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あかないキミの、異能世界  作者: 竜世界
ProgressⅡ-SCISSOR LADY-
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第10話 鋏少女に毒沼を(中編)

 見るからに汚染の色を見せる沼地に浮かぶ大きな骨の上に少女はいた。


 その目の前にはもう一人少女がいるのだが、片方の外見を説明すればその少女の説明も完了してしまう。


 両者は共に赤味掛かったベージュの長い髪と血糊の目立つ白いワンピースに余りにも真っ赤な大きなハサミを持ち、能力までもが同じだった。


 少し前まで追い掛けていた標的目当てに沼から浮上したばかりの少女に、さっき獲物を見つけたばかりだったが目の前の新しい獲物に意識を注ぐ少女。


 二人の戦いは既に始まっていた。


 時折言葉が交わされるがその声色も見せる表情も全く同じ……片方が赤いハサミで襲い掛かろうと、もう片方は赤いハサミを盾代わりに防御する。


 赤いハサミは能力による生成物で、同じ能力による生成物同士ならば強度も同じなので当然だが……この赤いハサミの場合は事情が異なる。


 この赤いハサミは自らの硬度を上回る対象ならば、ハサミの動きに合わせて切る事が出来る。


 赤いハサミと同じ強度と形状のものを用意して、ひと二人は優に隠れられる太さの大木相手にそのハサミを振るっても、その太さによって阻まれ、満足に食い込む事すら出来ないだろう。


 それが前述の通り「その大木の硬度は赤いハサミを下回る」という関係性により大木は赤いハサミでいとも容易く断たれてしまう。


 よってこの赤いハサミはそれが髪の毛ほどの細さのものであろうと、自らより高い硬度ならば表面に傷一つ付ける事が出来ない。


 赤いハサミの硬度は丁度、ゾーンで手に入るという「ソリッド」と同じ鉄と鋼鉄の間……故に鋼鉄製の針や小さな板でさえも赤いハサミを阻む事が出来る。


 ゾーンに通う者達の間ではソリッドの材質は一つでは無く、透明度の高い水晶で構成された『クリスタル』の存在が知られている為、鉄程度の強度を持つソリッドの事を『アイアン』と呼称する場合がある。


 さて、二人の少女の戦いに目を向ければ、片方がハサミを分離し双剣状態に。


 赤いハサミが分離された状態では前述の赤いハサミの特性は無くなり、他の能力の生成物と同じ条件になるが、金属の性質を得ている状態なのも特徴と言える。


 つまり他の能力の生成物と衝突する度に耐久値が減って行き、この双剣は切れ味まで落ちて行く。再び赤いハサミに戻し、再び分離した時は初期の強度と切れ味に戻る性質もあり、長期戦では有利に働くかもしれない。


 故に今回分離された双剣も一時的なものだろう……繰り広げられる光景に目を向けよう。


 赤いハサミを分離した方の少女は一心不乱に二つの剣で斬り掛かり続ける。


 対する少女は赤いハサミで的確に防ぎ続けるが、その衝撃で後退を余儀なくされこのまま下がり続ければ毒沼に足を取られる。


 それを理解しているかのように体の向きを変え、隙を見て大幅に移動する事で、骨の足場の中央を維持しがちではある。


「あっはっはっはっは!」


 叫びながら剣を振り回し続け攻撃の手は一切緩まない。そんな並の女性の体力とは思えぬほどの光景の中、相手も叫ぶ。


「おそい、おそい、おっそぉーい!」


 ここまで激しい猛攻は双剣の耐久値の方が耐え切れない為、双剣にしていた方の少女は二つの剣を交差させ、ハサミの状態に戻した。


 これにより外見での区別は出来なくなったが、「毒沼から上陸して来た」という情報は変わらない為、大きな問題では無い。


 二人の近接戦は依然続き、時折上がる声と鬼気迫る攻撃の応酬はその場の雰囲気を高めるものの、試合内容としては単調だった。


 それでもなお特筆したくなるのが片方の少女が時折、動きを止めて相手の攻撃を誘ったり、攻撃のリズムをズラしたり、フェイントを用いたり……。


 それが決め手になる事は無かったが興味深いのが、それらの行動を毒沼から上陸して来た方の少女は、今まで一度も行っていない事。


 戦闘が長引く間、遂に今回のゲームの目的である浄化装置の起動が果たされる。


 これによりゲームが終了するのではなく、各装置の位置と個数がシャッフルされその中央に浄化装置が出現し、汚染された浄化装置周辺に出現する強大なエネミーにも変更処理が加わる。


 その処理は浄化直後に表示されるタイマーが終わるまで行われないのだが、毎度異なるその時間内で毒沼だった場所は清らかな湖のように澄んだものとなり、その上に踏み入れば、波紋を伴って水面が揺れるだけで、湖の上で直立したり走り回る事も出来るように。


 その時、湖の上に出現する蝶、小鳥、妖精などに参加者が触れる事で鱗粉や羽などの得点アイテムが獲得可能なボーナスタイムが発生。


 アイテムの種類は多く、得点のバラツキも多い上に、湖に出現する対象の外見だけでは得られるアイテムが判断出来無い為、目の前に現れたもの全てを取り切るに越した事は無い。


 今回のボーナスタイムは短い方で、湖も汚染された毒沼へと戻って行ったが……少女二人の戦いは今も続いていた。


「そろそろ他の人間の血が恋しくなって来たぁー」


 毒沼から上陸して来ていない方の少女が長引く戦闘への興味を低下させる中、未だにどちらが優勢か判断も付かぬ状況。


 丁度両者共に大きく距離を取り、互いにハサミを構えた状況になったが……ここから状況が変わるとは思えない。


 程なく先程発言した方の少女が勢いよく飛び掛かり、今まで何度もやって来たかのようにハサミを閉じようとすると……ハサミが合わさる音が勢いよく響く。


 相手を切ったのでは無く、相手がいない場所でハサミを閉じた結果だった。


 本来は今もそこにいる筈の毒沼から上陸して来た方の少女の姿が忽然と見当たら無い事態に。


 跳び上がったのでは無い、何処かに潜んでいるのでは無い……点いていた灯りが突然消えるかのように、少女の姿は完全にその戦場から無くなっていた。

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