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あかないキミの、異能世界  作者: 竜世界
ProgressⅤ-RAVEN-
33/67

第33話 そして目撃者は消え去る

 統合四日目のフィールドは廃墟と化した都市部に不気味な色合いの夕焼けが広がるマップ。


 能力により出現した女性から六枚翼が生えたような姿(すがた)(かたち)……その全身を蝕むかのように金色部分が増えて行く様をオーバーゼウスのリーダーは眺めていた。


 あと十分ってとこか。


 体に纏う金色オーラが残っている内に他のエネミーを倒したいものの、合金製の右腕を振り回し続けた上で全力で戦ったが故に、休憩という発想がオズの頭の中を占めていた。


 呪いによりその体を黄金にして行く女神。


 そう考えると何かの神話の一幕さえ感じる光景だが……もしも黄金へと変化して行くのでは無く、女神の姿を保つ為の力が失われて行った果ての全身が黄金の姿こそが(しん)だとすれば――


 リネーム前は『ゴールデンコントラクト』だったよな……となるとコイツは女神を(かたど)っただけの黄金像だ。


 丁度オズが答えと成り得る情報を頭に浮かべていた。


 神の姿に彫刻された黄金像が讃えられる内に自らを神だと認識するようになり、遂には生きているかのように活動出来るようになって自らを女神だと語り始めるがその行いが神の怒りに触れ、元の黄金像に戻って行く。


 それは神話と言うよりも寓話(ぐうわ)なのかもしれない。


 いつ見てもこの大きさのものが砕け散るのは壮観だぜ……またよろしくな、俺の女神様。


 そんな心の中での呟きと共にオズが纏っていた金色のオーラは消え、心を落ち着かせ過ぎた事を反省しながらオズが体を動かそうとした瞬間だった。


 オズは全てのコストをの周囲にプラチナ色の煙幕が発生し、その場所目掛けてオレンジ色の槍が放たれる。槍の周囲では紫色の電気のようなものが(ほとばし)っていた。


 オズは全てのコストを使い果たしてはいたが二体の狼姿の生成は可能……それが行われるよりも早く槍が命中し、オズを包むプラチナ煙幕全体に紫色の電流が発生しては荒ぶった。


「ぐぉぉおおお!」


 突然の事態に思わず声を上げたオズだったが……浴びる紫電に一切の痛みが無い事には即座に気付いており、叫びは驚きの感情に身を任せた結果に過ぎない。


 アイツの死体は……あの方角だ!


 視界が晴れ、オズがその場所に目を向け始めるが……直後に女性の声が聞こえて来た為、そちらが実際に首を動かした方向となった。


「……何だか申し訳ないなぁ」

「でもあの戦闘、勝ちパターンあったから」


 視界に飛び込んで来たのはオレンジ色の槍を手にしたメロンの青肉部分のような色合いの髪を長く伸ばし、その瞳の色は赤肉メロンを思わせ、髪全体を細くて赤いリボンで彩る少女と……その隣にいる、もう一人の少女の姿。


 戦闘開始前にも見掛けた髪と瞳がホワイトベージュのポニーテール少女は背も胸もヴェナサルヴィアと同じくらいだが……そんな情報を読み取る事無くオズは混乱しながらも思考を巡らせていた。


 あっちの女が潜んでいる可能性は考えてはいたが、今まで完全に気配を隠していたなら絶対下っ端じゃねぇ……問題はさっきこの手で葬ったアイツが胴体も衣服も綺麗なまま突っ立ってる事だ。


 幻を見せられていた、先程相手取っていたのは分身の方……そんな考えも()ぎるがオズの思考はすぐに一つの見解へと収束した。


 んな事より、このまま戦闘になれば初期コストで一対二だ……格好悪いが撤退も立派な選択肢に――


 そう思いながら体を動かそうとした瞬間、オズの体を先程の紫電が駆け巡り、その間は身動きが取れない事態に。


 何、だ……?


