「ゆー、あーる、える……?」
回転は果たされ、マイ達から見て左からU、R、Lの文字が見えていた。
「ユニフォーム、リソース、ロケーター……だっけ?」
サリーが疑心暗鬼にそう発言。ネットのリンクを表す文字列、URLを略さずに言った場合と一致してはいたが……正解を知るアンが苦笑気味な声で言う。
「……ユーアールエルの三文字で合ってるんだよなぁ」
「丁度うらるって呼び方もするからさ、これ」
「ウララって可愛いくする選択肢もあったのに」
「でもそれだと、リーダーと語感被るし」
仲良く話し始めた二人の会話内容から、マイが発言する。
「えっ。って事はユーアールエルさんの所属……」
「うん、クララちゃんとこのルプサだよ。あと私の事はマユちゃん辺りがいいかな……登録名じゃ呼び辛いもん」
本日投稿した動画の撮影の際にマイ達はルプサのリーダーであるクララことクレイミー・ライルマンとの顔合わせは果たしていた。
マユと名乗った少女に至っては氷芽野麻由が本名。
両親は当初、繭と名付けようとしたが子供でも容易く書ける漢字を採用……そんな経緯よりも氷芽野麻由はルプサの所属歴が長いという事実の方が重要だろう。
統合初日の情報にあった有色の炎使いは流入者である事が絶対条件……統合元のガーデンが出身の氷芽野麻由は該当しない。
「待って、ルプサってもしかして……」
サリーの頭の中にL、P、S、Aの四文字が浮かび「アルプス」と読める順に並び変わろうとした時、元となった文字列の最後にUを足した少女が言う。
「そうだよー」
「登録名はわけ分かんない方がいいけど統一感は欲しいよねって流れになって」
続けてそう述べたのは髪の大半以上が白い、元となった文字列から二文字目を抜いたツインテール少女。
「アルプス、アンデス、ウラル……」
またも発言内容をマイに言われたサリーは頭の中に「山脈」という文字を浮かべるに留めた。
訪れた場の空気を表す一文字は、氷と闇、どちらがより適切か――
暫くしてマイとサリーは気を取り直すべく、周辺の警備ロボットの討伐の再開を決め、山脈少女二名はアンの能力のコスト稼ぎをする事に。
アンの髪色は金髪のような光沢を放つ事も踏まえてピンクゴールドだが……青髪ポニーテール少女が「ねぇ」と声を掛けて来る場面まで戻せば、その発言は更に続いていた。
「魔法少女を見掛けなかった? ピンクのツインテールで、マゼンタの宝石をはめたステッキを持ってるんだけど」
少女の装いは両肩と胸元を大胆に露出した水色のドレスで所々にあるリボンの色はその鮮やかな青髪を圧倒する程の強烈なウルトラマリンを湛える。
そんなリボンがドレスの胸元を結び、スカートの裾では点線を描きながら一周するように通されており、両方にある長手袋気味の長さのグローブは手全体を覆っているが、その手袋及び瞳の色も同じ発色のウルトラマリンだった。
短めのブーツはドレスのデザインと合わせた水色で……彼女もまた魔法少女と思しき様相を成していた。
「えっ、とー……?」
「あー、サリーは見てません」
自分達も負けじとカラフルな風貌ではあるものの突如現れた魔法少女のビジュアルに目を見張りそうになるマイとサリーだったが……アンは魔法少女が携える剣の方を眺めていた。
纏うドレスはやや青色に寄った水色で、剣の鍔と柄は金色だが縦にも横にも体積を占める、人の背丈にも及ぶ程の刀身部分はまるで鮮やかなターコイズの色がそのまま透明度のある宝石になったかのよう。
内部に蓄えられた数多の輝きの中には前述並の鮮やかさを放つウルトラマリンが時折生じ……そんな大剣は彼女が近接型である事を誇示していた。
「どれくらい探してるのー?」
氷芽野麻由の言葉を受けた青い魔法少女は独り言でも放つかのように、
「ゲーム開始からずっと……高い所から探しているのに、見つからない」
気の強そうな少し低めの声を一層力強くして、更に開いた口からは小声ではあったが「殺さなきゃいけないのに」という言葉通り、確かな殺意を帯びていた。
「気分転換するー?」
氷芽野麻由の声色は気さくだったが、今も尚周囲で増え続ける碧色の炎が育てたエメラルドの結晶体は柄の無い両刃の斧を形成しており、周囲の碧色の炎の一部も集まって来ていた。
「そうね……何だかイライラしてたし、このわたし――」
次の瞬間、青髪ポニーテールの魔法少女の姿を大剣ごと青で塗り潰したかのような影が現れ、地面に足を付ける事無く浮かぶ様は、その場に佇むかのよう。
「ニアリーブルーが、遊んであげるわ!」
叫び声と共に最初に攻撃を放ったのは氷芽野麻由の方で、傍にあった碧色の炎が従来の炎の色となって火球のように放たれ……その着弾を待たずに魔法少女と山脈少女は動き出し、戦闘が始まった。




