第14話 第二次ショッピングモールイベント(後編)
さて、本気を出そう。
私は銀髪ミドルヘア以上の髪を両肩お下げにしがちで所々が水色……瞳は金色だけど結構強いオレンジ色が散らばってる。
地球では気が付けば日本人でも褐色肌の子が生まれるようになってオッドアイの子もたまに……そんな中、私の肌は色白とまでは行かない普通な方。
どう足掻いても大きい部類の胸を隠すか目立たせるかがコンセプトの分岐点。
ゲーム内でも着て行くんだったら攻撃的なスタイルもありなのかも……こういうショッピングの時に着て行くような少しお洒落した私服スタイルは場違い過ぎる。
フィールド内では案外、魔法少女みたいな格好が無難なのかも。私の場合は本体が能力使えないも同然だから、ただのコスプレ女になるけどさ!
とりあえずゲームに着て行く用と、お洒落な格好で散歩したい時用……あとはもうフィーリングで選んだヤツ。
それから暫くが経ち、試着エリアからニーナが発言する。
「魔法少女マジカルニーナ! この街の平和は私が守る! ……なんてね」
旅の恥は掻き捨て、という言葉を体現した魔法少女姿のニーナがそこにいた。
会社の部下たちがこんな上司の姿を見た日には何を思うのだろうか……とはいえこの服の感想は簡単。
「髪がピンク系だからピンク色のフリフリした服は噛み合うとは思うけど、組み合わせ自体には面白み無いかなー……他のカラーも試してみるのは?」
「じゃ、次はブルーで行くかな」
それから暫く経ってニーナはスカイブルーを基調としたさっきと似たデザインの魔法少女衣装に着替え、今度はこんなキャラ付けと共に叫んだ。
「おーっほっほっほっほ! わたくし聖藍獅子学園に通う魔法少女……マジカルブルーですわぁー!」
お嬢様キャラで来たけどなんかズレてる……私が難色を示すコメントをぼんやり吐いた結果「じゃあ、ネル子がお手本見せてよ」となったので、オレンジ版の衣装を私が着て、それっぽいポーズと共に言い放つ。
「不浄なる地上の生命よ! 我が陽光と共に浄化の理を識れ! サンシャインブレイザー!」
最近あんまりやってないMMORPGの詠唱台詞をそのまま使った。
「おー……で、いいのかな?」
まぁ私も勢いで誤魔化しただけ。検討してた魔法少女衣装だけど、このお店はどうもコスプレ感が強くて、これじゃないって気も。
「魔法少女遊びはこの辺でいいかなー」
そう言いながら服を脱いでると、この店でも採用されてる特殊素材仕切り越しにニーナが聞いて来る。
「そういえば魔法少女に変身する能力って……あるの?」
「あるよ」
ちょっと自分の姿形や装備を変えるだけならベイシスの段階からある。変身した状態で何が出来るかでジェネラル以上になるかが決まる感じかな。
「鳥や狼とかに変身したり出来ても……どうなんだろう」
フィールド内に出現するエネミーと戦わなくちゃいけないから、ただの鳥や獣になってもどうしようも無い……変身した事によるメリットは欲しいよね。
「私が会っただけでも武器を出現させてそれに能力が関わるってケースが一般的かなー」
まさに一般……さていい加減、実際に着る服選びを始めるかな。
「寒色コーデは安直かなぁ」
「氷使いに偽装するという意味ではありだけど……瞳が暖色系だからそこを広げる手もあるんだよねー」
そうは言った私だけど、こうやってあれこれ考えてる内に面倒くさくなった末に黒猫って可愛いしと選んだのが長い事着てる黒猫パーカー。
私の能力は要するにマップ内の何処かにあるトラップを探し続けるだけの地味な能力だから目立つ服装よりも周囲に溶け込む地味なのがいいってなる。
でも折角だからお洒落で可愛い服をこの機会に買っておきたいなぁ……。
「やっぱりゴスロリ服は一度は着ておきたいよね」
そう言うニーナとお揃い状態で並んで撮影。
ちなみにランジェリーショップの時の下着姿は特定の動画配信チャンネルの二次元アバタータレントに置き換わるアプリで撮影して保存してある。
