牢屋と空腹と私
「ちょっと!? なんですかこの扱い!?」
いきなり騎士軍団に連行されて長い廊下を引きずられ、幾度も階段を下りた先の薄暗い個室に放り込まれた私は、引き返していく騎士軍団の背中に向かって叫んだ。
「ねえ! 聞こえてる!? コラ、話ぐらい聞きなさいよ、この根性無し!」
最初は無視を決め込んでいた騎士軍団だったが、私が鉄格子をつかんでガンガンゆすり始めた音が聞こえてか、ようやく最後尾にいた一人が戻ってきた。
「なんだ、聖女もどき」
「もどきって、あんた、勝手に呼び出しといてその言い草はないでしょう!」
「貴様は何らかの魔術を使用し、自らを聖女であると偽装した。これは第一級重罪にあたる。王の沙汰が下るまでそこで自らの罪を悔いるがよい」
「偽装って… わたし、何もしてないんだけど。第一、魔力が無いんでしょ?だったら偽装もなにもできないじゃない」
「どうかな、黒幕がいるんだろう?」
騎士はフン、と鼻で笑った。
「どうせお前は使い捨てだ。水晶玉に魔力を込めてしまえばこっちのものだと思ったのだろうが、まさか魔力が全くないとは想定外だったのだろうな。まあいい。お前が裏にいる者の名前を吐くまで絞り上げるだけだ」
そう言うと、騎士はあっけにとられた私の顔を置き去りにして、すたすたと歩き去っていった。
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翌日。
硬いベッドに寒くてじめじめした部屋のせいで寝不足の私の元に訪れたのは、鎧が擦れ合うようなガチャガチャという騒音とバカでかい声だった。
「聖女もどき! 起きろ!」
「起きろっていうか、寝れてませんけど」
寝不足に加えて、昨日から何も食べてないから空腹がやばい。
何でもいいから食べたい。できれば吉野家の牛丼に卵トッピングして食べたい。
「囚人は飢え死にしてもいいんですか? かぁ~、これが聖国とやらのやることですかねぇ」
ムカムカして煽ってみた私を無視して、騎士が私の手首に縄をかける。
縄はすべすべした絹のような感触だが、金属のようにひんやりと冷たかった。
「なんですかこれ?」
「魔錠だ。万が一高位魔法でも使われてはたまらんからな」
騎士に紐を引っ張られて、再び長い廊下を歩く。
やがて、ひときわ大きな扉の前で足を止めると、騎士がダン、と左手の槍を床に打ち付けた。
「囚人を連れて参りました!」
ややあって、扉が内側から開かれた。
昨日の広間よりは狭いが、十分に広々とした部屋。
床は赤いビロードの絨毯が敷き詰められ、むしろ昨日の部屋よりも豪奢に見えた。
赤い絨毯の上には金色の織物が一筋、壮年の体格のいい男性が座る豪奢な椅子の前まで続いていた。
わたしをその男性の前まで引きずった騎士は、縄の端を手に握ったままひざまずき、首を垂れた。
その様子を気にも留めず、玉座の男性は、私の目を真っ直ぐ覗き込んで、言った。
「貴様が聖女を騙ったという女か?」
「いえ、違います」
即答した瞬間、隣で頭を下げ続ける騎士にめちゃくちゃ紐を引っ張られた。痛い。