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あかないキミの、異能世界  作者: 竜世界
ProgressⅣ-PROCYON-
23/67

第23話 初日はスイーツと共に

 フィールドのマップは毎回違うわけじゃなく、数あるバリエーションの中から一つが選ばれる。たまに同じマップが連続する時もあるけど、マップの地形やらオブジェクトの分布は別物で、エネミーは上位三つ以外固定。


 今回のマップはお菓子の家と綿飴(わたあめ)のような色合いのピンク色の空が広がり、パステルカラーの草原には所々で花が咲いてる。毎回分布が違うとは言え、草原と花の色は区域によって違うから現在位置の把握に使えなくもない。


 得点アイテムのラインナップも今までと同じだけど、今回はトレードをシステム側でも出来るようになってて、今回集めたポイントを直接リアルマネーに交換出来るし、その中には拠点へのスイーツ転送まで。


 段階的に用意されてて最終的には高級スイーツになるけど、一か月くらい前の向こうからの参加者にとっては板チョコ一枚だって立派な賞品だったんだろうなぁ。


 飢えを凌ぐ為でも無く、頭への糖分補給では無く、純粋に「甘いもの」を食べる時間……板チョコ一枚余分に手に入るだけで、どれだけ心が潤った事か。


 向こうからの参加者……流入者だって判れば、そこをツケ入る隙はありそうだけど一ヶ月の準備期間中にもう皆、慣れてるかな……特に上位勢は。


 まぁ、交渉材料としてイケそうだったら手札として出してみよう……そう思いながらキャンディーを集めること二十分――


「よし、その条件飲んだ! 雇われましょー」


 その褐色肌を結構露出した服装で胸部分も上位のボリューム……そんなベージュ髪でココア色の瞳をした女の子の護衛げっと。


 オススメのお菓子屋を教えるって言った時の喰い付きが半端じゃ無くて、場合によっては追加ボーナスでスイーツ奢るという感じで交渉したら、私の能力を伏せたまま褐色ちゃんの能力をある程度教えてもらう流れに。


