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あかないキミの、異能世界  作者: 竜世界
ProgressⅤ-RAVEN-
31/67

第31話 神騙りの目撃者(中編)

 統合三日目フィールドとなった森林マップにて。


 森林内ながら多少開けた場所で登録名(エントリーネーム)ハルピュイアとニゲラフロッブが戦闘中で……更にその様を眺める女性が二人。


 ニゲラフロッブが操る鉄球は防御時が素早く攻撃時は殺意が薄い。傍らで眺めるヴェナサルヴィアにはニゲラフロッブが手加減している事が明白なまでに読み取れたが……ハルピュイアこと雨縞(さめじま)瑛美(えいみ)は必死だった。


 戦闘開始時にニゲラフロッブは能力により生成された八つの鉄球状のものを周囲に展開しており、鉄球が放つライムカラーの光線により八つの鉄球は常に六面体を描いていたが……この鉄球が正六面体を描く時、六つの面は強固なバリアと化す。


 ニゲラフロッブはそれぞれの鉄球の分布により描かれる立体を維持し続ける事で鉄球の強度や損傷の修復などに使うコストを獲得して行く。


 今回は八つの鉄球の分布と描く線の八面体維持を要求されるが、八つの鉄球全てが隣接するまで集合した状態も八面体の判定となり、描かれる立体を回転させるような操作も可能な為、鉄球の配置自由度は高い。


 故に雨縞瑛美は常に複数の鉄球の動きに気を配り、大鎌をニゲラフロッブ本体に当てようとしても移動して来た鉄球に阻まれる……そんな光景が今も続く。


 大鎌の斬撃が鉄球に阻まれ続け、時折飛び出す鉄球に雨縞瑛美が肝を冷やすという単純な試合展開だったが、ヴェナサルヴィアには見てて興味深い部分もあった。


 なるほど……結構面白い子かもね。


 感心を誘った要因として大きいのは雨縞瑛美が攻撃と回避の際、一切地に足を付けずに移動しながら空中で行うような動作を低空で実現している点だろう。


 空中に跳び上がり武器を振り回しながら突進、空中ならではの全方位が候補となる回避移動……それを常に繰り出せ軌道修正も何度でも出来るハルピュイアの近接性能の潜在性は高く、大鎌自体の操作も可能。


 それを何処まで引き出せているかは()て置き、その片鱗をヴェナサルヴィアが感じるだけの動きを雨縞瑛美はしていた。


「いつまで……やるの?」


 鉄球に防がれているものの大鎌を回転させる事で自身の能力のコストを増加させながら雨縞瑛美は呆れた口調で呟き、ニゲラフロッブが返す。


「まだ続けます」


 そんな状況を先程ローズハートと目した深紅のローブ姿の女性は黙したまま眺めていたが……そもそもニゲラフロッブはローズハートが事前に指示した通りに動いている為、この光景に口を挟む要素は無かった。


 見るからに金属と思える大鎌と鉄球が絶え間なく衝突していれば発せられる高音は周囲に響き渡るだろう。それを参加者同士の争いと想定して近寄る者は他の参加者の情報を収集したい者……という見込みはある。


 寄って来た相手の出方次第ではどのように接するかの見通しも立て易い……そんな指示をどのように果たすかニゲラフロッブが思案し始めていた矢先、雨縞瑛美が現れたのが事の発端だった。


「……釣れませんね」

「エネミーの気配さえ感じないし」


 重たい大鎌の重量を時に誤魔化しながら振るい、息を荒げる雨縞瑛美を他所にレイヴンのNとVはそう発言し……程なくニゲラフロッブ(レイヴンのN)はこう言った。


「では大型エネミーの方を。あなたもどうぞ」

「長距離射撃で削りに参加するのが無難だよね」


 ヴェナサルヴィアの言葉に雨縞瑛美は脱力がてら言う。


「あの木のツタがそのまま集合して一本の木になってる巨大エネミーかぁ……防御も再生上限もヤバイって評判の」


 高層ビルを包む程の高さと規模でそびえる森林マップでは定番のボスエネミー。


 今回は最初からマップ内三ヶ所に出現し、防御力と再生上限が強化されているが他の性能に変化が無いからか、この事実に気付いた者は(ほとん)どいなかった。


 エネミーの撃破で得られるポイントはそれまでに与えたダメージの割合と撃破により得られる一定ポイントの合計となるのが基本で、五十点のエネミーを全て一人で撃破した場合は百点となる。


