第22話 第三次ショッピングモールイベント
この十日間は完全参加だなー。
そう思いながら私はこないだも行ったショッピングモールを目指してた。
昨日手に入れたリネームチケットは無期限だから急いで使う事も無い。
制限時間まで真面目に探索して結構宝箱見つけれたけど本当に全部リアルマネーだった……ちょっとした臨時収入。
「さて、どうしたものか……」
暫くすると、その言葉通り、思案に耽ってる女の子に遭遇。
被ってるキャップ帽がお洒落だけど、ペリドットと言うには少し無理がある長い髪に目が行っちゃうなー。
ペリドットは緑色の宝石の中でも日光を浴びた葉の色のような黄緑色の宝石……そんな色に暗めの灰色を混ぜればこんな感じになりそう。
私が「どうしたの?」って話し掛けると振り向いたけど、それで瞳の色が琥珀を見てるかのような色合いだって判った……あと胸が凄いボリューム。
「あ、ここの人?」
その質問、この時期はちょっと答え辛いけど……黙ってる内に女の子は続けた。
「いいじゃん。どうせ攻撃出来ない期間だし」
まー、そうなんだよねー……じゃあその状況に甘えて……私は口を動かす。
「バトルだけでなく敵性行為の禁止……これ、抜け道無いよね」
敵性行為という事は能力で相手に何かしらの作用を与えるのもダメ。
能力の使用自体は禁止されて無いけど……折角だから話のタネにするかな。
「……透視能力とか、どうだろ」
私が更にそう言うと女の子が半信半疑な声色で返して来た。
「危害は加えて無いから……アリになるんじゃない?」
変身能力もありになりそう……さて、折角だからこれも。
「あなたのいたガーデンって、どういう所だった?」
「本題来たねー……じゃあ教えてあげる代わりに」
そこまで言うと女の子は指をショッピングモールに向けて、
「この街のお買い物スポットを色々教えてよ。ボクが有力な情報だと思った分だけ、その事を教えるから」
そう続けた。にしてもその女の子全開の可愛い雰囲気でボクっ娘……いいね。
ショッピングモールに入った私は女の子を真っ先にここへ連れて来た。
「これの使い方は分かる?」
一見すると椅子があるだけの何も無い場所。
案の定、女の子が「どれの……?」と言って来たので私が指を近付けるとウインドウとキーボードが平面投影される。
「これで最新のゲームがゲーミングPCと同じスペックでプレイ出来るから、検索何てあっと言う間」
この辺の立体地図を表示させた上で投影されたキーボードにキーワードを入力して行き、周辺にあるお店の情報群が一気にハイライトされる。
「マジか」
そんな反応をダメ押しするかのように私は情報提供を続ける。
「あなたの自宅にもこれと同じのがあれば、これと同じスペック」
「……もう向こうから来た人全員が共通して話せる情報、全部話すよ」
「じゃあ、ちょっと待って」
私はここのシステムへの申請アプリを起動して、私と女の子の会話内容を秘匿するよう申請……この有料サービスは前からある。
「結構掛かるねー」
利用料が表示された次の瞬間、こんなメッセージが表示された。
――現在、参加者保護期間の為、今回の工作に関わる申請の料金の支払いを不要とします。申請内容を編集しますか?
「こんなメッセージ初めて見た」
そう驚きながらも私は、料金を気にせず偽装工作申請が出来ると判ったので内容を変更して行き……確定ボタンを押すと共に言った。
「これで……ショッピングモールに入って来た段階から私とあなたは男女カップルとして監視カメラに記録されて……最後は口喧嘩の末、別れる。そんな風に表示されるようになったし会話も全部偽装の対象になる」
「本来支払う筈の金額がヤバイ事になってるけど、生々しい設定だね」
これであとは誰かに会話を聞かれないように話せばいいだけ……前回の反省を生かし、ファーストフード店に行って、ハンバーガーにポテトにシェイクの定番セットを注文……人の流れに注視ながら私と女の子は会話を始める。
「じゃあ、あなたのいたガーデンはポストアポカリプスな荒廃した世界で、食料がゲームの報酬になってたの?」
「こんなにふかふかなパンも貴重品だったんだ……ゲームの中位報酬にラーメンが出た時なんて皆、全力で戦ってたよ」
「そんな生活がここ一ヶ月前に一変……」
「今思えば、こっちのガーデンの環境に馴染ませる為の期間だったね。昨日いきなりこんな物資も食べ物も豊富な大都会に引っ越しされてたら、皆は喜んだろうけど大混乱だったろうね」
地球にいた人間がある日突然、商業都市に閉じ込められるのと、水も食料もロクに無い荒野に閉じ込められるのとじゃ全然違う。そういうガーデンだと元居た場所に帰りたいって思いを募らせる人、多発しそうだなぁ。
「まともな通貨なんか無かったけど、この一ヶ月は電子マネーがゲーム報酬になってて頑張って集めたなぁ……昨日の迷宮は美味しかった」
あの宝箱探し、貯蓄面における格差の調整も兼ねてたんだ……さて、普通の話を振るかな。
