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あかないキミの、異能世界  作者: 竜世界
ProgressⅢ-THIRTEEN-
18/67

第18話 少女クララと念動力

 広い通路を駆ける、黒猫パーカー少女の姿がそこにあった。


 あの部屋に留まってはいけない。


 押し寄せるその感情に突き動かされるかの如く、少女は長い通路の出口を目指し扉の無いその場所まで辿り着くと、そこには眼鏡を掛けた少女の姿が。


「この先は危険だから! 他の場所を――」

「ふーん。この先に、何があるって?」


 少しは見知った女性に声を掛けた黒猫少女は初めて聞く女性の声に驚き、発言がそこで止まる。


 走る勢いは止めずに部屋まで入ると眼鏡少女の横に金色で細身のフルリム眼鏡を掛けたエメラルドの瞳を鮮やかに湛える女性がいる事に気付く。


「一番強い通常エネミーが突然出て来る部屋で、奥に青い大きな肉の塊があったんだけど……それが動き出す音が聞こえた」


「なるほどー……で、キミはどうする?」


 女性は長身でその体格に見合った胸の膨らみもあったが、極端に大きいとまでは両要素とも言えない。胸に関しては黒猫少女の方が明らかに勝るだろう。


「このまま、走り去ろうかと。あ、この辺に少しは安全な場所ってありますか?」

「それなら……」


 金縁眼鏡の女性の髪はアメジストに青をある程度入れ、ほどよく黒を加えた……青紫の暗清(あんせい)(しょく)という言葉で片付けるのが勿体無いほどの絶妙な色合い。


 そんな髪を腰より先まで伸ばし、多少以上の乱れはあるが髪全体で均等なウェーブを描き、ボリュームいっぱいに広がる後ろ髪の至る所はに幾つもの小さな髪飾りがあり、全て白いものの異なる材質も多い。


「ここから見て左側にある扉のカードキーは持ってる? 向こうの部屋にある緑のカードキーを開けた通路の途中に隠し扉があって、迷路みたいに柱が分布する部屋に繋がってる。あと、その部屋にあったアイテムはもう取られてる」

「ありがとうございます!」


 礼を言った黒猫少女が向かって左側の壁に複数ある扉を調べて行き……やがて青のカードキーで開く扉から出て行った。


 金縁眼鏡の女性は嘘を言っていない為、黒猫少女が多少は身を潜ませられそうな隠し部屋に辿り着くのも時間の問題だろう。


 それから眼鏡を掛けた女性二人は広い通路を進み、黒猫少女が恐れた部屋まで辿り着いたが……金縁眼鏡の女性は黒猫少女と遭遇した時から、手の平に縦長気味の八面体を浮かべており、ここへ来て青から白に色が変化した。


「あー……じゃあ、白っぽいエネミーが出たら教えて。アタシが倒し損ねたのは横取り気にせず倒してっていいから」

「あ、えっと……」


「まーずは様子見かしら」


 部屋の奥には脈動する青い臓器のようなものがあり、小部屋一つ分では収まり切らないほど巨大。ボディの至る所から触手が伸びており、全体が時折僅かに電流を走らせ、その音が部屋の中で微かに響く。


 強烈な青を一様に放つ臓器エネミーが触手の一本を帯電させ、金縁眼鏡の女性目掛け打撃を放つが、女性は先程の白い八面体を握り締め……その八面体が無くなった瞬間だった。


 淡い金色に明滅する光の粒子がダイヤモンドダストを思わせる様相で(きら)めく領域が展開……これがバリアであったならば、臓器エネミーの触手が帯電する電気型の能力――「能力の生成物へのダメージ増加」により突破されていただろう。


 結果だけ見れば、触手はこの空間に阻まれたかのように攻撃が逸れたものの、その後の触手の挙動が何かに引っ張られるかのように右側に出現していた取り巻きエネミーの方へ。


「もー少しアレに近付くわ」


 触手が取り巻きの漂泊エネミーに激突するのを待たずにそう発言した金縁眼鏡の女性が後ろの眼鏡少女と共に前進し、すぐに第二第三の触手が淡い金色空間内まで来るが、二本とも右の漂泊エネミーの方へ向かい、打撃を与える形に。


 空間内かつ女性の目の前に漂白エネミーが現れるが、ほぼその瞬間に眼鏡少女から見て巨体の漂白エネミーは臓器エネミーの方向に発射されたかのように吹き飛ばされる。


「じゃー、アタシの背後とかにエネミー出現したら叫ぶとかして」


 その言葉と共に淡い金空間が解除されるや、金縁眼鏡の女性の両手に武器が生成され、女性はそのアサルトライフルを連射し始めるが……後ろにいる少女はその弾丸が前だけでは無く右側奥にいる取り巻きにまで当たっている事に気付く。