 マップによって倍率にバラツキのある横取りボーナスは撃破時の一定ポイントに掛かるが、単独撃破では発生しない。


 この計算方式ではエネミーに与えられるダメージの総量は一定である事が前提となる為、その総量が回復する場合は与えたダメージの割合がその都度減少し、完全回復された場合は今まで与えたダメージが0に戻る事を意味する。


 今回の大型植物エネミーは総量固定……与えたダメージは確実にポイントとなる為、一発でも多く当ててラストアタック判定によるドロップアイテムを得る余地は全ての参加者が狙える。


「なかなかの射程距離ですね」

「手応え無いし、遠いからダメージ与えたか判んないし……他所(よそ)(さま)の射撃に巻き込まれれば鎌の耐久減るから落ち着かないなー……」


 グッタリした様子で大鎌を操作する雨縞瑛美だが、回転する鎌を植物エネミーに当て続ける様は威力次第では射撃を上回る効率を得られそうなものの、そこまでのダメージは出ていない。


「私はローズハート様を(まも)ってるね」


 ヴェナサルヴィアがそう言ってから、その日は彼女から見て特に目立った事は無かったが……翌日のフィールドである廃墟となった都市部マップでは大きな出来事に見舞われた。


 ローズハートの護衛は他のメンバーに任せ、二人掛かりで六本足の赤紫エネミーを倒そうとした、その直前――


 突如落下して来た人影がその右腕全体に装着した合金籠手(アーム)の拳で殴り掛かるような姿勢で赤紫エネミーの背中に見るからに強力な一撃を叩き込む。


 それがラストアタックとなり撃破による融解演出が始まるが……見事に獲物を横取りされた形である。


 人影は二人から見て大柄で、細身とは言えない程度の筋肉量を備えていた。


 ヴェナサルヴィアともう一人の少女はその人影が男性と見て間違いない事を確認し何かしらのやり取りをした末、髪と瞳が共にベージュの少女が消沈気味に発言。


「すみません。私がもっとダメージを与えていれば……」

「コスト貯めないで戦い続けるなって、いつも言ってるでしょ? ここはもういいから、ほら行った行った」


 ヴェナサルヴィアの言葉に少女は「はい……」と言って、その場から去る。


 その後ろ姿に男性は自身の部下であり同じく髪と瞳がベージュの女性の事を多少は脳裏に過らせたが……視界内の少女はベージュの中でも上質感のある白さを帯びている為、自分の部下とは大違いだという見解に至った。


 しかもあの女、手入れサボってボサボサの日が多いから髪がほこりみたいに見えて来やがる。ま、んな事より今は……。


 そこまで頭の中に浮かべ、男性は口を開く。


「おいおい、いきなり部下を逃がすたぁ……随分と俺を買ってくれるじゃねぇか」「その腕のヤツ、鉄じゃないでしょ? もしもキミが流入者で向こうの環境で合金製アームを作れるほど充実してる参加者なんて――」


 腕のいいソロプレイヤーもしくは、と続くヴェナサルヴィアの発言を待たずに、合金アームの男性は「は、ご明察」と呟き、更に言った。


「俺こそがオーバーゼウスのリーダー……その名も――」


 男性の正式名称はジェフライアン・ヴォルクォーツだが、そんな情報を明け渡す筈も無く男性は自らの能力を展開し、やや大型の狼の姿を(かたど)った(くら)く蒼いシルエット二体が男性の両側に出現……男性の言葉が続く。


「オズだ。まー、お察しの通り」

「グループ名の頭文字二つ、くっ付けたヤツだね」


「そういうこった。お喋りは……もういいよな?」


 オズの語気が真剣さを増すやヴェナサルヴィアは自らの能力による生成武器であるオレンジ色で金属的な光沢を放つ両手持ちの槍を突き出し、オズが声を荒げながら叫ぶ。


(むさぼ)り喰え……グレイプニール!」


 その言葉を皮切りに狼姿の一体がヴェナサルヴィアへ駆け寄ると大口を開けながら飛び掛かり、体の内側から鮮やかな(あか)が滲み出るや(たちま)ち全身をその色に染め上げて行った。



・Geoffryan Volquartz[ジェフライアン・ヴォルクォーツ]

 本作で女性とまともにここまで、やり取りしたのは2話のKAZ-YA(カズヤ)以来。


・Over Zeus[オーバーゼウス]

 オズと名乗るようになったのはグループを作成してから。


(おおかみ)姿(すがた)

 造語気味だし一応こう読みますとルビ振りたかったものの、ルビが横に広がり過ぎるのでこの場を借りて記載……この為だけにオズの本名を地の文にねじ込んだまである。

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