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あかないキミの、異能世界  作者: 竜世界
ProgressⅤ-RAVEN-
40/67

第40話 鉱山が移ろえば(中編)

 統合四日目に突如現れたゴーレム型エネミーに真っ先に遭遇した三人組と今のところ戦力外の制服少女……戦闘が続く中、突如現れたのはルプサのリーダーとオーバーゼウスの残党。


 先程の円月輪は自分に当たらぬように誘導したものだと捉えた雨縞瑛美は始めて見る女性二人と言葉を交わす。


「加勢してくれるって事で、いいのかな?」

「まー、撤退する事になっても面倒見るわよ」

「さっきのチャクラムはクララさんの指示通りに動かしたけど、普段はあそこまで上手く扱えないから、お役に立てるかなぁ……」


 建物の五階から手榴弾を投げていた史邑霙は以前クララと会っていた為、状況を飲み込むや言葉を発す。


「あ、あなたは……⁉」


 クララはすぐに史邑霙の存在に気付き、見上げるや軽く手で挨拶する。


「あら、また会ったわね」


 そんな状況を見ていた弥原細と制服少女が言う。


「な、何だか分からないけど……」

「こうげき、さいかーい」


 会話の為に止めていたクララのガトリング砲の重低音が号令にでもなったかのように各々が攻撃を再開する。


「私、ヒビが入った所を重点的に狙いますね」


 ゴーレムに近付けばクララの射撃に巻き込まれる雨縞瑛美は時折鎌を手動回転させながら的確な攻撃箇所を見つけては鎌を投げ、クララはそれに合わせるかのようにその都度ガトリング砲の弾丸軌道の一部を一括したベクトル付与で逸らす。


 函辺(はこべ)成寿奈(なずな)の円月輪はガトリング砲に巻き込まれても次を生成すればいいので、お構い無しに投げ込まれて行く。


 生成される石の塊は常にクララの能力の対象外だが、周囲の瓦礫をぶつける事は問題無く出来る為、今のところ脅威では無い様子。


「ちょーっと、キミたち」


 突然、クララが手を止めたので一同は攻撃の手を止め……その様子を確認したクララは更に発言した。


「すっかり金属ボディになった胴体部分の金属部分に攻撃を集中させて……確認したい事があるの」


「では私は休んでます……こうも手榴弾を投げ続けるのは流石に疲れが」

「じゃ頑張って徹甲弾で狙い撃つ」

「チャクラムのコントロール……頑張ります」


 そして雨縞瑛美が「おっけー」と言う中、制服少女が相変わらず陽気な声。


「じゃ、あたしは後ろに回って観察してまーす」


 ゴーレムの金属化の進行度は七割以上と言ったところ……程なく始まった全員による集中攻撃は苛烈な光景を生み出し、このマップに存在する警備ロボットの中でも大型のものが同じ攻撃を喰らえばその凹み部分に穴が開くのも時間の問題。