「そういや今日はショッピングモールで何をするの?」
「服探し……安いお店知ってる?」
「バカ高く無ければある程度の品数まで全部私が出す。あなたが教えてくれた情報を初日で仕入れられたのってそれだけの価値があるから」
あと、そんなお洒落な帽子を選べる子にお金が無いからって理由で似合う服とかを諦めて欲しく無いのもある……まー、高いものは本当にバカ高いけどね。
というわけで品揃えの入れ替わりの激しいあのアパレルショップへ。
「この緑と黒の……暗いビリジアンだからこれも緑か。このジャケットいいなー」「まずは何着か選んで、最後に選ぼう。選び切れない時、両方で」
やっぱりいいセンス……これなら奮発し甲斐もある。
「ビビッドなTシャツ幾つか欲しい……でもこっちの白地にロゴや模様あるのも捨て難い」
「それなら全部買っちゃおう」
買い物は順調だし、ちゃんと総額見てる……次々と決まって気持ちいなー。
「短パンはシンプルなものでいいかなー……そろそろ靴屋に移動したいかも」
よし、行こう。ここからだと結構歩くかな。
「この黒っぽい靴と白い靴両方は……予算オーバー?」
「まだ大丈夫」
どっちも靴紐がビビッドな色を使ってて、どっちも似合いそう……靴のサイズもバッチリだし、ここも結構品揃えの回転早い。
ちなみに、もう昨日の迷宮で稼いだお金全部使ってもいいやって気になってる。
「首からヘッドホン下げるの……憧れだったんだよなー」
れっつごー。もたもたしてたら今日のフィールドが発生するし。
勢いのままに黒系と白系のヘッドホンを両方支払う……アクセントに使ってる色がこれまたお洒落。
「流石に疲れた……ヘッドホン見てたら音楽聴きたくなって来たし」
女の子がそう言ったので、あのウインドウが開けるエリアまで移動してからこう訊いた。
「どんな曲が、今聴きたい?」
「全身の血が滾るような熱いヤツ」
それならこの個人バーチャルタレントのこのカバー曲動画がオススメだね……夏の果物のフレッシュさを感じるみたいな曲。
……再生し始めてから気付いた。これ熱い曲じゃなくて、暑い曲だ。
「お、これはこれで……夏の日差しを感じるなー」
「可愛い声でしっかり歌唱してて、立体投影に対応した動画形式でダンスまで披露してるんだよねー……次はちゃんと熱い曲を流すね」
曲が終わり私は今度こそと吸血鬼をテーマにしたシリアスなアニメ化作品の主題歌をカバーした同じバーチャルタレントの動画を再生……ダークな戦慄にこの激しい曲調……そしてこの歌唱力。テンション上がること間違い無し!
「これ、これ! こういうの!」
気に入ってくれたようで何より……このままオススメ動画を紹介したいけど、お互いフィールド発生は逃せないだろうし……今回から参加拒否不可能になっててもおかしくない……そう思ってたら。
「よし、決めた!」
視聴後も座ってた女の子が急に立ち上がって、
「リネームチケットを使う! 今からボクの名前は……」
動画を見て興奮したままのテンションで、こう叫んだ。
「サン・ブラッド! 呼ばれるならサニーがいいかな!」
この流れだと完全に吸血鬼に太陽を浴びせる光景が浮かんでしまう……まさに勢いだねー。
「じゃ、あとは時間いっぱいまで買った服の試着と行こうか」
「おっけー」
そうやって手頃な試着室に入って最初のパターンを見せて貰った後、
「それにしてもこの買って貰った服とか……ゲーム始まったらどうしよう」
「フィールドに転送される際に、その時持ってる荷物を自分の家とかに送るって向こうではやってた?」
「え? そんな事出来るの!」
「あー……」
そういや、ネット環境もちゃんとあるかさえ怪しい所にいたからね……こういう小技的な情報も出回らないか。
「私はゲームに参加しない時に出現したポータルの移動先を自宅に指定して帰るってヤツ、大分やったなー……」
「参加拒否したら、どうなるか怖くてやった事無かったなー」
情報共有って大事だなー……さて、あれから試着も3パターン目に突入。女の子がふと、こんな発言をする。
「本当に……何から何までありがとう」
「いやー、めっちゃ楽しいよ」
昨日迷宮で稼いだお金の半分以上飛んだけど、向こうの参加者の事情を知れて、このお洒落なファッションショーが見れただけで元しか取れない。
「流石にそろそろ来ると思うから、少ないけどお礼の情報」
そうだね、こんなウキウキ気分でフィールドに行くわけにも……サニーの言葉が続いた。
「ボクはソロでやってるけど……ボクのいたガーデンのグループの中でも特にヤバイグループ名は……」
本当にその情報、今日払った金額に釣り合うよ。サニーは静かに呟いた。
「ナベリウス。有色の炎使いには気を付けて」
その言葉を頭の中に刻んでいると、遂にフィールドの発生通知が来る。
「参加拒否、出来るみたいだね」
「でもこの十日間は……」
「まぁ、全部参加だよね」
そして私とサニーそれぞれが、統合後最初のゲームへと向かった。




