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あかないキミの、異能世界  作者: 竜世界
ProgressⅤ-RAVEN-
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第38話 空潰えて、出づるもの(後編)

 ミーティア・ブラストの三名はルプサのメンバー、アンデスが二人を自分の部下というシステム上の名目により従来のグループの処理同様、ゲーム参加時に「選択したメンバーと同じ場所に出現」という選択肢を与えられる。


 これによりメンバー勢揃いで同じ場所に出現する事も出来れば、班ごとに分散させる事も可能な、毎回固定面子で活動したい際には重宝するグループ機能。


 統合四日目となる今日のマップでも上記三名は昨日に続き、じゃんけんで決めたメンバーと同じ場所を指定して行動を共にしていた。


 遭遇する警備ロボットを素早く倒し、寄生エネミーも出現と同時に集中砲火……特にギター担当のサリーの能力はコスト消費無しで氷魔法が使い放題の為、残る二人の能力強化と並行しながら順調に廃墟となった市街地を探索する事が出来た。


「最上位エネミー引けないね」

「サリーとしては中程度の寄生エネミーを次々と引き当てるのもいいと思う」

「とりあえず能力強化の効率優先かなー」


 時間が過ぎゆく中、遂にはアルテリアペンタスがその最上位エネミーを潜ませていた警備ロボットを破壊し、上空に形成されて行く巨大青エネミーの存在に三人は気付く。


 アルテリアペンタスはピンクゴールドの山羊頭蓋骨女性を連れて、その場から離れる内にニゲラフロッブと合流した為、この三人組と遭遇する事は無かった。


「それっぽいのが上に」


 真珠のような髪を野性的に伸ばした少女が五段階目まで強化された能力の生成物――レールガンを構える。


「じゃ、サリーはいつもので」


 正面から見て左側にネオンイエローの髪をサイドテールに束ねた少女が六つあるスキルから「コスト回復速度上昇」と「氷武器生成」の二つを消費し「冷気チャージ速度上昇」と「氷着弾時の冷気爆発付与」を強化。


 消費したスキルが復活するまでの間、氷の魔法を行使する度に冷気爆発(アイスボム)の効果を増強する為、大きめの氷塊を連射するだけでもかなりのダメージになる。


「じゃ、私はこの鞭で周囲を警戒してるー」


 ピンクゴールドのツーサイドアップの髪にワインレッドの瞳を持つ少女が振るうのは強化が五段階まで進んで柱と思える程の太さとなった金色の鞭。相変わらず蛇の鱗のようなもので覆われているように見えるが、その材質も強化されている。


 四段階目までは実際の金と同じ質感だったが、この段階になると反射する際にマゼンタの色が見られるように。


 アンデスの能力は強力な遠距離攻撃を撃てるが、その後は鞭の強化状態が初期に戻る為、今日のように温存しがちになる運用傾向が目立つ。


 暫くすると大きな瓦礫が飛来し、この鞭でなら易々と砕ける事が判明……真珠髪の少女マイとサイドテールの少女サリーが射撃を行い、アンは瓦礫の迎撃。


 アンデスは鞭自体を操作出来る為、鞭の長さが多少足りなくても、その大きなサイズの鞭が充分に見える段階まで浮上させる事も可能。


 鞭を最大の長さまで伸ばさずとも届く条件で(ふる)う事が出来る状況だった為、金色の鞭が隙を見て巨大青エネミーへの攻撃に参加する場面も幾つか見られた。


 そんな攻撃の中でもマイのレールガンは一発一発の威力が高く、巨大青エネミーのボディが透明で無ければ、着弾時の爆発が発生する度にその全体を大きく歪めていた事実に彼女達は気付けただろう。


 弾速を電磁力で高める実弾兵器であるレールガンの威力を理解するには、まずは拳銃による弾丸が訓練用の的に命中した際の事から考えるのも手だろうか。


 運動エネルギーと熱量は同じ単位で表せる為、拳銃の弾丸が的に命中した際に、弾速による運動エネルギーは(ゼロ)になり失われた運動エネルギーの全てが熱量に変換されたのならば、的の材質と受けた熱量に応じた影響が出る。