 そんな疑問を悠長に感じている(いとま)も無く、先程のポニーテール少女が両の手に握るの武器――黒い刃の乾坤圏(けんこんけん)が迫っていた。


 ポニーテール少女は両腕部分を露出する服装で、腕には水色の鎖を左と右で違う巻き方をしていた。正確には金属の鎖の外見を再現した柔らかい素材で出来たアクセサリーなのだが……乾坤圏のサイズはなかなかの大振り。


 分厚い刃が届く前に何とか体の反応が間に合ったオズだが、オレンジ色の槍も飛んで来るこの状況では自慢の金属アームで攻撃を防ぎ切るのが精一杯の様子。


 引き続き防御を続けていたオズだったが……ここへ来て、あの紫電が再びオズの全身に発生し、身動き出来なくなる時間はそんなに長くは無いが……この状況下では充分に命取り。


 紫電の発生が収まる頃、オーバーゼウスのリーダー――ジェフライアン・ヴォルクォーツは二振りの黒い刃により、首と胴体が分断されていた。


 動作を妨げた紫色の電流は先程、ヴェナサルヴィアがチャージしてから投げた槍をプラチナ色の煙幕に当てる事により発生する効果。


 一度(ひとたび)浴びれば一定周期毎に能力の生成物を含めて当てた対象に紫電が発生し、その度に六秒間ほど一切の動作が不可能になる。紫電が発生する周期は次第に長引いて行き、百秒後に流れた後は帯電のような状態が解除される。


 そこまで減衰する前に再び煙幕からの紫電を浴びるか紫電を纏った槍の一撃を受けるかすれば紫電の発生周期は初期化されるが……連発を(はばか)る程のコスト量を要求する大技の為、先程のヴェナサルヴィアは使わなかった。


 紫電を槍に纏わせるまでの少なくない時間の確保が出来なかったのも要因か。


「ありがとう。助かったよ……で、いいんだよね?」

「まー積もる話は……後でゆっくり」


 突然言われた通りに紫電を使ったヴェナサルヴィアに対し髪と瞳がホワイトベージュのポニーテール少女にしてレイヴンのE――エキナセアパウンドがそう返す。


 先程のオーバーゼウスのリーダーとの戦いの記憶がヴェナサルヴィアには無い事をエキナセアパウンドは理解していた。


 エキナセアパウンドの能力を説明するには白猫と黒猫と道路を走る車が登場する例え話から始めるとしよう。


 歩道で会った白猫と黒猫は互いに挨拶を交わし、白猫が「じゃあまたね」と告げて道路を渡ろうとすると……重さと速度を備えた大きな車がそのタイヤで白猫を巻き込み、特に走行速度に支障の無いままその場から去る。


 無残な姿になった白猫の亡骸を見て黒猫が嘆いていると、空から大掛かりで複雑な形状をした機械に乗った女神が現れ「私が何とかしましょう」と言った次の瞬間黒猫は歩道の上にいて目の前には白猫の姿があり先程したばかりの他愛も無い挨拶の言葉が白猫の口から零れて、この例え話は幕を閉じる。


 女神が単に時間を戻しただけならば、黒猫はこの後、白猫が車に轢かれる事を知らぬ状態に戻る為、同じ光景が繰り返されるだけかもしれないが……。


 白猫が轢かれるまでの一部始終を黒猫が見ていたならば、時間が戻るのでは無く白猫と黒猫が挨拶を交わす直前の状態まで戻るのがエキナセアパウンドの能力と言えよう……白猫は轢かれた事そのものを忘れ、黒猫は憶えている。


 タイヤに白猫の一部がこびり付いていたならば、その部分は無くなるが……白猫では無く大型の獣と車が衝突し、車も獣も大きな損壊を果たした上で獣が絶命していたとしよう。


 先程のエキナセアパウンドが見せた能力では、黒猫と獣だけが挨拶を交わす状態まで戻り、車は大破したままで運転手が死亡していれば、そのままとなる。


 もっとシンプルな例え話が必要かもしれない。


 机の上には花瓶があり黒猫が通る事で花瓶が落下して粉々に砕け、中身も床に散らばってしまった。


 この花瓶を元に戻すには何をどうすればいいだろうか? それも時間を戻す事無く時間が戻ったかのように思える結果となる方法で。


 花瓶が割れたのは落下したからで、花と水が床に散らばったのは花瓶が割れたから……花瓶が落下さえしなければ、花瓶はそのままだった。


 黒猫が花瓶とぶつからなければ花瓶が落下する事は無かったし、ぶつかってもそのまま微動だにし無ければ花瓶はそのまま机の上に在り続けた。


 そんな原因と結果の関係性を表すべく『因果(いんが)(りつ)』という言葉を用いれば、今回の戦いでエキナセアパウンドは「因果律の復元」を行ったと言えよう。


 花瓶が割れる前と割れた後の状態を表すものがあれば、それを変更する事で花瓶を割れる前の状態に戻す手立てに。


 因果律を原因と結果を結ぶ直線的なものと捉えれば、複数の因果律が絡み合う事で花瓶を取り巻く状態が構成され、花瓶に何かが起こればその各々の因果律は変化する事となる。


 割れる前の花瓶が有する因果律の分布と言えるものをネットワークのような構造で表し、その構造情報を保持していれば、あとはその構造情報を割れた後の花瓶に上書き……それが実現出来れば割れた花瓶を割れる前と同じ状態に戻せる。


