「訪れたもの」
投稿テストも兼ねた簡単な文章です。
拙い文章の上、ポエムの様な感じになってしまっていますがご了承ください。
やあ、おはよう。
ほら、起きてごらん。
さぁ、微睡から抜け出して。
――早く、出ておいで。
「……ん、んぅ」
誰かに起こされたような気がして、目が覚めた。
だが、一人ぼっちのこの部屋に、他の誰かがいるわけもなく、ただ目覚めた直後のぼんやりとした視界の中で、カーテンの隙間からにじむ薄暗い光に当てられて、いつもの天井が見て取れた。
ざぁざぁと天井を打つ水の音が、部屋の中を響く。
きっと窓の外は水浸しになっているんだろうな。
そんな、益体もない考えが浮かんでは、まだ頭の中に残った微睡の残滓に飲み込まれて消えていった。
ふと、視線を横にずらす。
でも、そんな事で何かが始まるわけもなく、真新しい何かや見たこともない何かがそこに映ることもない、昨日と、これまでと変わらない部屋の壁が目についた。
当然だけど、誰もいない。
壁に取りついていた扉の前にも、その向こうにも誰の姿も見えはしない。
ぼんやりとした意識の中、天井を打つざぁざぁと背後にある窓の外から聞こえるびちゃびちゃだけが、絶えず部屋の中を響いている。
「はぁ……」
他に動くもののない部屋は、主同様に寝坊助なのか、響く水音も相まってブルリとする寒さを纏っていた。
肌を刺す冷たい空気から逃れようと、無意識に動いた手はいつの間にかずれていた毛布の端を呼び戻すように引いて、締め切るように顔まで覆った。
このまま、再び、眠ってしまおうか。
温かな毛布の感触に包まれて、トロンとした意識が再び夢の世界へ旅立とうとする。
「……―――はぁ、起きるか」
心地よい夢への旅路、でも、目覚めた時に感じた何かが、まるでしこりの様に片隅に残り、なかなか扉を開いてくれない。
そうする内に、寝ぼけていたものが観念したように目を覚まし、やがて甘い誘惑は初めからなかったかのような顔をして消えて行ってしまった。
温かな、居心地の良いベッドにこれ以上ないくらい後ろ髪をひかれながら、しぶしぶ抜け出す。
天井から聞こえるざぁざぁという音は、途切れることなく鳴り響き、まるで抜け出す自分を非難しているようにも聞こえた。
そんなバカな妄想を、自分自身で鼻で笑い、ため息一つと共に振り切った。
目覚めたばかりの冷たい空気の中、いそいそと着替えを済ませる。
背後の窓からは冷たい水の音。
他の誰もいないこの部屋に訪れたものは何だったのか。
纏まらない思考を引きずり、身支度を整える。
絶えず主張を繰り返す窓に背を向けて、部屋の扉に手をかけて止まった部屋から抜け出した。
「……」
靴を履いて、外に出る。
包むような心地よい温かな風と乾いた地面を踏む感触に思わず目を細める。
時折感じる冷たい風に目を向ければ、路肩に積もる雪が申し訳なさそうに小さくなっていく。
まずは、空腹を満たそう。
馴染みの店に歩を進める中、訪れたものが何かを思いつく。
「なるほど、だから目が覚めたんだな」
温かなそよ風に吹かれ、小さく消えていく冬の子ら。
連れ去っていくのは、目覚めを告げる春の訪れ。