 木材の的ならば摩擦熱を入れなければ命中箇所周囲が焦げるかさえ怪しい熱量となりそうだが……ここからレールガンの話に戻るなら、その前に空気が熱せられた場合の話も必要だろう。


 空気が過剰に熱せられれば熱膨張による爆発条件を満たし、その膨張速度が音速を越えた場合、「衝撃波」と呼ばれる現象が発生……もし熱量に変換されれば通常の大気が衝撃波を生む程になる弾速を放つ兵器が実現出来たとしたら?


 少なくともマイのレールガンは強化段階初期からそれを可能とし、対象を貫通せずに命中した場合の爆発では確実に衝撃波が発生する威力を有す。


 そんな大規模な爆発とサリーの氷塊連射による冷気爆発により、攻撃が始まってから巨大青エネミーは断続的と言うには中途半端な頻度でその体から大きな爆煙の花を不気味な色合いの夕焼け空に咲かせていた。


 巨大青エネミーは近接能力者には出現時の高度にいるだけで攻撃が届かない場所にいるが、攻撃手段が念動力で地上の瓦礫などを動かす以外には無いので、巨大なコンクリートの瓦礫が豊富なこのマップならではのエネミー。


 念動力による攻撃を(ことごと)く防がれ遠距離攻撃要員を確保されれば、あとは膨大な体力ゲージが一方的に削られ続けるだけになるのが、この巨大青エネミーだった。


「あ、倒した」


 次発間隔半減とはいえまだ頻繁には撃てないマイのレールガンが当たると、自身に大量のポイントが入った事で撃破に気付く。


 横取りボーナスはグループ内のメンバー同士では発生しない為、ラストアタック情報は記念枠……もしくはグループ内での()()程度の扱いに。


 マイのレールガンに関してもう少し言及すると全長は人間の背丈の範囲……二本の電極棒をレールのように平行に並べて、発生させた電磁気力により弾丸を加速させて放つレールガン本来の構造に何処まで忠実かは不問としよう。


「あ、ドロドロ溶けるモーションじゃない」


「こんなに大きかったんだなー」


 巨大青エネミーのボディが透明から青い暗清色重油となった後に固まって砕け散る様を見届けた三名は早々に次の獲物(ポイント)を探そうとするが、


「ふーん」


 階層のある建物の四階からオレンジ色の瞳を持つ少女が巨大青エネミーを撃破する一同を眺めていた事を明かすかのように声を発し、三人とも少女の存在に気付きツインテールの人影を見上げる。


 髪の色がヨーグルトのような質感を放つ白で、髪の長い部分は毛先から数え三割辺りから赤紫色へのグラデーションが始まっている情報は間近でないと厳しいか。


 統合二日目の古代遺跡マップで群がるエネミー七体を圧倒した事もある少女はそのツインテール両側に透明度のあるエメラルドの髪飾りをしているが、相変わらずプラスチック製。


「あ、気付いた……じゃあ、さ」


 少女が呟いた瞬間、手の平から樹脂製とは比べ物になら無いほど宝石並の質感を放つエメラルドの色を湛えた球体が出現……少ししてマイたちの目の前に炎が広がるが、従来の炎とは異なる色を帯びていた。


 有色の炎、という形容はそもそも炎自体に赤やオレンジの色がある事から冷静に考えると妙な表現。


 しかしそんな言葉を用いるからには通常の炎の色では無い事が推察され、今発生した炎は銅の炎色反応に更なる青味と鮮やかさを与えたような色合い……有色の炎という言葉はこのように特殊な色を持つ炎の事を差すのかもしれない。