 その為に必要な因果律の構図情報の保持と対象への適用を可能とするのがエキナセアパウンドの能力で、適用前後での因果律の変化の規模に応じて能力強化に必要なコストを得る。


 コストを消費して因果律を復元するのではなく、因果律を復元する事でコストを獲得する能力体系となるが、先程実際に行われた復元までの流れの順を追おう。


 エキナセアパウンドの能力主であるベージュ髪の少女が「すみません。私がもっとダメージを与えていれば……」と言う直前に復元ポイントと呼べるのものは既にセットされていた。


 この能力をセットしている間から発動するまでの間、使用者の両手には黒い乾坤圏が生成され、能力を発動すると使用者と能力の対象にしたものがセットした時点の因果律まで復元される。


 この黒い乾坤圏は攻撃や防御動作を行う度に、その強度か重量……もしくは両方を強化するか選ぶ事が可能で、コストを消費すればその強化幅は増大する。


 乾坤圏の処理は復元ポイントとは独立しており「攻撃を与えるか受けるまで乾坤圏の材質が確定しない」という性質を持ち、強化の際は乾坤圏一つずつで決定する必要があり、何も決めなければ最低値が適用。


 その最低値状態の乾坤圏でもアイアンを多少上回り、コストを使わずに強化しても鍛えた鋼鉄と同等の強度を持ち、それに増加した比重が加わる。


 復元ポイントの話に戻り、エキナセアパウンドが復元ポイント作成時に対象に加えられるのは自らと「自らのごく周囲にあるもの」で、先程の時点でのオズの位置は見事に射程外。


 多少の距離の猶予はあるが復元対象に出来るものは「使用者が触れられる範囲にあるもの」と考えておけば充分かもしれない。


 先程の復元対象に含まれなかったオズの記憶に一切の影響は無く、対象となったヴェナサルヴィアはオズと戦闘した際の記憶が無くなっている。


 因果律が戦闘前まで戻ったのならば、それに関わったオズも戦闘を経験しなかった事に成り得そうだが……エキナセアパウンドでは戦闘が関わっていた場合、相手の記憶やコストなどの能力の消耗状況は保持される。


 尋問などで情報を聞き出した後に復元した場合ならば相手の記憶は復元ポイントの時点まで戻るので、相手の記憶が復元の対象外というわけでは無い。尚、使用者自身の記憶とコスト消費状態に関しては如何なる場合も復元の対象外である。


 段階強化や消費式の能力の状態を始めとする能力に関わるもの全般は対象外の為一日に三発しか使え無いような能力の持ち主を復元対象にして何度も再装填させるなどの運用は不可となる。


 そんなエキナセアパウンドによる復元ポイントを保持する制限時間は二百分だがフィールドでのゲーム参加による強化が適用されればゲーム開催時間以上となる為今回のようにオズの黄金像の時間が終わるまで待ってから発動する余裕は充分。


 復元ポイントは制限無く更新可能だが一つしか保持出来無い為、RPGなどで見られる「詰みセーブ」と同じ状況に陥るリスクが常にある上に、どの時点で復元されるかを確認する機能がこの能力には無い為、使用者が把握している必要がある。


 黒い乾坤圏の生成と復元ポイントの作成及び適用は極めて一瞬なので、連続攻撃の際に好きなだけ使う事も可能……目まぐるしく変化する互いの位置情報を頭に入れておく必要がありそうだが。


 現在の因果律を過去の因果律に復元するエキナセアパウンドの能力は使用する事により小規模とは言え「現実世界を構成する事象を永続的に変化させる」事を実現する能力……これが少しでも行えるだけでディスタンスは高位(スペリオル)となる。


 因果律への干渉行為は世界を構成する要素とそれから成る確定した事実への干渉に等しい。エキナセアパウンドは因果律の始点となる原因、終点となる結果……それら二点を操作する事は出来ず、影響規模も局所的。


 それ(ゆえ)高位(スペリオル)止まりの能力とも言えるが……さて、レイヴンのV――ヴェナサルヴィアとレイヴンのE――エキナセアパウンドはあれから移動を始め、レイヴンのA――アルテリアペンタスとの合流を目指している様子。


