第13話 第二次ショッピングモールイベント(前編)
鋏少女が死亡した。
死んだのは昨日で、『シザーレディ』って検索すれば死亡者リストでヒットする……見境なく襲い掛かって来る凶暴な少女って結構聞く噂だったなぁ。
そんな情報を仕入れた私は先日イチゴちゃんとも遊んだショッピングモールでこれまた女の子とデート。
ごめん嘘ついた。本当は会社勤めの大人の女性の有休消化の手伝い。
ウインドウが投影されるエリアで他のアンドロイドに紛れて、やってるゲームのまとめサイトを漁る……んー、目新しい情報無し。
ちゃんとこの辺を待ち合わせ場所にしたけど、さてどんな姿で来るかな。
今日のお相手は地球側という意味でのリア友……だから向こうからアンドロイドを操作する形で来る。
「やっほー」
ま、声は知ってるから、すぐ判る。振り返って姿を確認。
「やっほー、ニーナ……おっきいの選んだねー」
二つの意味で取れる私の発言だけど、まず頭を見た後、胸を見た……つまりはそういう事。
「丁度ネル子と同じのがあったからさ」
IGCテクノロジーで結構いい役職に就いてるテファニーナ・カートフォードことニーナは胸の方の意味で言った……こんなに大きいのかな?
「ボディは女子大生くらい?」
「そっ。しかもご注目の部分も再現度バッチリ」
私の住むガーデンは経済活動をするのが特徴。地球、つまり外部の人類を顧客とみなし様々なサービスを提供する……その結果の一例が女性の胸の柔らかさ込みで再現したアンドロイド使用権の販売という事態。
「じゃ、今日は常識的な範囲までなら奢るよ」
ここぞとばかりに無茶苦茶な要求しない私だから全部対象になりそうだなー……とりあえず今日はお姉さんのヒモに成り下がろう。
ニーナのアンドロイドは桜色のロングヘアにワインレッドの瞳と結構目を引く色合いで、向かって右の頭に付けた白い花飾りがいい感じ。
「食事はさっさと済ませようかな」
「大丈夫。我が社が誇る転送装置式の自動調理機械で同じの作れるから」
「あー、その手が」
時間を掛けて転送すれば、こないだの私みたいな悲惨な精度にはならないけど、自動調理機械は事前に必要な食材を入れておく必要がある。
私の使ってるパスタ専用の自動調理機械と違って、汎用自動調理機械の課題はその時に必要な食材の調達……それを転送装置で確保するって事か。
「どういう料理が得手不得手かまだ調査し切れて無いから仕事の一環になっちゃうけど……そこは結果論って事で」
とりあえず今日はニーナが仕事の事は忘れて楽しめるような一日にしてあげないとなー。
やっと出来た彼女とのデートが事ある毎に仕事の話になる……そんなカップルを頭の中で描いてたら今にも苦笑いした声が出そうになった。
「にしても、そっちじゃ能力というのが当たり前のようにあるんだよねー」
アクセサリーショップで手頃な物を物色すると言うか……その時間を楽しむみたいな状況。ニーナの呟きに私がこう返す。
「能力に目覚めた途端、こっちに連れて来られるからね」
今日も学校かと思いながら起きたらガーデンにいて……正確にはクラウンが手に入って自分のプロパティーが閲覧出来るあの広間。
そこでゲームの説明を受けて「ここで死ぬまで過ごして下さい」な説明だったかな……今思えばあれは事前に仕込まれたシステムメッセージの使い回し。
「凄いよね。例えば瞬間移動って転送装置でやりたい事を自分が思っただけで出来ちゃうし、何の燃料も無いのに手から炎を出したり……物を浮かせたり、自分が飛んだり……中には科学的に再現出来るのもありそうだけど、そもそもそういう設備無しで出来るのが凄い事」
ニーナがアクセサリーを手にしては漠然と眺めながら淡々と語った。
私ほど自分が能力者である事を実感出来無い者はいないって話は置いといて……能力を持たない人には本当に信じられない世界なんだろうなー……。
ジェネラルでよくあるのが武器を生成して何かしらの能力を揮う……傍から見たら突然武器を出現させ、それが炎を纏える剣で……戦闘が終わったらその剣が何処かへ消える。
そんな光景を科学的思考に長けた人が現実で目の当りにしたら、もう色んな物理法則に反してて、受け入れ難い心境になるのかな。
「RPGの魔法かって能力も結構あったり」
とりあえずそう返したけど、能力名もファイアボール、アイスショット、エアブラストとそのまんまで、小規模の射撃魔法はベイシスだったね。
で、広範囲魔法のエクスプロージョン、ブリザード、サイクロンがジェネラルになるけど……突出だとネーミングが固有のものばかりになる。
「そういえばこのアクセサリー……何だか魔法少女っぽい」
どこまで真剣に話してるのか判らない会話がそんな感じで続いて、アクセサリーに関しては「今回はいいや」ってなった私に対し、ニーナは迷ってた。
「このドギツイ色を繋げてブレスレットにしたヤツ。結構欲しいんだけどなー」
