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あかないキミの、異能世界  作者: 竜世界
ProgressⅣ-PROCYON-
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第26話 その導きは死香の御旗か(後編)

「あっちゃー……またエネミー湧いたよ」

「もう少しで……頑張って!」


 統合二日目のフィールドは古代遺跡マップ。敵を効率的に倒せば討伐ポイントが荒稼ぎ出来るが、同じ場所で倒し続けていると大量の敵に包囲されたり強大なエネミーが出現するようになる『エリアランクシステム』が採用されている。


 アンデスは大技を放つと鞭と射撃の性能が一括して初期段階に戻る能力の為、鞭の大きさを保つ範囲で攻撃するアンは次第に歯がゆさを覚えていた。


 上昇したランクにより遂に上位キマイラが発生。既に通常キマイラが四体とレッドミノタウロスが五体を越える状況で。


 アンが再び撤退を促す言葉を叫ぶか検討し始めた瞬間、


「おっけー! 準備出来た」


 とマイが叫んだのでアンが返す。


「じゃあいい加減ここから、りだ――」

「いや、大丈夫」


 先程ショック死しそうな程の出血量が想定される深手を負ったサリーの声がアンの言葉を遮り、マイの発言が続いた。


「アンは後方で支援お願い……あの大物を、倒す」

「さっきは本当に助かったよアン。帰ったらドラム捌き、見せてもらうから」


 戦闘に夢中で二人の様子を見ていなかったアンが素早く振り向くと……。


 そこには真珠髪を野性的に伸ばし両手でやっと持てそうな黒系ボディに青緑色の発光部分が所々にある、銃と思われる造型の武器を抱えた少女とネオンイエローのサイドテール少女の姿があった。


 先程サリーが利き腕を根元から斬り飛ばされていたのは事実であり、それが今は何事も無かったかのように生えているのも事実。ワインレッドのウィッグはライブ専用なのでフィールドに持ち込む事は無いという情報は些末(さまつ)だろうか。


「能力をこの段階まで強化してて、アンの援護もある」

「大技さえ使わなければ、このサリーの魔法に……(エム)(ピー)切れは無い」


 マイは兵器を構え、サリーが周囲から獲物を見定める中、更に発言したのはマイだった。


「不意討ちを気にせず攻撃に専念出来るなら、私たちは――」


 マイが続けた言葉と共に、マイとサリーは戦闘を開始した。


「こんな相手には負けない!」


 マイの兵器は先程からその何かの色味があり暗清色の条件を満たさない黒同然のボディの所々にある青緑色の発光部分が大きく明滅し、稼働音が大きくなるにつれ兵器全体から電流と(おぼ)しきものが激しさを増して(ほとばし)っていた。


 そして今、チャージ状態を終えた大振りの射撃兵器から上位キマイラ目掛け一発の弾丸が放たれた。


 この兵器はマイの能力による生成物であり、初期状態ならばこの一発が内部を含めたボディ全体に入ったヒビが決壊する決め手となり、黒い射撃兵器はバラバラになり再び時間を掛けて生成する事になる。


 そんな初期状態の兵器に能力を注ぎ込み、修復が進む内にその回復力も強化されるのがマイの能力――『リペアガンナー』。


 修復完了後もチャージ効率向上による次発までの攻撃間隔の軽減、射撃兵器自体のアップグレード、回復力の更なる強化が可能だが……戦闘中にそこまでの長時間を確保出来るかは疑問視されるだろう。


 回復対象が機械と言える構造を持つものであればその効果は増し、人間や生物が対象の際は回復力が大きく低下する。


 今回は右腕根元の傷口とサリーの右腕を繋げつつ黒い射撃兵器の修復も行っていた為、兵器は三段階目までしか強化出来なかったものの初期段階と同じ威力が弾数制限無しで撃てるのは大きい。


 能力による生成物である黒い射撃兵器の機構は、磁力により弾丸を加速させた上で射出していると主張出来る事から「レールガン」の形容が該当する。


 先程このレールガンは悪霊剣本体の斬撃を回避する際に破壊されていたがレールガンのダメージ蓄積に応じて回復量は低下し、完全に破壊される前ならば上述通りの結果となる修復を行う事も可能。


