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あかないキミの、異能世界  作者: 竜世界
ProgressⅢ-THIRTEEN-
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第16話 暗闇の奥で(中編)

 最近の自分は、たるんでいるかもしれない。


 ルベルタ・アイアロウ……知人からはルビーと呼ばれる少女は今回のフィールドである何かの研究施設を模したマップを歩きながらそう思っていた。


 少し前はグループ登録しているメンバーの中から戦力を削ぐように殺して回っていたが、最近はその甲斐あってチーム連携が必要なゲームで上位を取り易くなり、各グループの残党が徒党を組む動きもレイヴンが早々と壊滅させた。


 そんな状況下で派手に動いて目を付けられるのも、という考えもあって大人しくしているのもあるが、最近はゾーン自体の発生頻度が減っている。


 ゾーンの常連と言える参加者は『ダイバー』と呼ばれ、自らもその一員に、という思いを抱いていなくも無いルビー。


 ゲームの参加者となったからには自分が取れるだけのスコアや結果を出し、他の参加者よりも抜きん出た自分で在りたい。


 そんな自分で今もいられているのだろうか、という疑問を募らせながら探索をしていると、「うーん」と唸り声を上げながら鎌を回転させる少女に遭遇する。


「何してんの?」


 ルビーが不用意に声を掛けると、「ぐはぁ」と疲れを帯びたような息を吐き出した黄緑の髪を長めに伸ばした少女が続ける。


「この先にいる雑魚と言うには微妙なエネミーが複数いて……独りで倒せるかなー他の部屋選んだ方がいいかなー、どの扉に行こうかなーって悩んでた」

「もう一つ質問いいかな?」


「あ、私の能力はこうやって鎌グルグルしてれば強化されて行く感じ。空も飛べるんだけど……ここ屋内だし」


 しれっと自分の手の内を明かした少女に唖然としながらも、ルビーはウォーミングアップも丁度いいか、と思った後、発言する。


「じゃ、一緒に倒そうか……どんなのがいた?」

「下位エネミーの下から三番目が二体。あなたは近接と遠距離どっち?」


 ここで自分の能力を聞き出すのでは無く、最低限の情報だけを求めて来た少女に警戒心を緩めそうになる自分を抑えつつ、ルビーは返す。


「近接かな……遠距離も多少は」

「おっけー。多分二体だけだと思う」


 部屋まで辿り着くや二体しかいない事にルビーも同意出来そうな気配だった。


 ルビーが少女――雨縞(さめじま)瑛美(えいみ)と遭遇した頃から照明は激しい点滅を繰り返しておりその状況は今も続く。


 エネミーは二体だが一種類。異常に発達した筋肉が全体を歪な形状にし、人型と主張するには腕が一対多い四本腕。頭部に至っては狼の様相を為すが、体全体がメタリックな質感を鈍く放つ灰色の皮膚で構成され、体毛の(たぐい)は無い。


 二メートル越えの体躯もあったからか雨縞瑛美には苦戦する相手だと捉えていたものの分厚い筋肉に刃を阻まれても何度も攻撃すれば断つ事は可能で、攻撃力は高いが全て大振りで、その度に筋肉細胞が暴走し暫く動きが止まる。


 その事実に気付いていれば彼女一人のままでも難なく倒せる相手だった。


「結構タフだったなぁ」

「開いた傷口に鎌を飛ばしてダメ押し……案外それで何とかなったね」


 実際の戦闘ではルビーが斬撃を繰り出し、そこを雨縞瑛美が鎌操作で援護。


 意図せず一体目が雨縞瑛美、二体目がルビーが横取り判定を得ると言うイーブンな結果で終わったが、二体とも雨縞瑛美に横取りボーナスが行ってもルビーは気にしなかった様子。


