『結』(砂臥担当)
※新たな使用ワード
『まわる』『星』『柿の種』
※スペシャルワード
『手の描写』『色(赤)』
必要以上に溜まった熱を逃そうと、バスローブのままでいた私の身体はすっかり冷えてしまっていた。
勝手な事を言うだけ言って消えてしまった、謎の偉そうなオジサマ(※アレを信長とは認めたくない)は、もういない。
「……変な夢を見たものね」
そう呟くも、私の下には自らが撒いた大量の塩。
そして洗った顔は涙でグチャグチャになっている。
私は自称信長(※あくまで認めない姿勢)の言葉を心の中で反芻した。
(——『答えは貴様の中にしかない』、か……)
なんだか喉が渇いている……様な気がする。
なんであの幽霊はあんなにも自信に満ち溢れていたのだろう。幽霊の癖に生き生きとしやがって。
……私の方がよっぽど死んでいるみたいだ。
————朱夏が好きだった。
自信家で、名前の通り朱く燃え上がる夏の陽の様な、あの子はもう……いない。
細くしなやかな体躯に小麦色に、日にやけた肌。
「触れられるのが嫌い」と、伸ばしっぱなしにしていた赤味を帯びた髪を結くのは、私だけの特権だった。
「ただいまー……うわっ、なに?この塩……」
「あなた……」
スーツを着た彼が、私を見て驚いた顔を向ける。
長い脚で私に近寄り、骨ばった大きな手で私の頬に触れた。
これが現実。
(私はこの人の事をどう思っているの?)
「どうしたの……泣いた?」
彼は、優しい。まるで、違う。あの頃の朱夏とは、まるで。
培ってきた二人の日々がぐるぐると回る。
この人の事をどう思っているか?……そんなの決まっている。
「——なんでもないの」
意味のわからない体液を頬に這わせたまま、私は笑って首を振った。
「なんでもないのよ……朱夏」
久し振りに口にする彼の名前。
彼はまだ少し戸惑っていたけれど、それ以上なにも聞かなかった。
夕飯の準備もまだしていなかった私に「星が綺麗だから」とロマンティックな言葉をさらりと言った彼は、冷蔵庫から缶ビールを取り出した。
バルコニーに出て二人で晩酌をする。柿の種ぐらいしかツマミはないけれど。
郊外の一軒家。
何不自由のない生活。
それらを手に入れる為、彼は大人になってしまった。
「——で、どうして泣いてたの?」
何気ない口調で彼は尋ねる。
あの頃の朱夏だったらきっと、もっと、違う。
そんなことを思いながらビールを一口呑んだ。
苦味を口に残しながら、ふふ、と笑う。
「とても滑稽な夢を見たの。ただ、それだけ」
この朱夏は知らなくていい。
私の膝に残る棘の事も、なにも。
何不自由のない生活。優しい旦那様。
決まっているでしょう?私はこの人を愛している。
「……人生五十年、夢幻の如くなり」
「敦盛?」
今の世は人生百年、二倍は苦くて当然だ、とあの人は言っていた。
でも————
『貴様は貴様であれば良い』
欲してもいいのだろうか。二倍の甘みをも。
「なに、急に」と笑う朱夏に口付けをした。
「ねぇ朱夏……私ね?」
————子供が欲しいの。貴方ソックリな。
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【信長様の魔王ゲージが10上がりました】
「殿、お帰りなさいませ!」
「おう光秀、なんだ?ご機嫌だな」
「ええ、殿は流石第六天魔王にございますね! 殿がちょっと構った女子、闇落ち致しましたよ。 ……殿の現世復活に、また一歩近づきましたね!」
「ふーん」
「あれ? 興味なさそうですね」
そう、信長は別に現世復活の為に動いた訳ではない。
ちょっと若い子に己の美学を説いてやっただけである。
「そーんーなーこーとーよーりー……光秀ッ! 覚悟!!」
「うわあぁぁぁぁぁぁッ?! ちょっ、やめっ」
「こちょこちょこちょ〜」
現世の若い子をからかうよりも、光秀をからかう方が面白いなーと思う信長は、今日もまたあの世で光秀にメチャクチャ怒られるのであった。
————信長現世復活の時は、遠い。
砂臥
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