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黒竜の皇子


「申し遅れました、わたくしサンディーと申します」

「あ、怜美と申します」

「れいみぃ?」

「れ、み」

「ああ、レミー!」


レミーになってしまった。もういいか、レミーで。こっちの世界では日本語っぽい名詞はなじみがなさそうだし。


「レミーさまはなぜこちらの森に?」

「それが実は―――――」


********************


「なんと、それはお気の毒に……」


サンディーさんの質問に堰を切ったようにこれまでのことを話し続けること数十分。

サンディーさんは、私の境遇にハラハラと涙を流してくれた。


「やはり人間許せません、滅ぼすべきです」


ぐすぐすと鼻をすすりながら物騒なことを言うサンディーさん。

私も一応人間なのでできれば滅ぼさないでほしい。

その私の願いを見透かしてか、サンディーさんがわたしに笑いかけた。


「レミーさまは人間ではないです」

「いや、人間なんですけ「人間じゃないです」

「はい……」


お、押しがすごい。否定を食い気味に押し切られてしまった。

サンディーさん、柔らかい物腰に反して意外と癖があるタイプだ。


「ところで、ここってどこなんです?」

かねてからの疑問を口にすると、サンディーさんはああ、と事もなげに教えてくれた。


「禁足地の森ですよ」


あの師団長、本当に人間のいない土地に飛ばしてくれたのね。有言実行、上等じゃない。

しかも自由に開墾していい、とか言ってたのに思いっきり人間お断りの土地じゃん。

くそー、思い出してだんだん怒りが込み上げてきた。


「フィルデリアからは近いですか?」

「いえ、馬車で一か月はかかります」


むむ、相当遠くにとばされたのね。


「すみません、この辺の地理に疎くて、地図で教えてもらえませんか?」


私のお願いに、サンディーさんはいいですよ、と、快く応えてくれた。

枝を拾って、土にサラサラと図を描いていく。


「ここが、今私たちのいる森です。南にあるのが、侵攻してきたボルド帝国。そのさらに南がフィルデリアです」

「ボルド帝国、おっきいですね」

「この大陸一の大国ですからね。まあ、人間の国の中では、ですが」


サンディーさんがちょこちょこと竜プライドを出してくる。


「しょせん人間が住んでいるのはこの大陸の中で魔物が少ないごく一部の土地。ただ、ボルド帝国はこのところ強圧的な態度で領地を拡大しています。聖国フィルデリアも、うかうかしてはいられないでしょうね」


そこまで言ったところで、サンディーさんが、地面から顔を上げて私を見た。


「レミーさまはこれからどうなさるんですか?」

「え、えっと……どうしよう…」

 

今の私は職なし・金なし・身分なしのヘレンケラー状態だ。もちろん帰る場所もない。

知っている場所といえば、最低の扱いを受けたフィルデリアぐらいだけど、絶対に戻りたくない。仕返しはしたいけど。


「私たちは、しばらくこの森で体力を回復してから、元の森へ戻る予定です。よろしければ、レミーさまも一緒に来ませんか?」


言葉に詰まった私に見かねてか、サンディーさんが提案してくれた。

すごく有難い申し出だけど、人間の私が一緒にいることで、二人(二匹)に迷惑がかかってもやだなあ。あと、その森ってとこも戦火が激しそうだし。

とりあえず、人のいる村まで行ければ住み込みの仕事か何かを探せるかな。

 言葉…は、大丈夫だ、と思う。王様とも普通に会話してたし。


「ううん、私は大丈夫。あの、もしできたら、人が住んでる村の近くまで送ってもらえないかな?」

「それだけでいいのですか? 皇子の命の恩人なのですし、願えば国の一つや二つ、滅ぼしますが」

「あ、そういうのはいいです」


穏やかな物腰で思考がガチヤクザなの、止めてほしい。


「では、皇子が目覚め次第、街までお送りしましょう」


 竜は、ポーションを飲んでからずっと身じろぎもせず眠っている。

 あれだけの傷だもんね、そりゃちょっと眠ったぐらいで回復するわけないか。


「早く良くなるといいね」


そっと、竜のひたいを撫でる。

実家で飼っていた猫が調子悪いとき、こうやって撫でたら気持ちよさそうな顔してたなあ。

猫の柔らかな感触を思い出しながら撫で続けていると、突然頭の中に声が流れ込んできた。


『汝、我が番となるか』


突然の出来事に驚いて声も出せない私の目を、いつの間にか開いていた竜の眼が捉えた。


『契約成立だな』


その声と共に、ひたいを撫でていた私の手が激しく燃えた。


「あっつ…!」


じりじりと手を焼く熱に、思わず引っ込めようとするが、張り付いたように離れない。

しばしの後、ようやく額から解放された私の右手には、ひし形のような謎の形の文様が浮き出ていた。

いつの間にか身を起こしていた竜は、その文様を見て、満足げに笑った。


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