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ヴァルラウン  作者: TKミハル
‘ヴァルラウン’
32/34

2

お待たせしました。残酷表現と多少グロい描写有りにつき、ご注意ください。

 窓から踊る炎に照らされ、くっきりと闇の化け物の姿が浮かぶ。

「逃げてください!」

 ナタリーの叫びとほぼ同時に、今度は四本の腕が次々と放たれた。


 逃げる間もなく首を絞められ、ユークは喘ぎながらも、不慣れな動きで首を絞めつけるその腕へ、二本目のナイフを深々と刺した。同時にティーラーが横から蔦で腕を吹き飛ばす。


「ユーク当たったらごめん!」

 フレデリカが問答無用で‘力’を溜め、ため息をひとつ吐きアッシュが動いた。

 咳き込みながらバックステップをとるユーク回収し、遠くへ放り出す。

 そのすぐ脇を赤い稲妻が走り、引きかけたジョナサンの腕を襲い、メリメリと音を立てて肩まで二つに裂けた。


 体から左腕がだらりと下へ落ち、シュルシュルとくねり縮んでいく。

「やった、のか?」

 まさかアッシュに助けられるとは……と複雑な気持ちでユークは息を整えつつ窺う。

 突然、ジョナサンが真っ二つになった肩の一方を無事な手で持ち、メリメリと引き剥がした。

 左腕であった黒い塊が投げ捨てられ、遠くでドサッと音を立てる。

「ぐ、グロい」

 蠢く傷口を見て呻くフレデリカに、そこから伸びた黒い触手がヒュンヒュンと襲いかかり、フォルミナの投げつけた大石に巻きつくと、それを粉砕した。


「きりがない、な」

 息を整えているユークの後ろで、安全な場所にいるはずのナタリーが悲鳴を上げた。

「いやぁあっ」

 イシューとナタリーの近くに落ちた最初の塊が、少しずつ動き始めていた。

始めていた。頭をむくりともたげ、小さな手足を伸ばしていく。……そこへイシューの炎が襲った。

「こっちは何とかする。本体を倒してくれ!」

「仕方ないので、僕も」

 冷えた声音でヨナが言い、蠢く塊を潰すと、ナタリーも落ちていた棒きれを拾い、蠢く塊を叩いて応戦の構えをとる。

「倒してくれといわれてもな……」

 こちらを見ているジョナサンと目があった。虚ろと凪いだ光を繰り返し映す瞳がこちらを見つめている。


ユークは深く息を吸い込んだ。


「フレディ。さっきのもう一度使えるか?」

 フレデリカがユークの隣に立ち、同じように彼を眺める。

「ギリギリだけど、やってみる。絶対にタイミングを逃さないでね」


 その二人を、また別の面々が眺めつつ、

「どうも、二人の世界に入りがちだな。協力って言葉を知らないのか」

「まあ、これまでのこともあるしね」

ティーラーとアッシュが冷静に言葉を交わす。

 ジョナサンの背中がぱっくりと割れ、今度はそこから轟くような咆哮が上がった。

「隊長……」

変わり果てた姿の隊長を痛ましく思いながらも、自分たちが生き残るためにと、フォルミナとティーラーがそれぞれ頷き合った。


 まずフォルミナがその辺の木を抜いて、放り込み、ティーラーがそこにびっしり棘を茂らせて攻撃する。

「どうも、美しくないけど……」

 しかし、口を塞ぐ棘の痛みに体を震わせ、黒のジョナサンは動きを止めた。やがて強力な牙を生やし、バリバリとそれを呑み込み始めていく。


 その隙にとユークとフレデリカの二人が別々に動いたため、留まっていたジョナサンはまず背中から生やした手をフレデリカに向けて伸ばした。それをナタリーが木の棒で叩く。

「これぐらいなら……!」

 しかし突如として黒の手はナタリーに向きを変え、恐怖に顔を引きつらせる彼女をハウエルが庇い、爪で闇手を切り裂いた。

 ユークに肉迫したジョナサンは、アッシュに蹴り飛ばされるも、触手で彼を捕え、地面へと叩きつけた。

「ユーク!」

 充分に力を溜めて髪の毛がやや浮かび上がっているフレデリカの声で、ユークはそちらに頷き、アッシュに止めを刺そうとしているジョナサンへと走り寄った。


 その手が自分を捉えるのにも構わず、ユークは最後のナイフを心臓の位置へ捻じ込んで腹を蹴り、なんとか距離をとって地面へ倒れ込む。それを待ってフレデリカがナイフを指標に全エネルギーを注ぎ込んだ。

「ぎぁああああぁああっ」

 耳を塞ぎたくなるような苦悶の声とともに、半分以上体が削げ落ちたジョナサンがよろめいた。フレデリカが叫ぶ。

「ユーク!」

 いつのまにかジョナサンが彼の目の前にいた。エネルギーの余波で動けないユークに手が伸ばされる。


 死を覚悟したユークの耳に、かすかな言葉が届いた。

「……わるかった」

 一度だけ強くくしゃっと頭を撫でられ、その手が滑り落ちていく。

 ドサ、と彼が絶命したのと同じくして、その闇がどんどんと薄く、溶けていき、血塗れの領主の遺体と、闇に取り込まれていた館の人々の屍が姿を現した。


「うわぁ……これ、どう言い訳するよ?」

 見る影もない庭園の惨状と、散らばる焼け焦げた塊を見渡し、フレデリカが呟く。


静寂が包む中、遠くからガヤガヤと怒鳴り声やこっちだ、と叫ぶ声が近づいてきている。

「とりあえず、逃げた方がいいな」

「……そうですよね」

肩で息していたナタリーがよろよろと近づき、乾いた笑みを浮かべた。

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