 そんな碧の炎が三人組の目の前で消え去ると、そこにはツインテールの少女の姿があり、先の碧の炎を消費して位置を交換したと考えられる。


「挨拶……しておこうかな」


 ツインテールの少女がそう呟くが、ここから時刻がそんなに離れない別の場所にて……巨大青エネミーを倒したクララが函辺成寿奈に話し掛けていた。


「んー……聞いちゃおうかしら」

「あ。私、函辺成寿奈です。グループ内では――」


「あー、そうじゃない……でも所属してる情報は話が早くなるわね。ちなみにアタシはクララ」

「よろしくです! 話って……?」


「キミとキミのグループのリーダーは、このゲームに対して、どんな考えを持ってるの?」


 その言葉を受けて函辺成寿奈が返答に困っているようなのでクララが更に発言。


「そーね……少なくとも統合が起きる前のこっちのフィールドではエネミーが本当に乱数頼みとしか思えない分布ばかりだった」


 そして、このガーデンの管理レベル引き上げ、という文言を思い出しながらクララは続ける。


「それが最近では森林マップでは三ヶ所にボスエネミーが配置されて、中央を陣取るのを難しくしてたって話で……生活資金支援枠としての宝箱も配置されるようになった……これって完全に」

「管理する人……存在? によるゲームへの直接的な介入……ですか?」


「まー、そんな変化を受けて、今までのゲームへの見方が変わったりした? って質問よ」


 クララがそこまで言うと函辺成寿奈は以前、グループのリーダー……オズとこんなやり取りがあった事を思い出した。


 命乞いをして来た参加者の言葉通り、高級ブランデーを手に入れたオズが他に飲める者がいなかった為、一人で晩酌を行う事になり、函辺成寿奈が他のメンバーが作った出来立ての(さかな)を運ぶべく、オズの部屋に入った時の出来事。


「デスゲームってよぉ……」


 部屋を去ろうとするなりオズが酔った口調で話し掛けて来た為、函辺成寿奈は足を止め耳を傾ける……この頃には完成していた合金アームを外した上で、オズは酒の入ったグラスを右手で持ちながら発言を続けた。


「人が殺し合う様を眺めて楽しむ運営がいて、それに便乗した観客までいる場合あるよな……」

「は、はい……」


 函辺成寿奈の相槌が聞こえたかも判らぬまま「だがよぉ」と呟いたオズは更に喋り出した。


「このゲーム自体が、んな積極的に殺し合うようなもんとは思えねぇんだよなぁ。参加者を本格的に追い詰める意図があるとは思えねぇ……ガーデンにある限られた資源を巡って、殺し合いは起きちゃいるが」


 そこまで言うとオズはグラスに残ったブランデーを一気に飲み干し、グラスを叩く様に机の上に置くとまた発言した。


「これじゃ、何も解かってねぇままガーデンに放り込まれた血の気の多い連中同士で勝手に殺し合ってるだけじゃねぇかよ……」


 函辺成寿奈がオズが愚痴を言うにしても何故そんな内容なのかと首を傾げていると、オズが酔った様子を一層強めて、函辺成寿奈に言った。


「折角来たんだ……酒を注いでくれ」


 言われた通りに函辺成寿奈がブランデーの瓶を手にすると、


「あ、八分目くらいを目安にな。注いだらもう行っていいぞ」


 続いたオズの発言通り、少なくともグラスの九割は行っていない段階でお酌とも言える行動を終えた函辺成寿奈は会釈をすると、その部屋を後にした。


「酒がうめぇなぁ……」


 函辺成寿奈が部屋を出る際にオズはそんな言葉を(こぼ)していたが……一連のやり取りを(おぼろ)げにした内容が函辺成寿奈の脳裏を()ぎっていた。


 それを踏まえて函辺成寿奈は目の前のクララに言う。


「このゲームの目的は殺し合いじゃ無い……とか」

「まーそうよねー……折角人が減って来て最後の一人になるのは誰か、って時に他のガーデンから参加者丸ごと寄越して来る……他に目的があるとしか思えないわ」


「参加者同士じゃなくてエネミーと戦って欲しいのかなー」

「それはそれで目的が不明よねー」


 少なくとも、このゲームでは何かが()()されている事は確かである。


 統合四日目となる今日に至っては最上位のエネミーが三体も出現した。今までは最上位エネミーが出現するかも定かでは無かったので、一連の会話で言う「運営」がエネミーの出現内容に手を加えるようになったと捉える事も可能。