「さて、次の問題……どの扉に入ろうかな」

「じゃあお互いの反対側はどう? 入れない扉だったら別のって事で」


 ルビーの提案に雨縞瑛美は光明でも見えたかのような表情をし……その結果。


「よし、入れた」

「赤のカードキー……持ってなーい! じゃ、隣!」


 再び単独行動となったルビーだが、ここへ来て激しく点滅していた照明が(ことごと)く消え……入った部屋の培養層の緑の光の群れがぼんやりとした照明に。


「なぁ彼女ぉー……いいだろ? ちょっと話さなーい」


 気の抜けた男性の声が聞こえると共に、何かが大きく割れる音が聞こえ……少しして男性の更なる発言あった。


「暗がりでかくれんぼかーい。よーし、捕まえちゃうぞぉー……がっ」


 部屋の照明が点いていれば男性がエネミーによる大きな鉤爪で上半身が吹き飛ぶ様が視えたのだが……似たような現状をルビーは予想していた。


「すいません! この先の道はどうなってますか?」


 ルビーが佇む入り口に飛び込んで来た女性が慌てた様子でそう訊いたのでルビーは嘘偽り無く大まかな情報を与えると、


「ありがとうございます! これは情報料……一瞬光るだけです!」


 眼鏡の女性はそう告げ、何か金属的なものを部屋の中に投げて走り去る。


 程なく女性の能力により生成された閃光弾の機能を果たすものが爆発し、威力の一切無い光が少しの間だけ部屋全体を照らす。


 その間、ルビーは目の前のエネミーの姿を充分に捉えた。


 全身が黒く何かしらの色味はありそうだが、一言で表せばクマのような形状で、先程の狼頭エネミー同様、体毛の無い皮膚で構成され、クマと述べたように手足には鋭い鉤爪が生え、普段は四足歩行。


 今回のエネミーは人型と思って武器を振るえば背の上を掠める位置関係の暗視持ちエネミーだが、閃光弾によりルビーの姿を確認した為、真っ直ぐ向かって来た。


 ポイント表では直立してるの普通に罠だなー……にしても狭い通路にわざわざ来てくれるとは。


 ルビーも熊型エネミーに向かって直進し、すれ違いざまに剣を下から斬り上げ、手応えを得る。事実、熊型エネミーはそれで両断され、撃破ポイントが発生。


 部屋に入り、足裏での感触を頼りに男性の死体がある筈の場所まで行くとすぐに辿り着いた。


 エネミーと違い、参加者の死体はゲーム終了まで残り、物色の意思を示せば時間はやや掛かるが所持する全てのゲーム内アイテムを自分のものにする事が可能。


「血だらけの死体から赤のカードキーかぁ」


 初めて得たカードキーの色を呟き、部屋内で探った扉二つ目が赤に対応していたので、その先へ進む事にした。


「うーん、何かあっちの部屋ってやけに扉が多いんだよなぁ」


 未だ照明が乏しい中、そう悩みながら立ち尽くす女性にルビーは遭遇。


「と、言うと?」

「赤、水色、白、紫……それぞれのカードキーで通れる扉があの壁に四つもあって……特別な部屋に通じてるんだったら進むかどうか迷ってて……」


 ルビーは何とか女性の視線の先を読み取り、何も言わずにその方向へ歩き出す。


 ルビーの視界に少しは灯りのある扉が見えて来た頃、


「あれ、私いま誰に……?」


 という呟きが先程の女性から発せられる中で、ルビーが向かって左の扉を開けようとすると赤のカードキーが反応し、暗い通路が広がっていた。


 物音に警戒しながらルビーは進み、何事も起きぬまま通路の先に灯りが見えた事で安堵を覚える自分を咎め、通路から部屋へと踏み入れる。


 そこは照明が行き届く広い部屋でそれぞれの壁に並ぶ扉全てを確認すれば、全てのカードキー用の扉が揃っていた事が判っただろう。


 部屋に入ってルビーが最初に目にしたのは異様に大きな通路。


 まるで大型のエネミーと戦う事を想定したような造りだ、とルビーが思っていると案の定、エネミーらしき影が見えた。


 赤いボディを不自然に漂白したような色合いの皮膚を持つエネミーだったが、上半身部分だけで這うように此方に迫って来ていた為、ルビーは剣を生成し発射すると一本目で撃破に至る。