 そんなアルテリアペンタスのいる場所を見てみれば、すぐ傍にはピンクゴールドの山羊の頭蓋骨で頭部を覆い尽くし、薔薇のように深紅に染まったローブ姿の女性の姿が。


 山羊の頭蓋骨全体には茨が絡み付くかのような模様があるが……まだ頭蓋骨には何処にもヒビが入っていない。


 アルテリアペンタスの髪は背中を越える長さで、もみあげ部分に髪を幾らか融通して縦ロール気味にした髪型。金髪と銀髪は金属的な光沢を放つがアルテリアペンタスの髪はカッパーカラー……(しゃく)(どう)のような雰囲気が漂う。


 主要五名の中で一番高い背と二番目の膨らみを有する胸も目立つが、左目がアメジストで右目がエメラルド……共に深い色味と鮮やかさを湛えたオッドアイの方が視線を集めるかもしれない。


 縦ロールはドリルへアとも呼ばれるが、そんな少女から時間と場所が幾らか離れた場所にもう一人……紅茶色で長い髪を持つ彼女は左右を束ねたツインテール部分を縦ロールにしており、両の瞳は葡萄(えび)色だった。


 そんな瞳で廃墟となったビルの程よい階層から周囲を見渡していると……アイアンの軽装鎧(プロテクター)を装備した女性が歩く姿を捉える。


「いやー、まいったまいった。こうも似た風景が続くと道を間違えたかどうかも、わからんね」


 そんな独り言を他所(よそ)にツインドリルの女性の方はこんな考えを浮かべていた。


 そういや最近、狙撃してないな。


 ガーデンの統合が発表され、最先端の技術と設備が集結したガーデンでの一ヶ月準備期間に入ってから今日(こんにち)に至るまで……フィールドが発生するまでのガーデン内の戦闘機会が目に見えて減った。


 困難だった安定した生活環境の獲得が容易くなり、無理に出歩かずとも家賃さえ払い続ければ自宅でネットが使い放題……そんな環境に彼女自身も甘えていた嫌いはあったが……統合四日目にもなった今、そろそろ気を引き締めたい気持ちも。


 拠点(アジト)で訓練は怠ってないけど実戦経験が積めて無い。


 そう思いながらツインドリル女性は能力によるスナイパーライフルを生成……そのまま合わせた銃口の先には、のんびりと歩くプロテクター女性がいた。


 腕がなまって無いか確認しておくか。


 スコープ内に映る照準の中央には女性の頭部……直前に狙いを定めた位置にどれだけ正確に撃てるかで能力が変化する彼女にとって狙撃の腕前が落ちていないかの調査は早急に済ませたい事項だった。


「しっかし、このソリッドのプロテクターも結構持つと来たもんだ。こりゃあ、まだまだ着てられ――」


 ツインドリルの女性は狙いを定めるや直ちに狙撃。歩いていた女性は独り言を終える事も出来ずに死体となって地面に倒れ、鮮やかな赤を湛えた血液が銃弾によって開いた穴から次々と流れては広がって行った。


 ド真ん中……これなら、よし。


 狙撃が最高の結果となった事により、ツインドリルの女性の銃は変化。


 女性の能力はスコープで狙いを定めた段階で展開される円と、命中時に表示される狭い円……二つの円は命中と同時にスコープ内に表示されるが、最初の円の中に命中時の円がある狙撃結果ならば消音ボーナスが付与される。


 厳密には、「命中時まで銃声を発生させない」という効果が「銃声を発生させない」に強化されるのだが、発射時に音がしなければ命中が確定している事に。


 最初の円の遥か外側に命中円があれば轟音が流れるが……ツインドリルの女性はその音目当てに意図的に外した時以外で銃声を出した事が一度も無い程、高い射撃の腕を有していた。


 今回はプロテクター女性の頭部横側への狙撃……所謂ヘッドショットを成したがある程度遠い距離である必要はあるが前述の通り、狙おうと思った際に展開する円と命中時に展開する円の中心が一致同然になる事が最大強化の条件。


 今回撃った女性の傍にある瓦礫や向かいにある建物の壁を狙って命中させても、最大強化の条件を満たす為、エネミーや参加者を狙う必要は別段無い。


 ツインドリルの女性にはたまたま通り掛かった女性の命を奪った事に対する感情の(たぐい)は一切無く、自らの狙撃の腕に衰えは無いという感触を得ながらその場を後にするのみ。


 やがてツインドリルの女性――ミュレイル・オードレットは去り、亡骸となったアイアンのプロテクターを着た女性がその場に残るだけだった。



・今回の出来事について

 32話でオズとヴェナサルヴィアが戦ってオズがヴェナサルヴィアを斬殺する事により決着したのが今回の33話でエキナセアパウンドの能力によりヴェナサルヴィアがオズと戦う前までの状態に戻った。

