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あかないキミの、異能世界  作者: 竜世界
ProgressⅢ-THIRTEEN-
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第17話 暗闇の奥で(後編)

 アクアヴァイパーがこんなにも早く破られる何て……。


 ルベルタ・アイアロウ――ルビーは突如遭遇したサーティーンへの先制に失敗しこの広い通路なら充分に戦う事が出来なくも、と思っていた矢先にサーティーンは部屋の奥まで跳躍し、先程生成した分身の一体を差し向ける。


 ここに居たら、あの白っぽいエネミーも相手にする事になる……地の利は向こうにあるけど、今の内に前進して部屋に入るか。


 分身の攻撃は単調だが剣一本で受け切るのは厳しい速さで左右から斬撃が繰り出され続け、受け切れなかった分を補うバリアで何とか押し出している状況だった。


「何でハッタリだったって判ったのかしら?」


 強気な口調で分身に向けて話し掛けるルビー。ここで分身が返答するか否かは、この分身がどのようなタイプかを判別する為に重要な情報だった。


 もしも分身が意識も視覚も共有しているのならば、それぞれの分身は本体と同じ戦闘力を有するが、分身が自動的に動くだけならば本体ほどでは無い。実際今回の分身は後者で、更に言えば分身を目視した状態で無ければ命令入力出来ない。


 ルビーは分身に押されているようで、バリアに必要な水を生成する速度は分身の攻撃に対処するのに消費する速度を上回る為、このまま防戦を維持する事は可能。


「その水……増え続けたら厄介なのかな」


 そんな気配を察したサーティーンは分身を部屋の入口まで下がらせ、もう一体の分身と共に乾坤圏を交互に投擲するようになった。


 分身に武器が無いタイミングを狙い、ルビーは二本の剣を生成し放つと、一本は分身の片方の銅を貫き、そこは心臓がある場所。


 その分身の動きが止まると膝を突き、持っていた乾坤圏二つと共に光の粒子の群れとなって消え去った。


「致命傷を与えると――」

「消えちゃうんだよなぁ」


 ルビーが続ける筈だった台詞をサーティーンは出現したての漂泊エネミーを葬りながら言う。その動きは開戦時に分身が見せた動きと遜色無かった。


 程なくサーティーンは漂白エネミーを分身に任せ、部屋の中央より奥でルビーを待ち構えるように。剣による防御が続けば水の発生が早まると判断したようだ。


 時間稼ぎも兼ねて、少し喋るか。


 そう思ったルビーは剣を振り回しながら部屋へと歩き始める。


「あなたは何を目指してるの?」

「……え?」


 質問の意図が読めないサーティーンは純粋にそう呟き、ルビーの言葉が続く。


「それだけの強さであなたはこのゲームで何処まで行きたいの? 折角だから、聞かせてよ」

「道があったら前に進んで、目の前に敵がいたら倒す……それだけだよ」


 それからは睨み合ったままルビーの前進を許し……やがて通路の入り口を塞ぐように漂泊エネミーが現れ、ルビーは剣を強化し、振り上げて来た異様に長い右腕を肩ごと切り落とし、股下に潜り込んだ勢いのまま尻尾の根元も切り落とした。


「ありゃ、行っちゃった」


 サーティーンが分身に背中を追撃させようと思った矢先、漂白エネミーは前進し続け通路の先へと走り去る事態に。


「……確かに、隣の部屋に向かいたがるみたいだね」


 強気な女性として言うのも忘れて、普段の素朴な口調でルビーは呟いた。


 サーティーンは後ろへと跳び、「それじゃあ」と言った後、


「これは――」


 次の言葉が発せられる前にいつまでも同じ場所に立っている事にリスクを感じたルビーは咄嗟に移動し、剣と共に体を回転させた一瞬で周囲を確認。


「どうかな?」


 サーティーンの呟きが続いた時点、新たに生成された分身がルビーの背後を狙った事による斬撃が空を切った。


 壁を背にしたい状況となったが、それでは近付けない。ルビーは少し移動しては自身の周囲にバリアを展開し、本体への突撃を試みる。


 このバリアは強度が見込めるが、展開した場所から移動する事は出来ない為、バリアを盾に前進するといった事が不可能だった。


「……畳み掛けよう」


 サーティーンがそう呟きルビーがバリアを展開した瞬間、分身を更に二体生成し両手に武器を持つ分身三体による連続攻撃を弾く内にバリアは決壊。


 すぐさまバリアを張り直すルビーだが、更に一体生成した分身の投擲(とうてき)が放物線を描き、バリアの上部を狙う。


 ルビーは分身たちの位置関係による隙間が辛うじて大きい時にバリアを解除し、その場からの移動に成功……そしてルビーの目の前に分身が生成される。


 咄嗟に前方バリアを展開するルビーだが、更に出現した分身に側面を狙われ……剣で防御するも吹き飛ばされ、入口の壁付近の方向へ。


「ルビー!」


 丁度ルビーが壁に背を打った時に、部屋に一人の少女がが入って来て、ルビーの姿を見るなり叫ぶ。少女はこの明るい部屋では目立つ黒猫パーカーを着ていた。


「やっと……か」

「分身……どんだけ生成出来るのさ」


 長引いた展開に呆れたサーティーンの言葉に、呻くようにルビーが言葉を吐く。


 この分身が本体の視界内でしか生成出来ず、分身の行動内容の操作は一度に目視している分身一体のみという制約に気付く前に、ルビーはかなりの水を消費した。


 能力に必要なコストを消費したのはサーティーンも同じだったが、それ故に次のカードを引く行動に移れた。サーティーンの目の前にカードが降りて来る様を黒猫パーカーの少女――音流(ねりゅう)小唯花(さゆか)は捉えていた。