後輩タレントが頑張って作ったプログラムだからと担当イラストレーターと一緒に変換先となるタレントが運営を説得して……公式アプリとして配布された翌日、SNSで専用タグでの投稿全てを本垢で拡散したという伝説付きのアプリ。
女の子二人して何やってんのさ虹姫宝乃華と後輩の黄泉月影瑠兎。
一線を越えた露出があると撮影に失敗する機能はえるぅが発表した時からあるし普通に遊べるミニゲームも結構な頻度で投稿してるから、そっちでもヤバイ子なんだよね。
共に担当イラストレーターが同じで今もIGCテクノロジーの人気タレントなのは流石、なのかなぁ……何かとやらかした話を度々ネットで見かける。
「人魚モチーフのドレスかぁ」
「これはあちこち、ひらひらしてるけど……」
ドレスってものによっては鎧みたいな印象受ける時があるからもう少し探すのもアリかな……上着を羽織ってもいいけどねー。
というわけでジャケットを漁る事にした。
「このネイビーブルーのジャケットいい味出してるねー」
紺色のようで鮮やかさもあり、選んだ服の上に羽織るアイテムとしては……うんいいんじゃないかな。
「これを着たいと言うより、こういうのが着たい……自分が着るサイズと部屋に飾るサイズの両方をお願いしていい?」
「おっけー」
このネイビーブルーを眺めながら、この下にどういうのが着たいか考えて行こう……これが見つかっただけでも来た甲斐があった。
「服選びは一旦休憩しよっか」
私がそう言うとニーナが「じゃあ」と言って、
「とりあえずメイド服を着よう」
そんな服が並ぶ場所まで一緒に来た……特設だからバリエーションヤバイ。
「んー、どれを着ようかなぁ」
「丁度セール中だねー。これならたくさん買っても……」
ニーナがそう言った直後、私の目の前にウインドウが出現。そろそろ来る頃だと思ってた。内容は……。
「あ、もしかして」
地球側にいるニーナでも知ってる事だから、この一言だけで済む。
「うん、フィールドの発生」
マップは地下にある研究施設でカードキーによる探索要素もある……これは無視出来無い条件。ニーナが呟いた。
「そっか。じゃ、似合いそうなメイド服……買っとくね」
「あとで一番いいと思った写真送るから」
生きて帰って来れたら、ね。
五個目のクラウン獲得の為に頑張ろうって決めた矢先によさそうなマップ。
今日は全力でションピングモールで遊べたから今死んでも悔いは薄い。
全編神回の虹姫宝乃華の過去配信観てなかったり、ずっと前にスコアタ要素がガチになるアプデ入った黄泉月影瑠兎のミニゲームをやり込みたい気持ちを思い出したりもしたけど……出来無いものは、しょうがない。
私の能力でクラウンを狙って取れるかは正直厳しいけど、そんな私にだって出来る事が無いわけじゃない……打つ手なら、ある。
「また、会おうね」
ニーナが寂しそうな声でそう言う頃には、もうゲーム参加ボタンは押されてたけど……この返事は多分、間に合ったかな。
「今日はありがと」
結局服装は黒猫パーカーのまま。買った服とかは今、抱えてて……ポータルに入る前のウインドウからの事前入力で、こういう風に荷物だけ自分の部屋に送ってもらう事って結構ある。
ゲーム開始地点は大抵ランダムだけど、随分暗い所に飛ばされたなー……こういう時に変に明るい服を着てると他の参加者に見つかり易い。
そう考えると、あのネイビーブルーのジャケットは光沢が強過ぎるか……。
帰ったらニーナに買ってもらったメイド服着ながら、えるぅのミニゲームのスコアタに挑んで……その様子を撮影した動画をニーナに送り付けるとか。
そういえば今日は昼に適当に食べたっ切りだなー……このままでは最後の晩餐がメロンソーダとポテト系のスナックになってしまう。
んじゃ、ま。
「やるか」
私は何だか力強さを帯びた声色で、そう呟いた。
少し歩けば、緑色の培養層の中に人型とは言える異形エネミーの姿が見えて……そういうのが幾つも並んでいた。




