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契約するとは言ってない

「契約成立、だな」


身を起こした竜の体がゆらり、と歪み、光が迸る。

見る間にシルエットが小さく縮んでゆき、やがて光が収まると同時に、人間の青年の姿が現れた。


褐色の肌に、しなやかな黒髪。鋭い目は海のような青に染まっていて、びっくりするほど端正な顔をしている。なんていうか、アラブの王子? 王子、という身分がこれほど似合う顔があるんだなあ。


「おい、何をじろじろ見ている」

「はひ、すみません」


いけないいけない、あまりにも顔が整っているのでつい見入ってしまった。

サンディーさんも十分に美形だけど、この人はなんというか圧巻だ。

細身なのに堂々とした威圧感がある。

思わず謝ると、皇子はフン、と鼻を鳴らした。


「まあ、仕方なかろう。俺と契約を交わす栄誉に身を竦めるのも無理はない」

「あの、契約って……」

「ん? 先ほど俺と魔力を交わしたであろう。なんだ、見た目だけではなく記憶も質素とはな」


なんだこの人、ナチュラル暴君だぞ。

えーと、契約って…… さっき、頭の中に声が流れてきて、ぼーっとしてたら手が熱くなって……


「そうだ! 右手!」


右手の文様を慌てて皇子に突き出す。


「あの、これ! これ、なんですか!?」

「ん? 番った証だが。」

「番うって、何を?」


私の問いかけに、皇子は呆れたように眉をひそめた。


「貴様、先ほど俺と婚姻契約を結んだではないか」

「はぁーーーーーー!? 何も聞いてないんですけど!?」

「我が問いを拒まなかったであろう? まあ、拒んでいたとしても貴様に拒否権はないがな」

「いやいやいやいや」


聞いてない。マジで聞いてない。

え? なんで? さすがにこのビジュアルでも無理が過ぎるぞ。


「あの、ちょっと、取り消して欲しいんですけど。クーリングオフ!」

「くーりんぐ?なんだ?人間の魔法か? 取り消す、というのもよくわからんな。貴様、生涯随一の名誉を溝に捨てるか?」


可愛く小首を傾げられてしまった。

ダメだこの人、話通じない系の人だ


「サンディーさん! サンディーさん!!!」


サンディーさんにヘルプを求めようとしたら、なぜかむせび泣いていた。


「うっ…うっ… エルヴィスさまが…… ようやく番を……」

「ちょ、ちょっと、なんでそんな泣いてるんですか!」

「エルヴィスさまは番を探す時期になってもさっぱり浮いた話がなく、どの淑女のアプローチも文字通り跳ね返す始末で…… 私など心配のあまり何度鱗を剥いだことか…」


鱗を剥ぐって、円形脱毛症的なストレスからくるやつなのかな。

いや、今はそうじゃない。


「ちがう! サンディーさん! ちがうの! 私は婚姻してないの!」

「うっうっ…… これで安心です、ようやくお世継ぎが……!」


やばい、話がどんどん複雑な方向に向かっている。


「あの! 取り消したいんですけど!」


大声で叫ぶと、ようやくサンディーさんが顔を上げて私を見た。


「取り消す……?」


ポカンと口を開けて私を見つめるサンディーさん。

うう、ちょっと罪悪感があるな。たぶんサンディーさんにとっては待ち望んだ花嫁なんだよね。それこそ、自分のもてない息子にようやく彼女ができた時の親心みたいな感じかな。

でも、私にも退けない時がある。許せ、サンディーさん。


「できません」


めちゃくちゃきっぱりと断言された。


「できない…?」

「はい、できません。竜族の婚姻は誓命契約ですゆえ」

「と、いうと…?」

「契約の際に、魔力を通して互いの魂に楔を打ちます。それゆえ、契約を破棄するか片方が命を落とした際は、両名の魂を楔がうがちます」

「あの、端的に言うと…?」

「契約を破棄すると、死にます」



……!?!???!!?!!?









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