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あかないキミの、異能世界  作者: 竜世界
ProgressⅤ-RAVEN-
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第28話 制服を着た少女(前編)

 流入者が来てから二日目のフィールドは遺跡マップ……厳しかったけど何とか生き延びた。三日目の今日は森林マップかー……とりあえず早い段階で知り合いに会えたから何とかなるといいな。


 日が届く程度に密集した森林の中で、遠くから派手な音が絶え間なく聞こえて来る……遠くの方で巨大な植物型エネミーが射撃を受けてるみたい。


「序盤から、賑やかね」


 私の隣に居る紅牙(こうが)学園のセーラー服に身を包んだ女の子が呟いた。最初からボスクラスのエネミーが出現してるって珍しい……しかも複数の方向から聞こえてる。


「それぞれの音から遠ざかってみましょう」

「おっけー」


 会話しながら森の中を暫く進むと蝶の幼虫がライオン包めるくらいの直径部分が出来るまで巨大化した感じのエネミーと遭遇。色とりどりの綺麗な花がその背中で咲き乱れてる。


 そんな花に寄生された大きな芋虫エネミーを見た私は、


「らっきー。一番弱いエネミー……ナイフで怯ませてみるから射撃お願い」


 と言ったら、制服姿の女の子はこう返して来た。


「やっぱり炎の魔法だよね」

「……森に、燃え移らない?」


「視界が開けるよ?」


 程なく私の連れはファイアボールをお構いなしに何発もエネミーに浴びせて……エネミー単体が燃えながら撃破されるだけで済み、周辺の木々は難を逃れた。


「あ、宝箱」

「リアルマネー以外だったら中身教えて」


「じゃあ、そこそこ入ってた……とだけ」


 そう言う私の連れと違って流入者には普通にお宝だろうなー……私も合金ナイフもう一本買ったりと食べ物以外でも使い道はある。


「今度はアリジゴクかー……下位だけど四体いる」

「泉の(ほとり)まで行きたいね」


 アリジゴクは特定のトンボの幼虫でこっちは色の悪いキノコの群れが体中から生えたり伸びたりしてる……サイズはさっきの芋虫と同じくらいだけど、角のように伸びた二本の顎部分がハサミのように鋭いから接近戦が結構危ない相手。


 連れの女の子が言った通り、蟻地獄エネミーの背後には泉が広がってて……森を抜けて海に出たような気分になるくらい視界が開けてる。


「ブリザード」


 氷の広範囲魔法アイスストームの更に上位の魔法を準備済みだった制服の子がここぞとばかりに放つと、エネミー四体の周囲に見事なまでの吹雪が巻き起こった。


 能力の中にはRPG色の強いものもあるけど、エネミー自体には基本的に属性が設定されて無い。能力の一環で弱点や耐性みたいなの持ってる場合はあるけど。


 さっきみたいに背中に花……可燃物に覆われてるから物理的に火が有効になるみたいな結果論ケースなら数多い。


 じゃあ何で氷魔法を使ったのか……多分私と連れは同じ場所に視線注いでる。


「氷結耐性ありそうだね、これ」


 ブリザードくらいの冷気を帯びた魔法になると氷結耐性が無いエネミーはこんな感じで表面が若干凍って動きが鈍くなるけど……凍れば足場にもなった泉の水面には変化が無かった。


「サンダーボール」


 四体のエネミーは瀕死状態……「虫の息だね」って言いたくなる衝動に私が駆られては抑えてる内に女の子はその一体一体に「サンダーボール」と言いながら着々と撃破……楽だなー。


「やっぱりあの泉の中央は三体の大型エネミーの中心かな?」

「三方向から戦闘音が聞こえるから、よさそうな考えね」


 私と制服の女の子が思った通りならこの泉の中央に行けば、ここからでも見える歪な大型植物エネミー三体を狙い撃ちし放題になる位置関係……その地点を簡単には陣取れないようにしてるのが今回のマップかな。


 ここからじゃ普通の魔法や射撃は届かないけど、こないだサニーから聞いたレールガンくらいなら射程足りるのかも。


「情報収集は充分ね。移動するわよ」


 言われた通り、私はお喋りしながら今回の収集アイテムとトラップ探しを進める事にした……まずはこの話題からかな。


「中央にあの大型エネミーが陣取る配置だったらヤバかったね」

「でも上位勢は集まるかしら?」


「確かにこの時期に激戦区必至の場所に飛び込むのもアレだね」

「折角、自分や自分たちのグループの脅威が流入者に知られて無いのに、ポイント獲得の為とは言え目立つ場所で全力を出すのは得策ではないわ」


 サニーが「ナベリウス」って向こうのグループ名と「有色の炎使い」というキーワードまで教えてくれたけど……まだ流入者が来て三日目の今日の段階なら、とんでもなく有力な情報。