 通路の先が見えて来るに連れ、ルビーはハームレスウォーターの水を溜め込むべく、剣を振り回しながらゆっくりと進んで行った。


 そしてルビーは照明の維持された大部屋に辿り着き、そこで何が行われているか目の当たりにする。


「倒しても、倒しても、湧いて来る……あと、何匹かは隣の部屋に向かおうとするんだけど、仕様なのかな」


 淡々と吐き出すように自らの声色を乗せる少女の姿と部屋の奥にある何かの生物の臓器と思われる巨大な青い肉塊をルビーは捉える。


 少し前まで、この紫鬼面の剣士は亡骸に成る前の青い臓器と戦っていた。


 全身から触手を生やし、自らの体力が尽きるまで全身に付与される再生能力と能力の生成物に大きなダメージを与える帯電とその放電。


 それをこのマップで一番強い下位エネミーを取り巻きにしながら戦うという条件でこの部屋に鎮座するボスエネミー。そんな臓器エネミーは撃破されても暫くすると復活し、何度でも倒せる設計だった。


 臓器エネミー復活前は先程ルビーがトドメを刺した漂白エネミーが発生する頻度が上がり、三匹目以降は発生頻度が弱まるのだが……一匹目の段階で紫鬼面の少女が倒してしまう為、この部屋では漂白エネミーが次々と発生する事態に。


 漂白エネミーの発生加速は復活前の臓器エネミーの能力で、通常時より発生頻度は劣るが漂白エネミーを生成。通路の傍に行くと三匹目までは隣の部屋に向かうのも臓器エネミーの能力である。


 敵対するであろう存在がいる事を知ったルビーは剣を振り回し水の生成を急ぐ。


 紫鬼面の少女は剣を手にしていたが、目の前に横回転しながら降りて来るカードを見た後、「あ」と呟いた後、


「丁度いい……」


 手にした剣は消え、両手に武器が出現。二つとも同じものだが片手で持つにはやや大振りで、持ち手部分以外は両刃で全体が幅広の乾坤圏(けんこんけん)


「相手してあげようと思うんだけど……いい?」


 振り返りながら、そう言う少女に対し、ルビーは何も言わず青い剣を構える。


「水が浮いてる……」


 そう呟き、少女は手にした乾坤圏を構え……その瞬間を見計らったかのようにルビーが言う。


「私の目の前と周囲にある水だけど……体に触れたら弱体化してても、このゲーム中は能力が使えなくなる代物よ」


 強化されていたらどれだけの間、能力が使えなくなるのか……永続というリスクも想定し得る虚言に対して少女は「あぁ……」と力なく呟き、


「あなた、アクアヴァイパーか」


 ルビーのエントリーネームを言う。


「毒蛇の吐き出す毒を恐れ、精々足掻きなさい!」


 大袈裟な言葉と剣の動作で少女への更なる牽制を試みるルビー。


 次の瞬間、一直線に飛び込んで来た少女の斬撃をルビーは周囲の水を消費しバリアを展開……前方に集中させていた水を少女は浴び、左右一セットという意味では初撃を防ぐ結果となった。


 衝撃でルビーが後退する中、少女は後ろに跳び、部屋の中に入ると呟く。


「嘘だね」


 その言葉と共に少女の左右から少女と全く同じ姿が二つ――分身を生み出し、自らの能力が健在である事を示した。


 少女は何の確証も無く水に触れたのでは無い。触れたものの能力を永遠に失わせるアクアヴァイパー……そんな恐るべき能力の持ち主をレイヴンが今日まで放置する筈が無いのでは? その疑問に従った上での行動だった。


 部屋の中で漂白エネミーがまた生成されると分身の一体が怒涛の斬撃を繰り出すや(たちま)ち撃破し、ズタズタになったエネミーが床に倒れる。


 その静かな衝撃音が図らずも、紫鬼面の少女――『サーティーン』と毒蛇騙りの無害な水使い『ハームレスウォーター』による戦いの火蓋を切る音となった。



乾坤圏(けんこんけん)

 圏には「金属製の輪」という意味があるそうな。


 当初は円月輪(チャクラム)と混同してましたが、「円月輪は人差し指で回して投げる武器」という情報を得て、両刃の円月輪だと問題しか無いので、そのまま円月輪表記でゴリ押しする案よりも「乾坤圏って何?」と困惑されるリスクを背負ってでも採用するという案を選びました。


 ちなみに今回登場した乾坤圏はフラフープを引き合いに出せそうなほどの大きさで輪を描いてます。

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