 レールガンを一発撃つ毎に機体にダメージが入るがそれを毎回修復してから撃つ為、攻撃間隔が長くなる一面も……そんなレールガンの弾丸が上位キマイラの獅子部分の頭部に命中し、盛大に爆発。


「サリーの氷と共に……」


 サリーは自らの頭上に氷の塊を生成していた。その氷の生成速度を加速させたり氷を生成する上で消費する先程MPとも呼ばれたコストの回復速度を向上させたりする「スキル」と呼べるものをサリーの能力は備えている。


 スキルのどれかを消費して他のスキルを強化する事が可能で、消費したスキルを復活させるまでの時間を半減するスキルも有する。


 サリーは普段「氷武器生成」のスキルを消費する事で氷生成速度のスキルを強化して氷の初級射撃魔法「アイシクル」を連射するが……今回は違った。


「爆ぜろ!」


 続いたサリーの掛け声と共にライオンより一回り大きいキマイラが根元辺りなら乗れそうなサイズの氷柱が発射され、前足で退けようとした上位キマイラの右手に着弾すると……大爆発が巻き起こった。


 少し前に全てのスキルが未消費状態となり現在は「氷武器生成」と「コスト回復速度上昇」の二つが消費され、「氷生成速度上昇」と「冷気チャージ速度上昇」を強化し、先程の爆発は「氷着弾時の冷気爆発付与」のスキルによるもの。


 六つあるスキルが出揃う中、アンが叫んだ。


「あ、サリー! 私の能力って石化が発動する事で強化する感じだから威力の弱い全体魔法を時々撒いて欲しい!」

「おっけー……アイスストーム!」


 サリーはすぐに最低出力の氷の全体魔法を展開したが、能力の生成物である弱い冷気が石化した場合、微細な砂となって即座に砕け散る為、目を凝らさなければこの変化には気付かないだろう……アンが更に発言した。


「強固な能力の生成物は対象から弾かれるから遠慮せずに攻撃しててー!」


 アンデスの石化は能力の生成物のみが対象であり、「その強化段階の銀の水により確実に相殺出来るもの」という条件も満たす必要がある。


 一般(ジェネラル)でよく見られる能力による生成武器は強固の為、対象とならず、先程巡回剣が対象となったのは悪霊剣の能力の生成物だったが(ゆえ)


 対象となる場合は敵味方問わないが、使用者の視界で凝視されていた場合は判定基準値がかなり上乗せされ、長時間の凝視を果たせば生成武器の石化破壊も可能となる場合がある。


「アンは私があの大物に専念出来るよう周囲のエネミーをお願い! サリーはそれに時折加勢して!」

「わかった……ブリザード!」


 それから上位キマイラを始め周囲のエネミー達は三人へ近付く事も出来ずに一方的に攻撃を浴びせられ続け……上位キマイラの銀炎ブレスは強化段階次第ではアンデスの石化対象にはならなかったが強化状態が維持されていた為、餌食に。


 サリーには氷の魔法体系全てを消費し戦略兵器規模の高エネルギー爆発を巻き起こす大技があったが……そんな『アイスデトネーター』の切り札の出番は無く「アイスソーサラー」とでも形容したくなる活躍に留まったまま、