 ルビーが分身という言葉を発した事により、同じ姿と武器を持つ少女が七人もいる光景自体に音流小唯花は疑問を持たずに済んだ。


 うっわ。


 引いたカードを見てサーティーンは紫鬼面の下で表情を歪めた。この局面で最も引きたくないカード……『聖杯』がそこにあった。


 聖杯の操作対象は「長きに渡る自然現象により形成されたであろうもの」。


 全てが何者かの手により建造されたと思われるこのマップでは、聖杯の対象となるものが一切無い。


 その時引いたカードのコストが消費出来無いのはサーティーンにとって致命的な状況で、こうなった場合、自ら聖杯を破壊し、聖杯が破壊された時のペナルティーと同じ「次にカードを引くまでの時間の大幅増大」を受ける事になる。


 それならば引いたカードを山札に戻すキャンセル行為による時間ペナルティーを受けた方がまだ短く、初回のキャンセルは更に短時間で済む。


 キャンセル回数の蓄積は一度カードを引いて適用すれば無くなるが、サーティーンが取った行動は今のカードのままでの攻撃の継続だった。


 素早く体勢を立て直し、バリアを展開したルビーは音流小唯花を視界に入れるや各分身の位置を確認。


 一番近い分身による斬撃が始まり分身ごと攻撃を弾くや部屋の外側方向で横に跳び、新たに出現した側面からの分身による攻撃を防ぐがその分身はそのままルビーを追撃し、更に回り込んで来た既存の分身がルビーに襲い掛かる。


 更に全ての分身がルビーへ向けて放物線投擲を次々と始め、本体は出現する漂白エネミーに目を光らせる。


 まだ投擲を行っていない分身がいる中、ルビーのバリアは破られ、即座に全身を覆うバリアを展開するが、もう部屋の中の水が少ない。


 音流小唯花が何か言葉を発しそうな様子だがルビーへの連続攻撃は続き……遂には再び展開したバリアも壊れ、続く連続攻撃の一つを剣で防ぎ、そこを狙って来た刃をバリアで防ごうとした結果。


 要求したバリアの強度が残る水の量では生成出来なかった為、バリア自体が展開されなかった。


 放物線を描く投擲がルビーの右肩辺りに突き刺さり、胴体を狙った他の分身から来た横薙ぎの攻撃がそのまま入った為、ルビーの体が上下に分かれる。


 そこから更に放物線上に投げられた乾坤圏の群れが降り注ぎ、ルビーの亡骸は更なる変形を遂げる。


 肉が裂かれる音、噴き出す血の音……急にそんな音と光景が聞こえた為、分身たちが引き上げるよりも早く、音流小唯花はルビーの身に起きた事を理解する。


「る、び、ぃ……?」


 音流小唯花の比較的近くに漂白エネミーが現れていたが、命令入力済みの分身が連続攻撃を浴びせて葬るとサーティーンは再びカードを引く。


 乾坤圏のカードは現在使用中の為、同じものを引く事は無く、山札に戻るのは次のカードを適用した時。山札とはサーティーンの各能力を表す十三枚のカードだがどのカードにするかを自分で選ぶ事は出来ない。


 カードの結果を見て、サーティーンは呟く。


「……そうしよう」


 その瞬間、全ての分身と共にサーティーンは部屋から消え去る。


 正確には引いたカード内容に切り替わる際に前回使っていた能力による生成物は消えるのだが、今回引いたカードは『エスケープ』。消えたのでは無く、他の場所への移動だった。


 エスケープの効果は「セーフティーエリアへの即時移動」。


 ガーデン内であれば自分が安心して過ごせる拠点……恐らく自宅の部屋となるがゲーム中に引いた場合、この能力の為にゲーム側がセーフティーエリアを特設。


 そこから出る際の地点を多少は指定可能で、今回のゲームでは元の場所、今回のスタート地点、激戦区真っ只中……の三つ。自分の拠点に戻った場合は、その場所への移動だけで終わり、前述の再移動処理はゲーム参加による強化ボーナス。


 移動した段階でエスケープのカードは山札に戻っている為、他のカードを引いてからセーフティーエリアを出る事も可能。


 親しい者が殺される様を目の当たりにするのは音流小唯花にとって、これが初めてだったが……倒れ込む漂白エネミーの音により、この場が危険である事を察知し悲しみに暮れる暇も無く、飛び出すように部屋から去る。


 事実、青い臓器エネミーの復活はもう間近だった。



・17話での分身数推移。

 本体+2→本体+1(1体撃破される)→本体+3→「……畳み掛けよう」本体+4で内3体が攻撃→本体+5→本体+6→ルビー入室(本体込みだと7体)

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