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あかないキミの、異能世界  作者: 竜世界
ProgressⅤ-RAVEN-
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第32話 神騙りの目撃者(後編)

 統合四日目のフィールドは壊滅した都市部マップ。


 オーバーゼウスのリーダーにして登録名(エントリーネーム)『グレイプニール』の能力を持つ男性と遭遇したレイヴンのV――ヴェナサルヴィアの眼前に、相手の能力により生成された青い狼姿の牙が迫っていた。


 この狼姿は攻撃時に赤く染まるようだが、ヴェナサルヴィアはそれを横回避すると共に先程オズと名乗った男性の周囲に能力の生成物……プラチナカラーの煙のようなものを展開。


 煙幕は車庫ごと包みそうな規模……プラチナが銀と比べて光の反射率が幾らか低い分、白さが抑えられ多少暗く見えるという性質を実感出来るかもしれない。


 ヴェナサルヴィアの能力は、この視界を完全に埋め尽くすプラチナ煙幕を自身は透過状態で視える上に、煙幕内の対象が能力の生成物かどうかも判る為、分身状態の相手に使えば巻き込んだ煙幕内に本体がいるかの判別が可能。


 この煙は発生直後に爆発させる事も可能だが……その判断を行うよりも早く襲い掛かって来た狼姿がオズの所まで戻り、その間もう一体の狼姿が行動……赤く発色しては煙幕を喰い荒らして行った。


 二匹の狼に早々と煙幕を喰らい尽くされたヴェナサルヴィアは再びプラチナ煙幕を発生させ、その煙幕に手にする槍を触れさせる事で爆発させるのだが、このように発生と同時に爆発させる事も可能。


 槍で起爆させた方が威力は増すが、爆発させ続ければダメージの蓄積は期待出来る……しかし、その爆撃もすぐに二匹の狼に喰われてしまう。


「その狼……厄介だなぁ」


 そう言いながらヴェナサルヴィアは狼姿の一体目掛けオレンジ色の槍を投げ付けた。この槍は何かに衝突するか、最高速度から三分の一減少した際に消えると共に使用者の手元に現れる。


 投擲(とうてき)された槍は狼の体をすり抜け、地面に当たる事でその再装填が果たされ、


「効かない……?」


 唖然とした声を上げ、オズが罵声紛いの口調で言う。


「おら、喰い千切られろ!」


 再び襲い掛かって来た狼一体による牙に対し煙幕を発生させ、それを喰わせる事で回避の時間を作る。


 もう本体を狙った方がいい……コスト貯めるか。


 そう思ったヴェナサルヴィアは牽制を装い槍を振り回す。生成したオレンジ色の槍に運動を加える事がヴェナサルヴィアのコスト増加条件……槍による連続攻撃はヴェナサルヴィアの得意とする戦闘スタイルでもあった。


「お前もグレイプニールの撃破条件が判らねぇんだな」


 オズの声が得意げに響くが、ヴェナサルヴィアは意に介さず……以降は狼姿への攻撃を無闇にはしなくなった。オズは挑発に失敗した事よりも接近戦になった事実の方を強く意識した様子。


「ほう、俺と殴り合うか……上等だ」


 オズはコストを消費……もう一体の蒼い狼姿を生成し、近くにいた一体に騎乗。


 (またが)ったのではなく狼の背に直立した為、移動する足場に乗った状態と言うのがより正確かもしれない。


 ヴェナサルヴィアが貯めたコストは槍を投げたりコストを消費して槍を発射させたりした際の速度の強化が可能だが……グレイプニールのコスト取得条件をヴェナサルヴィアは掴めずにいた。


 合金アームの手の部分は斬る事も突き刺す事も可能な形状で、それを見せ付けるように振り回すオズに対し、槍の連続投擲と視界を遮る位置での爆発を交えて付かず離れずの間合いを維持するヴェナサルヴィア。


 繰り広げられた幾つもの場面の中には、こんな光景も……。


 機動力に優れた狼姿三体の位置関係がすぐに変わってしまう中、オズが乗る狼姿の概ね近くに狼姿がもう一体おり、三体目は離れた場所に。接近戦に臨んだヴェナサルヴィアはオズと近距離状態を維持していた。


「おう、激しいこった」


 槍のリーチを活かしやや離れた位置から槍を立て続けに繰り出すヴェナサルヴィアは狼姿やオズの右腕が迫れば回避と共に槍を投げ、体勢次第では手元に戻った槍をそのまま投げ付ける。この場面では特に連続攻撃を維持する場面が目立った。


 他のガーデンでも火器や弾薬の類は購入可能だが、中には地球側の企業が販売権を獲得した上で製造した高水準のものがショップに並んでいる場合も。


 オズの右腕の合金アームはまず鉄屑を集めて溶接したアームを作成し、購入したIGC社製の合金を添える事で統合前にいたガーデンのコンピューターに造らせたもの……実際にIGC社が同じものを造った場合と同水準の品質を誇るだろう。