 銃弾の一部が途中で方向転換したかのように右側に流れて行くかのような光景が繰り広げられていると言える状況。


 青い強靭な触手が三本ほど金縁眼鏡の女性に向かい、今度は回避行動をしたもののその間も発射された弾丸の群れは臓器エネミーへと曲がって向かう。


 そんな金縁眼鏡の女性を後ろで眺める少女も全く戦闘能力が無いわけでは無い。


 能力により手榴弾を生成する際に通常弾の他に閃光弾、消火弾、更にもう一つ加えた四種から選択する『エレクトボム』の能力を持つ眼鏡の少女。


 ディスタンスはジェネラルだが、四種の爆弾の中には威力は一切無いが爆発の際に超音波のようなものを発生させ、その反響定位(エコロケーション)情報を使用者が取得するものがあり、暗い場所の多いこのマップでは活用が見込める。


 しかし、目の前の金縁眼鏡の女性と遭遇し、流されるように付いて行ってからは明るい部屋しか無く、通常弾も切り札と言える程の威力は無い。


 そんな自分がこんな大捕り物の現場に参加していいのだろうか。


 眼鏡の少女はそんな疑問を抱きながらも漂白エネミーの出現の有無を注視していたが……エレクトボムによる通常弾は一度に複数の生成は出来無いが、強化状態ならば爆発前に次が生成可能な事をこの少女――史邑(しむら)(みぞれ)は気付かずにいた。


「一気にダメージを与えてみよーか」


 金縁眼鏡の女性の方がそう呟くと手にしていたアサルトライフルが消え、女性の前方に手榴弾らしきものが十八個出現。威力はエレクトボムの通常弾を大きく上回る強化状態……そして女性は先程の淡い金色空間を展開。


 次の瞬間、十八個の手榴弾全てが臓器エネミーへ向かい……触手に阻まれる事無く直撃し、同時に爆発。すぐに晴れた爆煙から爆発箇所の部分が大きく抉れている様を目の当たりにした金縁眼鏡の女性だが……。


「再、生……?」


 大穴部分が次第に塞がって行く様を見て、史邑霙が恐怖を滲み出すような声色で呟いたのに対し、金縁眼鏡の女性は平然とした声で言った。


「まぁー、上位のエネミーには大抵あるから。一旦さっきの通路まで戻りましょ」


 そう言うや女性は淡い金色空間を展開し、巻き込む事の出来た漂白エネミー二体を臓器エネミーの所まで発射させる。


 淡い金色空間の外では、主力となる能力の対象に「能力による生成物及び生物などの意志を帯びたもの、その装備品」は含まれない為、アサルトライフル状態の時は無防備。


 そんなアサルトライフルが放つ銃弾に限っては能力の対象になる為、先程のような軌道変更が可能となる。


 臓器エネミーには近距離にいる者を巻き込む範囲で大規模な放電を行う大技があるが……近付くどころか触手での追撃を逸らされながら部屋入口まで後退して行く相手には使う機会が訪れそうに無かった。


「撤退ですか?」

「いーや、コストの溜め直し」


 通路からやや進んだ所まで来ると、金縁眼鏡の女性は手の平に再び縦長八面体を出現させ……その色は緑だった。


「この水晶みたいなのが白くなったらまた向かって、水晶が緑になるまで減ったらまたこうしてコストを溜め直す……その繰り返しをしたいんだけど」

「どれくらい……掛かるんですか?」


「あと五分くらいかな? 今は強化されてるけど、通常時にゼロから白を目指すと十分近く掛かる」


 縦長八面体は黄緑の輪郭線状態から始まりチャージ秒数に応じて緑、青、白、赤と段階的に変化して行くが、通常時は赤になるまで一万二千秒……三時間二十分掛かるが、強化状態ならば四千秒と取得コストそのままに必要時間が三分の一に。


「ところでこの通路に誰か来たか判る能力持ってる?」

「あ、あります」


 金縁眼鏡の女性の手榴弾も特殊なものを生成出来、ごく一瞬、閃光のようなものを放ち、その範囲内の熱源と生体反応並びに能力生成物の位置情報を暫くの間なら常に取得可能になる機能を有するが、最低でも青になるまでのコストを全消費。


 史邑霙を連れた金縁眼鏡の女性は少しの間、事実上の休憩に入ったが……ここで触手を逸らし、銃弾の軌道を曲げ、漂白エネミーを吹き飛ばす。彼女が主力とする能力は何なのかを例え話を少しだけ交え、考えて行こう。


 金縁眼鏡の女性のエントリーネーム『クララ』を用いて……当然ながらリネーム後の名称である。


 瓦礫の山が広がる場所でクララという少女がエネミーと対峙し、一際(ひときわ)大きなコンクリート片を持ち上げ静止させ、エネミーに向けて弾丸でも飛ばすかのような速度で投げ付けた……この時、クララが使った能力は念動力(テレキネシス)だろうか?