 そしてこの日はそれだけで終わらなかったという事実を示すアラーム付きのメッセージウインドウが全参加者の前に表示され、そのタイミングは丁度、二人の会話が先程の段階まで進んだ時だった。


「ボーナスエネミーの発生予告?」

「それも複数体……どうやら管理レベル引き上げって参加者に関わる部分が多いみたいね」


 クララがそう言ってから暫くすると、ここから離れた場所にある高層ビル下層に突如としてその部分を埋め尽くすかのように亀裂が走り始め……ひと思いに砕けると共に中から人型のエネミーが出現し、前進が始まると辺りに重厚な音が響いた。


 そんな場面に(いち)(はや)く居合わせたのがハルピュイアを始めとする三人及び空色ボブの制服少女を加えた四名……その光景に思い思いの感想を述べる。


「いきなりボーナスエネミーの出現演出に遭遇しちゃったよ」

「一見すると、これ」

「ゴーレム、だけど……」

「わー、おっきいなぁー」


 ゴーレムはエネミーとしてでは無く、参加者の能力で生成される場合が多い。


 メッセ―ジ内のシルエット画像通りマッシブな人間を(かたど)った体躯(たいく)を誇り、一般的なゴーレムが(およ)そ二メートル半が相場なのに対し、このゴーレムはそれを二体縦に並べても背丈に届かない。


 制御や力の中枢となるコアが内部にあるか、コアの存在しない一体型のどちらかが選ばれたかは確認するまでもなく後者だろう。


 他の例に漏れず、このゴーレムも全身が同じ材質で出来ており、その色味のありそうな灰色の物体の集合体を眺めた末、雨縞瑛美が発言する。


「ストーンゴーレム……?」


 このゴーレムの材質が鉄鉱石よりも劣る程度の石ならば雨縞瑛美(ひと)りでも撃破は可能だが……雨縞瑛美の言葉はまだ続いていた。


「そんなわけないよねー」


 ボーナスという言葉が使われた通り、このゴーレムは今回のマップでの最上位である巨大青エネミーが立て続けに倒された事により出現した見込みが高い……そんなエネミーが一般(ジェネラル)の能力者一人で倒せるような相手であるなど到底無い。


 それから結構な間が空いた頃、二体目のゴーレムが場所を新たに出現……今度は参加者が集まった周辺目掛け、上空から落下して来る演出だった。



 五日間ですが再び連続投稿する事が出来ました……もっと細かく区切れば話数稼げて今回のペースなら毎週更新にすれば定期更新を維持出来そうではありますが、本作は「投稿する時はエピソード一塊の話数を連日投稿して、ストックを作る事は考えない」で行きます。

 今後の内容に関する構想ストック自体はまだまだあるので、そちらはご心配無く……それまでProgressの数字どれくらい増えるかなぁ。


 ……ここまで後書き書いたし運動エネルギーと熱量を表す単位J(ジュール)、電磁気力はローレンツ力とも言う事とかには触れず、皆さんに問題です。


・以下のキャラ名のルビを振って下さい。

 音流小唯花


 正解は本作第4話最後の段落に。最後にこの文字列が本作に出たの第17話ですよ……愛称の方も第19話冒頭で、しかもこれ誰からも呼ばれて無い……。

 とりあえず本作の主人公であるという事だけは記憶に留めておいて下さいませ。

 構想から蚊帳の外では無い、と言う事だけでもお伝えしておきます。


【2021/09/17追記】

 39話以降は何か後書きの内容と分量がお手軽なものでは無いので、没入感を損なわない内に本編を読み進めた方がいいのでは? と心配になって来たので、読まれてる方がどうされるかは()ておき、こうして添えておきます。

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