 そんな合金にヴェナサルヴィアの槍が(ことごと)く防がれる中、間合いが五分状況に。


 ヴェナサルヴィアは自らの周囲にプラチナ煙幕を展開するも、すぐに煙幕は狼姿に喰われるが……自らの位置を曖昧にする事で接近戦での優位を狙ってもいた。


 狼姿が煙幕を優先的に喰らう傾向から、ヴェナサルヴィアは戦闘開始から各狼姿の位置関係の調整用に煙幕を撒いては喰わせる場面を幾度と無く作り出した。


 やがて槍がオズのいた場所まで届くが、オズが隣の狼姿の背に跳び乗る方が早くそちらへ追撃してもまた元の狼姿の背に跳び乗る……ここから更に時間を進めても戦闘は続いていた。


 防戦一方のオズだが一度も窮地には陥っておらず、ヴェナサルヴィアに至っては順調にコストを貯めている状況ではある……戦闘開始から三十分が過ぎようとした頃、遂にヴェナサルヴィアの体に狼姿の牙が届く。


 大きく開いた狼姿の口は完全に閉じられ、(あか)を帯びていた体も元の(あお)へと戻って行く……それが開いた今、ヴェナサルヴィアの胴体は千切れたも同然の状況が予想されたが……ヴェナサルヴィアは唖然としていた。


 ヴェナサルヴィアの胴体は狼姿の牙を喰らう前と全く同じ状態で、無傷だったからだ。


 まさか。


 すぐに戦闘体勢へと戻ったヴェナサルヴィアに対し、オズは呆れたような口調で呟く。


「まったく……大したヤツだよお前は」


 そして感心とさえ取れる様子で言葉を続ける。


「俺のグレイプニールの牙を喰らうや死んだと思って目を閉じて、無傷だと気付いた瞬間に俺の右手の爪にやられる……そんなヤツの真逆にも程があっぞ」


 ヴェナサルヴィアは戦闘開始から数分足らずで、この事実に気付く(すべ)もあったと思い知りながら、口を動かす。


「この狼の牙って……」

「ま、そんなところだ」


 オズはそれ以上語らなかった……この女性ならば、もう全て気付いただろうという思考は最早、信頼と呼べるのかもしれない。


 グレイプニールにより生成された蒼い狼状の影は相手の能力の生成物を捕食する事でコストを獲得するが……喰らえるのは能力の生成物のみで、能力により武器として生成される強固な能力の生成物は対象外。


 相手が狼に触れる事が出来ないように狼自身も相手の体や周囲の物体に触れる事は出来ない。地面を駆ける事が出来るのは「狼のように振る舞う」という性質が与えられているからで、使用者自身が狼の背に乗るなど任意に触れる事は可能。


 この性質にヴェナサルヴィアが気付いていればプラチナ煙幕を使用する事無く、槍の連続攻撃を続けて自分だけコストを貯める事が出来た。狼は槍に牙を突き立てる以上の事が出来ないので無視出来るほどの障害要素に成り下がる。


 何度も槍を(かじ)られ続ければヒビが入り、砕けた状態ならば狼姿の捕食対象になるが……ヴェナサルヴィアの槍は手元に現れる度に耐久と強度が初期化される。


 オズとヴェナサルヴィアは少しの間沈黙……先に口を開いたのはオズだった。


「能力喰らいまくってコストたんまりだ。今まで一度も三匹の狼から攻撃を受けなかった事に敬意を表す……ってヤツか? お前にグレイプニールの()()()()()を見せてやるよ。あとな……」


 オズは三体の狼姿と今まで稼いだコスト全てを消費すると、その全身を包んでは燃え上がらせるような金色のオーラを放出。ヴェナサルヴィアが何も返さぬまま、オズの言葉が続いた。


「グレイプニールはリネーム後の能力名だ」


 次の瞬間、オズの背後に現れたのは、人の背丈を遥かに超えながら人間の女性と断定出来る程の外見要素を備えたローブ姿……背中からは六枚の翼が生え、両の瞳は閉じられ、髪は長く胸の膨らみは過剰ではない程度に大きい。


 天使の中でも最高位とされる熾天使(セラフィム)の姿をした、この存在は「女神」と呼ばれる程の神々(こうごう)しい雰囲気を存分に漂わせていた。


 姿(すがた)(かたち)が女神ならば、女神であるという証明を果たすのか?