「獲ったー!」


 上位キマイラを撃破した際の歓声をマイが上げる事態となった。


「敵も丁度全滅……戦闘終了でいいよね?」

「だね……そんじゃさっき見つけた空の宝箱があった場所に行くから、サリー案内お願い」

「らじゃー」


 移動直前に念の為にとマイはサリーの右腕に回復を施す……完治していた場合それ以上は何も効果が起きない仕様なのは機械を対象に想定しているからか。


 そんなに近くにある場所では無かったが何事も無く一同はその場に辿り着き……会話を始めた。


「右腕飛んだの久しぶりだけど、アンが痛みを堪えようとしてる間に凄いもの見せてくれたおかげで、それどころじゃ無くなったのは助かった」

「咄嗟に回復投げて出血を和らげたのも正解だったかな」

「ていうかマイちゃんヒーラー何だ……凄いねー」


 レールガンの強化段階次第では先程と同じ欠損も一瞬で直せ、それを広範囲に及ぼす事まで可能になるヒール効果の能力の持ち主への賛辞としては過小か。


「この回復力を当てにして無茶してバラバラになって……一瞬で繋ぎ合わせたけど損傷の無い死体が出来ただけになったメンバーもいたけどね」

「それでもマイの回復は助かるよ……指先の感覚も元通りになるから明日もサリーはギター弾けるし」

「とにかく明日からドラム頑張るから、よろしくです!」


 それから幾らかの間が流れた末に、マイが喋り出す。


「今回は早々と合流出来たけどグループ機能の、所属メンバーの同一スタート地点集合……これ無いと厳しいなー」

「前のグループはもう解散してるから新しくグループ立ち上げるのも手だけど……アン、あなたって」

「あー、ごめん。今所属してるグループを抜ける気は無いです」


 活動自体には無関心なのに対しルプサのメンバーは全員、リーダーであるクララへの忠誠心は不可解なまでに強固だった。マイが落胆する。


「そっかー……」

「でもサリーちゃんとマイちゃんがいいなら手はあるかも……久しぶりにリーダーに会ってお話して来る」


 そして翌日のフィールド発生前のガーデン内路上にて、アンが発言。


「今日もやってるねー……じゃ、ドラムセットの配達先はここで」


「これでアンが凄い下手なドラマーでしたってオチは勘弁だよ?」

「ふっふーん。そっちを期待するのは間違いだよー?」

「じゃあマイ。いきなり激しい曲とかどうかな?」


 サリーの発言から暫くして、


「む、あのトラックはもしや」


 ずっと傍で眺めていた昨日もいた金髪の女性の予想通り、アンドロイドと思われる宅配業者がステージにドラムを設置……トラックが出発する頃にはアンのドラム演奏が始まっていた。


「おー……」

「ドラムの音だけで何の曲か判る……しかも、サリーがやろうと思ってた曲もよりもアップテンポが激しいやつ」

「もう合格でいいー?」


 マイもサリーも異論は無かったが……やがて一つの問題点に気付いた。


「でもこの大きなドラム……どうやって持って帰るの?」


 マイが投げ掛けた疑問をアンはドラムスティックを指で回しながら返した。


「フィールドが発生した際に所属グループの拠点に転送する。あとマイちゃんとサリーちゃんが私の部下になるって体なら、私がグループに所属したままマイちゃんとサリーちゃんと一緒に行動出来るようになる。しかもね……」

「しかも?」


 思わせぶりな様子に対し聞き返すサリー……そしてアンは続けた。


「拠点に部下用の部屋が追加されるから、そこに機材置けるよ。しかもここまでの提案内容はリーダーに教えてもらった」

「……そういえば、そんな機能あったな」


 金髪の女性が小声で呟いたが、リーダーの(あずか)り知らぬ所で会議が可能な性質から謀反準備室とさえ揶揄される風潮から利用を警戒するグループは統合前のこのガーデンだけでも多かった……(もっと)も今回は用途の段階から叛旗(はんき)(ひるがえ)しているが。


「……話が美味過ぎるけど」

「最早サリーは運命の収束を感じてる」


 そして初めての三人のセッションは相乗効果が目覚ましく、周囲のアンドロイドだけでなく参加者も紛れた群衆が形成された。


 そんな中、先程の間奏でマイが神妙な面持ちをしていたので、


「マイ、どうかした?」


 とサリーが訊くとマイは「ううん……」とだけ返した。


 ユニット名が決まった。


 それだけの理由によるものだった。


 観客となった群衆が沸き立つままに曲をこなしては時間が流れ……統合三日目のフィールドが発生した。


「それじゃあ」

「この戦いが終わったら……」

「私たちは」


 マイとサリーとアンはテンポよくそう喋り、息ピッタリに次の言葉を叫んだ。


「バンドを結成します!」


 次の瞬間、その場にいた参加者たちは全員フィールド内へと移動したが……。


 盛大な死亡フラグが立ったように見えるのは気のせいだろうか。

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