 これはアサルトライフル状態の金縁眼鏡の女性も同じ光景を生み出す事が可能だが彼女は念動力と呼べる能力を使うわけではない。その物体を持ち上げるのに必要なだけの力を注ぎ込み制御するのが念動力だと言うのならば(なお)の事。


 例え話にあったコンクリート片が一トンだとすると、常に下方向に一トンの力が働いている状態であり、その下方向の力を上回る量の上方向の力が加われば、コンクリート片は持ち上がる。


 地面から浮いたその状態のコンクリートから先程追加した上方向の力の量を既存の下方向の力と釣り合う量まで減らせば、コンクリート片はその高さを維持。


 傍から見て静止状態となったコンクリート片をエネミーのいる方向に弾丸が放たれるかのような速度になる力を加えれば、例え話のクララが行った光景の完成。


 方向だけでなく大きさという情報を持つ矢印で表される概念にベクトルというものがあるが、その「ベクトルを対象に付与」するのが先程、臓器エネミーの部屋で金縁眼鏡の女性が活用していた能力の詳細である。


 念動力が徐々に力を増減する事が出来るのに対し、この条件ではベクトルの大きさを増やす度にコストが消費される為、最初から大きな値のベクトルを付与するのが効率的となる。


 このベクトル付与においては生成したベクトルの向きの回転や向き情報の上書き大きさの縮小……それらに関してはコスト消費が発生しないが、一度下げたものを気軽に上げられない条件では微調整を要求される繊細な操作は厳しいだろう。


「や、やっぱり再生する……」

「でーもエネミー倒した分のポイントは手に入るから……じゃ、また戻るわよ」


 金縁眼鏡の女性がベクトル付与空間を展開し、手榴弾を十八個生成し、ベクトル付与空間がある内に発射するというコンボが確立された今、あとは他の参加者たちがこの部屋に来るまでに臓器エネミーを倒せるかどうかだろう。


 これって遠視能力と強力な遠距離攻撃があれば入口から攻撃し続けるだけで一方的に倒せるんじゃあ。


 パターンを何度も繰り返す中、金縁眼鏡の女性が臓器エネミーの安定攻略法に気付き、心の中でそう呟いた。


 前述の通りゲーム上では自らの能力を「クララ」で登録している彼女だが、金縁眼鏡の女性が今となってはレイヴンに次ぐグループ『ルプサ』を率いるリーダーでもある。


 視力矯正の必要の無い視力を有する彼女が金縁眼鏡を掛けているのはリーダーとしてのステータス模索の最中に得た発想。


 それを加味し、この金縁眼鏡の女性――クレイミー・ライルマンの能力名に語感を盛って『少女クララ』と呼称するのも一考の余地があるかもしれない。


 クララとは彼女が組織のメンバーや知人から呼ばれている呼称で、『ルプサ』は地球上に存在する四文字から成る山の名前を二文字目から読み始めて一番目の文字を最後に読む事で得られる文字列。


 クララのディスタンスがプロミネントなのに対し、中にはスペリオルの能力者もいる実力派グループなのだが、クララが最後にメンバーの一人と会ってから一ヶ月が経とうとしており、三人以上集まったのは更に前の話。


 昔は活発だったが、最近はまるで活動していないガールズバンド。


 メンバーの一人が何かの番組に出演したり企画に関わっていたという情報が時折入って来る程度という例えは、ルプサの現状を的確に表していると言えよう。



 折角なのでスペルを三人ほど。


・Claimee Rileman[クレイミー・ライルマン]

 CLAimee RilemAnと抜き出せばClara――クララになる。


・Ruberta Irelowe[ルベルタ・アイアロウ]

 ルビーの呼び名に反して外見に全く赤要素のない無害な水使い。


・Tephanina Cartford[テファニーナ・カートフォード]

 IGC社に務める地球に住む一般人。愛称ニーナ。

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