 私より背の高いこの子の褐色具合はベージュ髪の白さが際立つ結構な濃さだけどそこまで極端に暗い色合いじゃない。


 そんな褐色ちゃんの能力の説明を挟みながらお菓子の家の捜索を回る中。


「じゃあ、その対物ライフルのスコープ覗いてなきゃ能力が使えない感じか」

「弾を発射するまでゲーム参加による強化状態でも十秒。まともな弾丸になるまで三十秒……その間ずっとスコープ覗いてなきゃいけないし」


「スコープを覗くの止めた途端、覗く前に戻る」

「あんまり覗き続けても本来の重量を取り戻して持つのがキツくなるし……さっき言った地雷生成の時だけは幾ら眺めても重量が軽減されたまま」


 むしろその地面限定で撃てる特殊弾の方がメインの能力かも。


 時間を掛ければ対物ライフルの火力と見合うかもしれない地雷を一度に複数生成出来るんだから。


 そんなこんなでゲーム開始から一時間が経とうとしてた頃、蝶の飴細工をドロップする蜘蛛型エネミーを発見したので二人してお菓子の家の屋根まで登る。


 スコープを覗く時間と周囲の安全性の変化を教えてくれる者がいれば、一方的に生成した地雷で爆撃出来る……エネミーなら地雷原への誘導も狙えるし。


「音も見た目も派手だねー」

「こうして背中を預けれれば、やり易い能力なんだけど……」


 私がナイフを持ってる事は明かしてるけど、スコープ覗いてる間に背後から刺す事が出来る状況が常に成立してしまうという。


「何も知らない相手なら対物ライフル出すだけで脅せそう」

「でも向こうじゃヤバイ重火器生成する能力者の噂が有名で、こんな単発式の銃なんて、しょぼいって思っちゃう」


 ヤバイ銃かぁー……そう思いながら私は軽い気持ちで発言する。


「例えばどんなのあった?」

「レールガンって知ってる?」


 電磁加速砲とも言うね……IGCテクノロジーでも精力的に開発はされてるけど現在製品化されてるのはトラックの縦長コンテナに収まり切るか怪しいくらいゴツイやつ。


「火薬の爆発力の代わりに磁力で加速させた実弾を発射するんだっけ?」


 ザックリ言うならそんな感じ……褐色ちゃんが真剣な声色で返して来た。


「噂によると、両手で割と抱えられそうなサイズだったらしい」


 そうなると形状次第では電磁加速銃……能力って極端な例えだけど割り箸鉄砲からレーザー発射みたいな事を平然とするからサイズや構造の話は、まぁ。


「んー、これはスイーツのお店を紹介するだけじゃ済まないね」

「期待してるよ!」


 そんなこんなで私の方の能力もレベル3に……キャンディも結構集まってる。


「結構、突拍子も無い方向に行きたがるせいか、他の参加者見当たらないねー」

「戦闘音は聞こえるけどねー……それにしても中央にあった塔のようなウェディングケーキ」


「空が赤く染まる頃、何か起きそう」


 初日だから慎重に行動してる参加者多いのかな……その後も私はキャンディを集めたり褐色ちゃんの地雷がエネミーを倒すのを眺めたり、会話から有力な情報が出て来たり……例えば断続的な会話を振り返って繋げると、こうなる。


「にしてもこっちのガーデンは快適だなぁ……以前の所は凄い荒れてたから」

「一面が砂漠で水さえも貴重だったの?」


「んー、こっちのガーデンみたいな大都市が一気に廃墟化したような感じ……電気の供給が不安定で、食料はゲーム中のスコアや報酬で調達。敵対するグループが鉢合わせすれば衝突が起きて、フィールドが発生する事で中断されるみたいな」


 そして暫くしてから、こんな事も呟いてた。


「あー、そうそう。食料や衣類の入った小箱やコンテナが投下される事あるんだけど……それが発端で争いになったり……っと、エネミーいた」


 で、これは私の質問から始まった。


「発生したフィールドにRPGみたいなエネミーやマップってあった?」

「あー、こっちのガーデンと向こうで発生するフィールドの内容が違うって可能性か……普通に何度もあったから、多分共通だと思う」


 そして今、会話してる内容。


「ほんっと、あの綿飴みたいにふわふわしたピンク色の空が赤く染まるのって不気味だよね……」

「あそこにいる金色のカブトムシ……上位エネミーだ」


 ライオンサイズのアリが下位エネミーのこのマップで、全長三メートル越え余裕のカバでも見てるかのような体躯は迫力ある。カブトムシ型と言った通り長い角が生えてるから全長は更に長くなるし、あとこれ三本角。


「ああいう角してるのは……コーサカスだっけ?」

「……コーカサスオオカブト、だったような」


 そう返した私だけど、だんだんどっちか判らなくなって来た……これがゲシュタルト崩壊。


 とりあえず褐色ちゃんが地雷を生成すべくスコープを覗き始めたけど……案の定金色カブトは三本の角の間から電気状のエネルギーを集め始め、すぐに大きな球体となって多分、雷を(ほとばし)らせながら発射した。


「飛び降りよう!」


 褐色ちゃんの能力は相手が遠距離攻撃して来ると一気に不利になる……特に速射や連射タイプだったらもう勝負あったも同然。


 二人してお菓子の家の屋根から飛び降りると、さっきのサンダーボールが屋根に直撃して……何か建物まるごと抉るくらいの規模の爆発が巻き起こった。


「これ、着弾時爆発効果が追加されてる!」


 サンダーボムとでも名付けようかな……さて、こう叫ぶべき状況だね。


「さっきのやたら大きなスティックキャンディが刺さった家まで戻ろう!」


 レベル3のトラップが傍にあるわけでも無いから退却しか無い。


 暫くするとサンダーボムの追撃が来たけど……褐色ちゃんは逃げながらスコープを覗いてたから、仕込んだ弾丸を放つ。


 ここで普通の弾丸から昇格した徹甲弾を使う選択肢もあったけど、褐色ちゃんの選択は手堅かった。


 対物ライフルから銃弾が放たれた次の瞬間、その前方にバリアが展開され、サンダーボムとその爆発を防ぎ切った。


 スコープを覗いた十五秒後に三種の弾丸を選んで、それを強化して行くのが褐色ちゃんの能力……今回はバリアが展開する弾丸を選んだって事。


 割り箸からレーザーの例えと弾丸が炸裂でもしてバリアが展開するこの実例……いい勝負になると思う、非科学的な意味で。


「んー、やっぱりこの能力でソロは無理!」


 もう一発バリア弾を撃った際に褐色ちゃんが叫ぶ。徹甲弾の方を撃ちたそうだけど、効かなかった場合のリスクが怖くて選べないみたい。


 そりゃ、建物の中に潜んで狙撃しようとしても、その建物ごと吹き飛ばせる射撃能力を持つエネミーが相手……スコープを覗いてる間、その疑心暗鬼と格闘する事になるのも相まって消極的にもなるね。


