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夕食時。エリックと仲違いしてからずっと二階に引きこもっていたフレデリカは、ナタリーの心配をよそに、普通にちゃんと一階に下りてきていた。
こっそり観察していると、フレデリカは略式のお祈りを済ませた後、どことなく嬉しそうな様子で、スープに真っ先に手をつける。
食事が大方無くなったところで、夕食のほとんどを作ったエリックが、やっと解決の目途がついたと皆に報告した。
「ここへ来て、五日。なんとか情報を集めてみたんだが……領主館のまわりの様子や、使用人、私兵の数からして、やはり動く時は一人じゃきつい」
「それで、どうするんじゃ?」
「あ、じゃああたしが一緒に」
「フレディは、いい。イシュー、すまないが手を貸してくれ」
バッサリはねのけてユークがイシューを向く。
「む……あんまり役に立ちそうにないがな……。何をするんじゃ?」
「館へ忍び込むときの見張り役を頼みたい。壁を越えるまでの短いあいだ、巡回している兵の目をごまかしてくれ。それから……中へ入ったらタイミングを見て、騒ぎを起こしてほしい」
「……わかった」
緊張した様子のイシューの横で、その二人の会話をつまらなそうに眺めていたフレデリカが、席を立つ。
「あれ?フレデリカさん、終わりですか」
「ん〜、ごめん。もう上に行く」
まだエリックさんに怒っているのかと、ナタリーは心配になった。
「フレデリカ」
イシューが厳しい表情をする。
ごまかすように笑い、ひらひらと手を振って、彼女はそのまま部屋を出て二階へ上がっていく。
「わしもちょっと失礼するよ。ああ、後でまた食べるから置いといてくれ」
イシューも席を立ち、食卓についているのは二人だけになった。
「なんだか、変じゃないですか。二人とも……」
ナタリーの問いかけに青年は答えず、黙々とサラダを口へ運ぶだけだった。
その夜、フレデリカはいつものようになかなか眠れず、ベッドを二度三度ごろごろしていたが、ふと思い立ち、ユークの元へ行こうかどうしようか迷っているところに、突然ノックがして、音も立てずするりとユークが入ってくる。
「ユーク、返事を待ってから入ってきてよ。それに鍵……」
あ〜これは、相当ストレスが溜まっているなあ。
その表情を見て、フレデリカは呑気に思う。
「なんか、機嫌悪そうな時に何だけど……明日ナタリーと出かけていい?」
「うるさい」
「うわっ」
腕を掴まれ強引に押し倒され、ブラウスのボタンを二つ外されたフレデリカは慌ててドンドンと胸板を叩く。
「ちょっと、ストップストップ!」
「……」
ユークは、一度目をきつく閉じ、やがて深く長くため息を吐いて離れた。
「……頼むから、ここで大人しくしててくれ」
辛そうにそう告げるユークの前で外されたボタンをポチポチと直しつつ、なんであたしなんだろうねー。もっと普通の奴を好きになろうよ、とフレデリカは心でぼやく。
「こんなところにずっといたらさー、だんだん無気力になってっちゃいそうなんだよね。少しでいいから」
くそったれ、と吐いて、何かを堪えるかのようにきつく目を閉じたユークは、やがてゆっくり起き上がった。
「昼前から昼過ぎ。少しの間のみ」
地を這うような声で呟くと、こんな時でもしっかりとかつらを被り見た目をチェックしてから黙って扉から出ていった。
「……ごめんねユーク」
残されたフレデリカの罪悪感と、わずかに哀れみの交じったその言葉が、ぽつりと静かな部屋に落ちて消えた。