 相当なダメージがゴーレムの胸部に浴びせられただろうか……クララがガトリング砲による攻撃を止めると一同もそれに続く。


「む、無傷……?」


 ヒビどころか傷一つ無いその箇所を確認した史邑霙は愕然とした表情。


「と言うか、攻撃してない所が金属化……?」

「後ろから見てたら石っぽい部分がどんどんメタリックになってたよー」


 弥原細と制服少女がそう発言し、クララは「どうやら……」と確信にも似た様子で呟くと雨縞瑛美の意見が出る。


「金属が受けたダメージは全て……」

「石の部分が肩代わりー。まずは全部メタリックにしないとダメそうだねー」


 髪も瞳もスカイブルーのボブカット少女は一番美味しい所となる台詞を発したがそれは雨縞瑛美と史邑霙とクララが半信半疑に抱いていた見解でもあった。


「生成される石がもう金属でコンクリート瓦礫じゃ迎撃が難しくなって来たわね」

「チャクラムで砕けなくなって来たどころか弾かれるように……」


函辺成寿奈の円月輪の加速は最初だけで、軌道は操れても速度は増やせない。


 その条件で弾かれるようになったと言う事はもうゴーレムが生成する塊の迎撃に参加する事が出来なくなったのと同義。


「とりあえず全身が金属になってから何処までダメージが通るかの確認だけでもしておきたいわね」

「すっかり金属みたいな生成物を誘導したいけど……何か大きな塊じゃ無くて、それを分割したように先端尖らせたのを複数放つように……」


 雨縞瑛美が言ったように能力の生成物である強度増加の影響かゴーレムは一度に生成出来る体積を分割して放つようになって来ていた。


 函辺成寿奈の円月輪と違い、ゴーレムが直接生成したものなので終始攻撃意志が宿っている為、クララのベクトル付与の対象になる事は無い。


 そもそも自在に操作されている能力の生成物がこの状態のクララのベクトル付与の対象になる事はまず無いのだが……函辺成寿奈が円月輪を扱う際に相手を攻撃する意志と武器を操る意識を疎かにしがちなのが要因として決定的だった。


 さて、大きな塊で投げられるよりも小分けにされて複数発射される方がまだ対処はし易く、雨縞瑛美に至っては大鎌で防いでいる。


 身近な金属には鉄があり、比重は七・八五。一辺五十センチの立方体から少し高さを伸ばすだけで一トンに至るが……体積が同じ前提ならば体積に乗算する比重の数値が変わるだけの為、変化した比重から変化前の比重を除算すればいい。


 一連の例に基づくならば鉄の比重からコンクリートの比重を割れば(およ)そ三・四倍の重さの増加を果たした事になるが、少なくともゴーレムの石の比重と金属の比重が異なるのは事実ではある。


 ゴーレムが生成する塊の強度と重量が増えた為、クララは周囲の瓦礫から大きなものから一つ選ぶだけで済んでいたものが複数用意する必要性が出て来た。


 ダメージソースとなっているクララのガトリング砲は弾数制限では無く一定コストを下回るとそのコスト帯の段階……アサルトライフルに戻り、ベクトル付与を使う回数が(かさ)めばその分だけコストを多く消費する。


 雨縞瑛美のように自前の生成武器で攻撃を防げても、弾いたものの強度が高ければ生成武器の強度が減るペースも早まる。このまま長期戦を続けるには厳しい要素が次第に増えて行く状況だった。


「多分だけどー……石の部分を攻撃した方がダメージを与えられそうだわ」

「でももうどこを見ても金属部分ですよ……」

「裏側のメタリックっぷりも正面とそんなに変わんなーい」


 クララが先程と同じようにガトリング砲を一旦止めて指示を出すと史邑霙の呟きに続いた制服少女が言う通り、ゴーレムの金属部分は全体の九割目前だった。


 その後も何とかゴーレムへの攻撃を続け、最早金属の塊となった生成物の誘導を走り回るだけで引き受けようとした制服少女がその塊に貫かれゴーレムの拳の下敷きになるのを目撃した史邑霙だったが、


「大丈夫だった!」


 平然と皆の前に一切の傷も汚れも無く現れる制服少女を見た直後に次の攻撃が来たからか、自らが見た光景と記憶に疑問を抱く暇も無く緊張感を高めていた。


 それから幾らかが経ち、遂にゴーレムの全身が金属となり、「キミたち! 同じような場所を狙って!」と叫び、やがて始まった胸部への集中砲火。


 ダメージを肩代わりする石部分が無くなったのならば、これで本来のダメージが与えられるようになり攻撃箇所にヒビが入る事が期待出来る。


 ゴーレムの裏側に回った制服少女が生成された金属の群れに貫かれるや踏み潰されていたのも知らずに続いた攻撃は、またも制服少女が何事も無かった様子で発した報告によって止まる。


「宝石みたいな部分が見えるよー!」


 攻撃音が鳴り響く中、月村(つきむら)学園の制服を着た少女が叫び声を上げていそうな様子を見たクララは攻撃の手を止めたが……丁度ガトリング砲がアサルトライフルにダウングレードするタイミングでもあった。