 先程オズが放った金色のオーラは定着しており、噴き上がっては揺らめている。


「荒廃した大地に女神が降臨……見てて、そんな気分になるよ」

「ま、今まで何度も俺を勝利に導いてくれたのは事実だ」


 オズがそう返した瞬間、瞳を閉じたままの女神の姿は手を広げるかのように六枚の翼を広げるとヴェナサルヴィア目掛け血がそのまま金属になったような色と光沢を放つ鎖を放ち、その生成は次々と起きた。


 鎖の先端は突き刺す事に適した形状の飾りがあるが、鎖のサイズ自体が電柱一本の直径を彷彿とさせる巨大なもの。ヴェナサルヴィアが素早く回避すると地面に突き刺さった為、命中すれば見た目通りの結果をもたらすだろう。


 刺さった周囲の地面はかなりの範囲でヒビが入る……それが新たに生成された鎖が地面に刺さる度に起きる為、平面的とは言えない足場が次第に形成されて行く。


 やがて今までヴェナサルヴィアの頭上から発射されていた赤い鎖が横向きに放たれるようになり、一度刺さった鎖が地面から抜かれるや意志を持ったかの如くヴェナサルヴィアに襲い掛かる。


 そんな鎖の群れを掻い潜り、金色のオーラを纏うオズまで辿り着いたヴェナサルヴィアはその勢いのままに突撃し、槍から手を放す……程なく刺さった槍は消え、ヴェナサルヴィアの手元に戻り、そこから更なる連続攻撃を繰り出す。


「ほんと、お前は頑張るな……だがよ」


 合金アームで槍を順調に防ぐオズだが、狼姿を出して戦っていた時と違い、大きな攻撃さえ受け止めればいいといった様子で右腕を動かしていた。


 再びオズが発言したのは、その状況にヴェナサルヴィアが気付いた頃だろうか。


「あの勝利の女神が出ている間、俺はこの金色のオーラに包まれ俺が受けたダメージを大幅に軽減した上であの女神様が代わりに受けてくれる」


 その瞬間、赤い鎖の一本がヴェナサルヴィアに迫り、ヴェナサルヴィアが回避するや周囲に一本二本と突き刺された。


「この鎖も、ばら撒くだけが能じゃ無いんだぜ?」


 オズがそう言った瞬間、ヴェナサルヴィアの周囲の鎖三本に電流が流れるかのように炎が走るや燃え上がる。ヴェナサルヴィアは一旦間合いを取る為、煙幕を展開するが……プラチナの煙は蒸発するかのように一斉に炎に焼かれた。


 ヴェナサルヴィアは僅かな瞬間だけ女神と呼ばれる姿形を見て、その体の一部が石化するかのように金色の部分が広がりつつある事に気付く。


「自慢の女神様が石化みたいな事、始めてるね」

「あれはマジモンの金らしいが、女神様ほどになると石化もゴージャスになるって事か? 最初は呪いを見てる気分になったぜ」


「女神様の全身が黄金になれば帰っちゃうとか?」

「ま、そうかもな……でもよぉ」


 その会話の間、収まっていた一連の攻撃が再開されると共にオズが続けた。


「あんのか? んな時間」


 ヴェナサルヴィアの読み通り、女神を蝕むかのように広がる黄金への変化が全身に行き渡ればオズの金色オーラが解除されると同時に女神は消え、女神に蓄積されるダメージや女神の揮った力の多さに応じて黄金化は加速する。


 更には何もせずとも一定速度で黄金化は進行する為、オズが女神と呼ぶ姿形がもたらす力は時限性。ヴェナサルヴィアが粘り続ければ解除されるのは事実ではあるが……現在のヴェナサルヴィアに迫る光景は窮地に思える。


 突き刺さるだけでは終わらない赤い鎖の群れに、反撃を顧みず右腕の爪で攻撃して来るオズ本体。赤い鎖を固定する操作で足場とする事により、変則的な方向からの突進まで可能となった、この状況。


 遂にはヴェナサルヴィアが無理に回避した体勢を立て直せずに大きな隙が生まれその瞬間はオズがヴェナサルヴィアの胴体目掛けて合金アームを横薙ぎに払っている最中で……黄金化の進行は三割強といったところか。


 ヴェナサルヴィアは何とか槍を垂直に立て、大きな爪を阻もうとしたが……能力による生成武器の強度の相場はソリッドのアイアンと同じでIGC社製の合金相手には断たれるのみ。


 ヴェナサルヴィアの胴体は五つの刃が並んで横から切断されたかのような形状を為し、心臓を始めとする臓器も切断面を晒している事態に。


 姿形が女神ならば、女神であるという証明を果たすのか……そんな問いは「それではこの果物を女神様の形に彫れば、その果物も女神様になってしまいます」と返される可能性もあるかもしれない。


 断たれたヴェナサルヴィアの上半身の各々が地面に落下するのを見てオーバーゼウスのリーダーは久々に存分に戦えた事への高揚感とその相手がもうこの世に存在し無い事への喪失感を噛み締めていた。


 ヴェナサルヴィアという戦力が失われたとなると、レイヴンにとって大きな打撃だが……このフィールドでは更に、こんな光景も。


 時刻と場所も異なる同じマップ内にて。レイヴンのA――アルテリアペンタスは深紅のローブを纏いピンクゴールドの山羊の頭蓋骨を被った女性と共に行動しており……アルテリアペンタスが異変に気付いた次の場面。


 レイヴンのリーダーはローズハート……その威厳を放つかのような姿をした女性は今や右から倒れ、その頭の下には大量のヒトの血液。


 絡み付く茨模様が彫られた山羊の頭蓋骨にヒビが入っている事も相まって、右側から狙撃を受けたような光景が新鮮な血と共に広がっていた。

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