 ヴェナサルヴィアは戦闘前の状態に戻るという形で復活を果たしています。

 第8話でソリッドに関する情報と共に初めて登場した女性が何の気なしに歩いていていたら射撃の的にされ、死亡しました。


・RAVEN[レイヴン]のメンバーの名前とスペル

Rose Heart[ローズハート]~レイヴンのRにしてリーダー

Arteria Pentas[アルテリアペンタス]~レイヴンのA

Vena Salvia[ヴェナサルヴィア]~レイヴンのV

Echinacea Pound[エキナセアパウンド]~レイヴンのE

Nigella Throb[ニゲラフロッブ]~レイヴンのN


・花と心臓

 roseは薔薇、pentasはアカネ科の同義語、salviaはサルビアの花。

 echinaceaはハーブでnigellaはクロタネソウ。

 keartは心臓、arteriaは動脈、venaは静脈……veinとも。

 poundとthrobはどちらも心臓の鼓動を表せそうな言葉。


因果(いんが)(りつ)について

 その物事を成立させている原因と結果……そんな感じで理解していれば充分なんですが「因果律操作」となると説明難易度と要求理解度が一気に跳ね上がる……ここから後書きが更に続きますが最後まで読むかはお任せします。

 ……ちなみにあと1334文字あります。


・よくわからない因果律操作のお話

 六面ダイス一個だけ使う双六(すごろく)ゲームをプレイしているとします。


 サイコロを振る際に因果律を操作すればサイコロの目が出す原因かサイコロを出した結果のどちらかを操作すれば好きな目を出せる事になりますが……因果律操作を活かすともっとヤバイ事が出来ます。


 結果だけを操ってサイコロの目が七出た事にして駒を七マス進めた状態にする事も可能だし「そもそもこのゲームではサイコロを二個触れる」という根本的な原因を操作する事も可能。


 問題となるのは、ゲーム中盤辺りでサイコロを二個振れるルールに変更した場合他のプレイヤーもサイコロを二個振れていた事になるので各駒の位置が操作前と同じになるのもおかしくなる怖れがある件。


 原因と結果の両方を操作出来るなら何とでもなりそうではありますが、注目して欲しいのは「因果律の原因を操作した際の結果への影響規模」です。


 そもそも双六では無くトランプで遊んでいた――因果律操作はそれすらも可能としてしまうので、因果律関連の能力は迂闊に出せる代物ではありません。


 今回のエキナセアパウンドは要するに「過去に実際にあった因果律まで戻す」なので原因と結果の整合性の心配は無さそう。


・因果律操作によって諸々が滅茶苦茶になりそうなクッキング

「ここは日本。オムライスを作ったけど気に入らないから因果律操作! 卵はもっと高級なものを使っててチキンライスはパエリア米に変更。それを三ツ星シェフに作らせたっていうのもありだなぁ……いやいやそもそもオムライス何て作らなかった! 私は自宅じゃ無くてフランスにいて、ここはレストランの中! パティシエが作る最高級のケーキの支払いを済ませて今はそれを待っている……フランスの時刻って今だと……うん、大丈夫! これで行こう!」


 因果律操作を際限なくするとこうなりますし実際に果たされます。これを実現する上で変更された全ての事象の辻褄合わせはどうなってしまうのか……これが後書きでよかったです。


・エキナセアパウンドくらいの因果律復元だった場合。

「あー! これ塩じゃ無くて、お砂糖……しかも大量に……仕方ない。料理する前にキッチン全体を対象に復元ポイントを作っといてよかった……やり直し」


 この場合、料理に使ったもの全てが料理前の状態に戻るので、食材などの整合性は保たれます。復元ポイントの対象が自分自身のみだった場合は、エプロンが料理前の状態に戻るだけです。


 復元ポイント作成前に対象にしたいものを目の前に集めておけば、漏れなく対象に出来る感じですが、卵料理なら卵だけを対象にしても卵と一緒に使った他の食材も戻る可能性があります。


 卵という原因が無くなった事に因果律が引きずられて、他の食材も卵による調理は無かった状態に戻ると考えられるからで、オムライスならケチャップ掛けたチキンライスで済ませられそうですが、完成したケーキから卵だけが差し引かれた状態になるのは無理筋という疑念が。


 こういう時にどのように扱うべきか悩む事になるのが因果律を用いた能力処理でそういう場合どのようになるかも定めておく必要に迫られます。


 比較的無難なのは使った材料群が調理前の状態でお皿の上に積み重なっているのが、実際に簡単に作れる光景だし有力候補になる……?

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