「え……って事は」


 弥原細が今にも顔色を青ざめさせそうに呟き、史邑霙がその続きを言う。


「今度は金属部分が宝石のダメージを肩代わり……?」

「やっぱりこの金属って、そりっどー?」


 髪も瞳もスカイブルーの少女の言葉を受け、雨縞瑛美とクララが発言。


「じゃあ、あの赤っぽい部分は……」

「クリスタル……って事になるわね」


 このゴーレムは全体の材質と強度と比重が二度変わり、一同の見解の通り、第二段階と第三段階の強度自体はソリッドと同じで、前者はアイアン、後者は『クリスタル』と呼称される。


 ソリッドでのアイアンの強度は鉄と鋼鉄の間……鉄と同じ強度では厳しく、鋼鉄と同等ならば上回る。


 能力の生成物の硬度は、その能力の生成物が有する値を基に実在する物質に換算したもの……アイアンのソリッドは実際の鉄に近付くような強度と比重を設けたものと言えるのかもしれない。


 鉄のモース硬度が四に対し石英は七だが、クリスタルのソリッドをモース硬度に当てはめるならば黄玉(トパーズ)鋼玉(コランダム)の間の八・五辺りとなる……IGCテクノロジーが誇る合金ナイフで多少の傷は付けられる辺りか。


 ゾーンで発見されているクリスタルは主に透明度の高い無色と呼べるものだが。有色のクリスタルもあり、その色相は定まっていない。


 今回のゴーレムに至ってはルビーとアメジストの中間となる色合いの水晶と言ったところでアイアンと同じ強度の時の比重は八だったが、今回のクリスタル部分は二十と金をやや上回る比重に。


 能力の生成物にとって比重は後付けのようなもの……雨縞瑛美の鎌が他の一般(ジェネラル)が生成する武器と比べて重く、その比重が変わらぬまま強度だけが上がって行く例を挙げるだけで実感に至れるかもしれない。


 クララは(なお)も攻撃の手を止めており、少なくともクリスタルの段階で最後となるであろうゴーレムは全身がクリスタルになってやっと実質的なダメージを与えられるようになる……そう考えるや直ぐに発言した。


「アタシはもう撤退したいけどー……まだ粘りたい子はいるー?」

「はいはーい! あたしはお先に失礼しまーす!」


 クララが手元のアサルトライフルをコスト取得用の縦長正八面体に切り替えたがその色は白かった。


 気が付けばゴーレムの監察結果を報告するようになっていた制服少女は半壊前後だらけの建物から建物を抜けて行き、立ち去る事にした様子。


 クララの武器がガトリング砲では無くなった事により雨縞瑛美も最早戦闘を続けられる状況では無いと認識し、


「そうしますかー!」


 投げやり気味にそう返すと、函辺成寿奈が言う。


「一応、私の大技が結構溜まってるけど……」

「別なエネミーの戦闘に備えて温存よねー」


 クララの言葉に「ですよね」と函辺成寿奈が返し、撤退する流れが形成される。


「上手く逃げられるとよいのですが……」

「いざとなったら普段対象に出来ないものもアタシの能力の対象に出来る大技あるからー……まずは皆、アタシの所に集まって」


 史邑霙にそう返したクララが皆に伝えてから暫くして、同じ褐色少女である弥原細と函辺成寿奈が隣り合い……弥原細が程よく黒ずみ、函辺成寿奈が小麦色に焼けた肌が赤味を帯びたような肌の色合いという事が判る状態に。


 そんな一団にゴーレムはまだアイアン強度の先端の尖った塊を複数飛ばして来るが……そんな遠距離攻撃が出来るが故に本体が追い掛ける事をしなかった為、雨縞瑛美が鎌により防御する事でその射撃を軒並み防ぐ内に遠ざかられる。