赤・紫・オレンジの色相をベースに鮮やかにしたり暗くしたり透明度を変えたり……それらを繋げる紐がこれでもかと鮮やかな単色のシアン。
そんな色がバラバラ……多分見栄えがよくなるように並んでて個々の形状が上下に尖った菱形ベースの立体だから、なかなか攻撃的で派手なデザイン。
「特殊な素材は使って無さそうだから、3Dデータの使用権の一部を購入してプリントすれば向こうで作れるんじゃ?」
「メーカー控えて同じの注文する方がいいかな。ただ単純に、こんな派手なブレスレット、職場でして行くのもなーって……」
「あー……」
ガーデン側で購入した商品を地球にいるニーナが受け取る形にする手立ては結構あるみたいだけど……その問題の方は解決出来そうに無い。
少しの沈黙が流れた後、私はふと思った事を口にする。
「そもそも……着る服決めて無いのにアクセサリー選びは無理があった」
「じゃあ洋服コーナー行く前に気分を変えよう」
待ち合わせ場所からアクセサリーショップの方が近いからって横着した感。
店を出て暫く歩き……私とニーナはとあるショップの前にいた。
「ここなら、気持ちがリフレッシュ出来そう」
「……とりあえず店を出る頃にはちゃんとした服が着たくなりそう」
女性下着専門店の前で私はそう言っていた。
「ネル子ぉー。この下着どう?」
上下の下着付けただけの露出をしてもアンドロイドだと断定出来ないくらい皮膚の外観再現度は高い……にしてもド派手な赤い下着。結構装飾が施されてるんだけどその強烈な色彩のせいで、少し離れれば表面の造形がよく判らない。
何だこのデカイ乳……いや、私もこれくらいあるんだけどさ。
投げやりな感想を吐き出した気がするけど憶えて無い……その後もニーナはその胸を筆頭に豊満なボディをこれでもかと見せ付ける過激な下着を試着して行く。
布面積がアレだったり食い込み方が場所込みで観てるだけで恥ずかしくなったり……ニーナにとっては自分のカラダでやってるわけじゃないから、私がアバターの着せ替えモードで色々やってる時と同じ感覚なんだろうなぁ。
にしてもどの下着もエグイ……いや、店に入る前から解ってたけど。
ここのガーデンは各種企業に協力的で、アンドロイドの思考は消費者モニターとして結構機能する。
だからこのショッピングモールでは実験的な商品が多く並んでて、さっきのアクセサリーショップも無難な配色でデザインしたものの色を大胆に変更したみたいなのが多かった……さて、本題。
このランジェリーショップは一つの企業の商品だけが並んでて、その企業は過激なデザインで有名な下着ブランド……その中でも際どいのをこのショップに寄越してる。
外見だけで無く色のバランスがショッキングだったり攻め過ぎてたりで、そういう意味でも際どい……こんなバグったデザインの勝負下着は嫌だ。
店内の試着室は未だ使用中。私は今いつもの黒猫パーカーを脱いで、上着を脱いで……さっきから延々と語ってたブランドの下着も脱いで、着替えてる。
だってこのブランド、いつもサイズが各種揃ってて安売り頻度高くて、ネットで注文すれば少しはマシな色選べるし……この水色とデザイン見て衝動買いしちゃったし。
で、今試着してるのがダークな緑系……相変わらず露出度がヤバイけどガーターベルトな分、足の露出度だけは低い。ニーナはもう元の服に着替えて、私の着てた服とか抱えてる。
「どうだー!」
アニメとかだったら勢いよくカーテン開けそうだけど、私は叫びながらスイッチを押してた。流す電気の量によって透明度が変わる特殊素材の開閉式ドアが採用されてるんだよね、ここって。
「おー、眼福眼福」
次に手にしたのは鎖の外見と質感を光沢込みで再現したものの、肌に優しい柔らかい素材が使われてて、ドギツイ赤紫と力強いダークブルーによる鎖二種類で構成されてるんだけど……ガイドがあるとはいえ、自分で巻き付けて着るタイプ。
「とりゃー!」
「お、ちゃんと大事な所は見えて無い……そんじゃポーズよろしくー」
ニーナの時から適当なポーズを幾つかしてから次行ってるんだけど……四ポーズ目くらいで、ふと気付いた私はニーナに言った。
「……これ、下着じゃ無くてアクセサリーとしては普通にアリだわ。全種類買おうかな」
「じゃ、約束通り私の支払いで」
これだけ軽くて柔らかいなら上着に巻き付けるのも大いにアリ。色がドギツくても白猫パーカーの上とかなら結構合いそう。
まさか最初の買い物をここでするとはね、と言いながらランジェリーショップを出て、本題のアパレルショップに。
ここは結構、まともな服が置いてあったはず……でもその代わり品物の入れ替わりが激しくて。
拭い切れない不安を抱えながら、私はニ-ナと一緒にアパレルショップの中へと入った。
本作主人公、音流小唯花ことネル子がProgressⅡ以降、ショッピングモールで買い物しかしていない件。そして今回は前編……