 獲得ポイントも自分のしか判らないからランキングでエントリーネームさえ割り出せないこの十日間……変に暴れて能力が割れた上で目を付けられるのは見事なまでに悪手だろうね。


 それから結構話し込んでエネミーも制服の子が結構倒してくれたけど……初級の射撃魔法なら次々と連射出来て隙を見て広範囲魔法叩き込める能力は見てて鮮やかだった。


 そして私の方のトラップのレベルが2になってから暫くが経った頃。


「あら、あれって」

「カマキリは上位だったよね……」


 鎌のある腕が四本とか結構違う要素もあるけど概ね大きなカマキリのエネミーの全体からはやたらと綺麗な花が咲き乱れ、芋虫エネミーに生えてたのと同じだけど発育が段違い。


「じゃ、引き付けといて」


 連れの女の子が強力な魔法を撃つ体勢に入った。女の子の能力は短時間で魔法を撃てるけど、一度魔法を決めて準備を始めたらキャンセル出来無くて、魔法の発動が完了するまで次を撃つ判定が発生しない。


 詠唱って言葉を借りれば、その間は無防備になるから、その間は守られて無いと危険……とにかく注意を引き付けよう。


「おっけー」


 実は結構キツイ相手……早速、鎌を振り回して来てその威力と同じ斬撃を飛ばす能力を発動して来た。防壁となる大木は豊富で反応出来ない速度じゃないから回避したけど……結構ザックリ幹の表面が抉れたね。


 流石にこの斬撃一つで大木を一気に二本三本斬り倒す事は無いけど……一発一発の威力よりも自らの動作速度を一時的に倍にする能力もあるのが厄介なんだよね、このカマキリ。それを集団で現れて浴びせられた日には……。


 程なくカマキリエネミーの体が赤く変色して倍速状態になったけど、


「行くよ」


 と声が聞こえたので突進して来たカマキリを回避するや、なるべく離れて……次の瞬間。


「ライトニング」


 そこらの大木を余裕で引き裂きそうな規模の落雷が赤くなったカマキリエネミーを直撃。まだ息はあるみたいだけど、


「アイスカッター……アイスカッター……」


 氷の円盤二つが発射され、鋭利なその刃で追撃して更にダメ押しのひと声が。


「ファイアボール」


 火の玉が当たると崩れ落ちるように倒れ込み……全体の色素が一気に白同然まで褪せると風化して消え去る撃破モーションに至る。


「助かったよ」

「火力が単発で限界あるから……連射向きだなー、この能力」


 変わった能力だったね……さっき言った条件に加えて、三の平方根に一を足した数値……その秒数に一度、初級から上級程度の魔法が使えるだ何て。


 三の平方根は「人並みに奢れや」という覚え方で知られてるけど……それに一を足した二・七三二〇五〇八秒の間に魔法名を発声しても、まだ小数点部分には続きが……〇七五六八八とかだからその分早いので無効になる。


 まぁ「三秒経ちそうになったら次が撃てる」って認識でいいんだけどね。


 あれからカマキリ並みのエネミーとは遭遇し無いもののトラップとも縁が無いから会話を続ける……やっとレベル3になった。


「それでね、リリ」


 アイテム収集は割かし順調で、三ヶ所にいる巨大エネミーが倒される度に制服の女の子――リリが教えてくれたけど……どうも一体倒しても直ぐに同じ場所にもう一体現れる方式だったみたい。


 最初辺りでリリが言ったように、自分達の手の内がバレるのを恐れた参加者やグループが多かったのか、遠慮がちの火力で続けたせいでビル並みに大きい植物エネミーが合計三体撃破されたところで今日のゲームは終了。


 私のトラップもレベル3のまま不発……昨日もこんな感じだったし最近引きが悪いなー。


 次の日のフィールドは廃墟と化した市街地で何かと大変だった……何はともあれ生き延びて好きなバーチャルタレントさんの動画とか漁ってたら、めっちゃ話題になってる動画があって、とりあえず三周。


 ミーティアブラストとでも読むのかなと思いなが概要欄見たら合ってた。カバー動画出したいと言ってたバーチャルタレントさんも私が確認した範囲だけで結構な数だったし、楽しみが増えたなぁ。


 五日目となる明日は折り返しだし、何かあってもおかしくないんだよね……とにかく生き延びて、動く時が来たら全力で挑もう。

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