「ディスタンスがプロミネントの人が羨ましいよ……」


 そう零した褐色ちゃんのディスタンスは一般(ジェネラル)で確定だね。基底(ベイシス)以上の事が出来るけど三種類の弾丸が放てる対物ライフルの生成じゃ、複雑性は今一つだし。


 無事逃げ切った後は発生頻度の上がった蟻型エネミーを屋根の上から地雷で撃破される様を眺めて、その過程で徹甲弾の威力も拝めたけど……もしかしたら、あの金色カブトに通用したかもって威力だった。


 私のキャンディ集めの方は捗った方だけど……トラップがレベル3のままゲーム終了時間を迎えたのは勿体無かったね。


「さて、ポータルが出現したけど……どれくらい報酬を期待すればいいかな?」

「よければ、このまま一緒にオススメのお店に移動したいんだけど」


 結局、中央のウェディングケーキはただの飾りで終わった……今回のマップ内でのエネミー撃破状況次第では何か起きたのかも。


「おっけー! たくさん食べるぞー!」


 ポータルでガーデンに戻る際、こんな風に片方が知ってる場所に、その場所を知らないもう片方を連れて行く事が出来たりする。


 私が言った通りオススメのスイーツ喫茶まで二人して移動したけど……これ、私が褐色ちゃんを騙して全然違う場所に連れ込む事も出来たんだよね。


 そんな褐色ちゃんを待ってたのは特大パフェを食べ切れば無料になるチャレンジキャンペーン。告知バナーを見た褐色ちゃんの瞳は輝いて見えた。


「じゃ、まずはこれを失敗しても料金は私が払うって事で」


 そして五人掛かりでも食べ切れるか不安な量の山盛りパフェが運ばれて来ると、


「あぁあぁあ、ああぁ……わたくし弥原(みはら)(ささめ)は……このパフェと結婚します!」


 錯乱し過ぎて、おかしな事を言い始めた上に、その結婚相手にスプーンを突き立てその肉を掬い上げた……いや、アイスの塊だけど。


 本名暴露もしてたけど日本人だったんだね……遺伝子だけでは為せなかった、この見事な褐色肌に感謝。


「ここ、コーヒーも美味しいんだよねー」


 私がちまちま、褐色ちゃんがバクバクとパフェを食べる中、連絡しながら、そうぼんやり呟いた私だけど、聞こえて無いねこれ……。


 色とりどりのパフェは様々な種類のアイスだけでなく、複数のソースも内側に潜んでる。それが今じゃ最初の全体像が想像出来ないくらい、減ってる。


 私はもう一通り食べたし、このまま任せてもよさそうだね。


 私はティラミスと紅茶を注文して、未だにペースの衰えない褐色ちゃんがパフェを食べる様を眺め……返信作業しつつ、のんびり食べてたティラミスがまだ残ってる内にスプーンがパフェの底まで落ちる音が静かに響いた。


「嗚呼……人生って、素晴らしい……」


 パフェで開ける、悟りがあるらしい。


 褐色ちゃんの満面の笑みが少しは収まって来ると、目を輝かせながら迫るかのようにこう言って来た。


「で、で? この店のオススメは!?」


 私がやんわりとティラミスに突き刺してたフォークが力なく倒れた。


「だ、大丈夫なの……? とりあえず甘い、酸っぱい、苦い。どれにするかで変わるけど……」

「味よりもフカフカしたものが食べたいなー……パンケーキとか!」


「じゃ、じゃあこの柚子蜂蜜ソースたっぷりのがあるけど……」

「食べるー!」


 あのパフェを満たしてた容器、普通サイズのネコ三匹入れてもまだ余裕あるくらいだったんだけど……脂肪という概念が死亡してるのかもしれない。


 さて、ポータルを使って自宅の位置次第では遠出してしまったこういう時、そのまま帰るのは付けられて潜伏先がバレるという不安もある。


 その辺に必要な会話は今終わったけどね。私にはニーナ以外にも知り合いのIGC社員がいるから、今日はそこで泊まる事だって出来る。


「じゃあ今日はそこに泊まろっか!」


 少し顔色の怪しくなって来た褐色ちゃんと途中からお店に入って来た制服少女を連れて出発して……その晩、私たち三人は何事も無く宿泊先に辿り着けた。

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