 やがてクララが金色領域を展開する事無く、ゴーレムが攻撃して来なくなる場所まで進み、五人全員が逃げ延びた。


 ゴーレムの周囲から人気が無くなってから暫くすると……一人の少女が建物の中から現れ、ゴーレムの金属と僅かにあるクリスタル部分を眺める。


 石を攻撃し続ける事で鉄を出現させ、鉄を攻撃し続ける事で宝石のような水晶を出現させるその様は、まるで鉱山で採掘でもしているかのよう。


 マインと読む英単語は所有代名詞の他にもあり、スペルが同じにも(かかわ)らず前者とは異なる単語で、地雷や鉱山を意味するが……このゴーレムにコードネームを与える場合、なかなか適した意味合いを含んでいると言えよう。


 そんな『マインゴーレム』を眺めるのは髪も瞳もスカイブルーで月村学園の制服を着たボブカットの少女。危険を顧みずマインゴーレムの観察に戻ってきたようだが、拳が届く距離まで近付いた為、マインゴーレムの鉄拳が叩き込まれる。


 見事に上から押し潰され人体を構成する要素の全てが平らになった少女を他所(よそ)に五メートルを越える体躯に釣られてマインゴーレムに近付く人影が五つ。


「これが、ボーナスエネミー」


 周囲に鉄球らしきものを八つ浮遊させる背がかなり低い少女が呟き、


「先客が既にいたみたいけど……あの宝石みたいな部分を見て諦めたのかな」


 オレンジ色の槍を手にした赤いリボンを後ろ髪で飾る少女がそう言う。


「高い防御力を予想」


 相変わらず透明状態の球体三つ全てを蛇腹剣にしているオッドアイ少女の姿。


「まずはここから……それじゃ私は控えめに行動するね」


 水色の鎖型アクセサリーを両腕に巻き、黒い乾坤圏(けんこんけん)を両の手にした少女が発言。


 そんな四人組の後ろにはピンクゴールドの山羊の頭蓋骨を(いばら)の模様で飾り、深紅のローブを纏った女性の姿が。山羊の頭蓋骨の正面から見て左側は幾らかのヒビが入っていた。


「ローズハート様は、私が」


 レイヴンのN――ニゲラフロッブがそう言うと、他のメンバー三名は何も言わずにマインゴーレムへの攻撃を開始。


 その様子を手頃な建物の階層から、未だにこの場にいるボブカットの少女が眺めており……その身に纏う月村学園の制服は白を基調としてはいるが、ゲーム開始から時間が経過して尚、これ程まで汚れた形跡が見当たら無いのとは別の話か。



()(じゅう)について

 ある物質の密度と、基準となる標準物質の密度との比……単位表記が無い。

 密度は物質の単位体積あたりの質量で、水の密度は摂氏4度で最大になり、この時の比重がほぼ1になるので水1立方センチメートルは1gで一辺1メートルの水は100*100*100で1,000,000gなので1トン。

 ……計測時の気圧の件からは目を逸らし「水の比重は1」で後書きを進めます。


・コンクリートの比重

 普通のコンクリート2.3、高強度コンクリート2.4、鉄筋コンクリート2.45……と細かくて、セメントモルタル2.1でアスファルトコンクリート2.5だそうです。

 前述の通り一辺1メートルの立方体の体積に水の比重1を掛ければ1トン。立方体が普通のコンクリートなら2.3倍になるので2.3トン。

 このように、体積と比重が判ればその物質の重さを求める事が出来ます。


・この後書きの本題はこちら

 本編で使った比重は他に鉄7.85で前回、


「コンクリートの比重を二・三とすれば一辺八十センチメートルの正方形が六十八センチメートル近くの厚みを持てば一トン」


 と言いましたので、これから先に……以下はメートルで計算していますので0.8とは80cmの事です。


 0.8*0.8*0.68=0.4352。更に*2.3すれば1.00096ですがそれなら先に1/2.3しておいて0.43478260...という数値を求めておくのも手……?


 というわけで鉄だと1/7.85=0.127388535...なので。


 0.5*0.5*0.5=0.125だと足りなくて0.5*0.5*0.51=0.1275となるので本編では「一辺五十センチの立方体から少し高さを伸ばすだけで一トンに至る」とした次第です。

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