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リレー小説・★(かわかみ・間咲・しいたけ・砂臥)  作者: かわかみれい・間咲 正樹・しいたけ・砂臥 環
1/4

『起』(かわかみ担当)

※使用ワード

『棘』『織田信長』


※スペシャルワード

色・『藍』『甕覗』(かめのぞき、と読みます)

手の描写・『てのひらで撫ぜ』『指の先でなぞる』等

 私の左膝には棘が埋まっている。


 髪も身体も綺麗に洗い終わり、私はゆっくりと湯船に沈んだ。

 思わず大きな息をつく。体温より少し高い湯につかり、ぼんやりする時間が少女の頃から私は好きだ。

 意味なく腕や脚をてのひらで撫ぜ、何気なく目を落とす。

 白い湯船に満たされた湯は、あるかなきかの淡い青にみえた。その淡い淡い青の中で見る白い身体は、我ながらいつもよりなまめかしい。

「……甕覗」

 聞きかじった古風な色の名をつぶやく。

 藍染の甕に白い布を一瞬浸し、すぐ引き上げた時の色のなのだそうだ。

 『甕を覗く』程度の時間で染められた色だから……とかなんとか、聞いたような覚えがある。


『藍!』

 明るい、そしてどことなく傲慢の匂うあの声を、私は不意に思い出す。

 脚を撫ぜている手が止まる。指の先で、私だけが知っている左膝の皿の外側にある、小さな硬いものをなぞる。

『藍はどんなタイプの人が好きなんだったっけ?』

 知っていてわざと訊くのだ。本当に性格が悪い。

『織田信長のような人!』

 やけくそのように私が答えるのも、もはやお約束を通り越し、挨拶になっているかもしれない。あっははは、と、朱夏が大笑いするのも。

『なんで信長なの?天才かもしれないけどサイコパスじゃん』

『サイコパスじゃない天才なんか、いないでしょ』

 言えてる、と朱夏は諾い、いたずらっぽい目で私を見る。その目はいたずらっぽいだけじゃなく、当然の権利としてその先の言葉を強請っている。

 私は目を逸らし、重い疲れを吐き出すようにうつむいて続ける。

『……朱夏もそうだけど』

 ようやく朱夏は満足し、いつもの茶番は終わる。


(朱夏、朱夏、朱夏……)

 左膝の小さな塊を指でなぞり、私は、もはや届かない人へ呼びかけ続ける。

 ねえ、朱夏。

 人でなし。

 あなたは私の左膝に棘が埋まっていること、知らないでしょう?

 私のことは何もかも知っている、そんな顔をしていたけれど。

 あなたが知っている私は、『藍』どころか『甕覗』にすぎないんだよ。

 でもさすがに……少しはそのこと、思い知ったでしょう?


 顔を上げ、バスルームの扉のすりガラスを透かし見る。

 とても静かだ。


かわかみさん

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