5/4(土) <存在意義>
今日は家族で旅行だ。
一泊二日で名古屋へ観光しに行く。
この歳で家族旅行なんて少し恥ずかしい気分もあるけれど、親孝行みたいな物だと思っている。
名古屋になった理由は、母親が水族館巡りが好きだからだ。
その後は父親の希望でリニア鉄道館とかへ行った。
僕はおいしい名古屋コーチンの親子丼を食べたので満足である。
夜にホテルの大浴場を一人で満喫していると、いつの間にか22時になっていた。
こっちに来ると、知らない男が僕の前で土下座をしていた。
なんだこいつ?
「神様、私の腕の骨折がいち早く治るようご助力ください……」
男はそう呟いた後、何事も無かったかのように立ち去った。
「昨日から、ああやって直接祈祷しても良い事になったんですよ。タラスが禁止してたのをヴィダが説得したそうです」
部屋の外から来たニャオが言った。
「おかえりなさい神様。他にもこんなのもありますよ」
そう言ってニャオが部屋の隅からいくつかの木の板を持ってきた。
30枚くらいだろうか、木には願い事が書かれていた。
読むと『魚が食べたい』や『牛乳が欲しい』のような食べ物関連の願いが多めだ。
『燻製用にウァルデンのルース木が欲しいです』という願いは叶えてあげられるだろうか、ウァルデンが何か分からない。
食べ物以外なら『この地でも多くの恵みがありますように』なんて物があった。
『男に戻りたい』ってのは、あの女体化に失敗した彼が書いたんだろう。
そのうち戻してあげないとかわいそうだな。
他にも『ピヌンが元気になりますように』なんてのや『神の偶像を崇める帝国が滅びますように』なんて物騒な物もある。
まるで絵馬みたいだ。
……神社にある大量の絵馬を見たときの神様って、こんな気持ちなんだろうか。
「神様、目覚められましたか? 少し御導きを頂きたいのですが、よろしいですか?」
そう言いながらヴィダが部屋に入ってきた。
「導き? 僕に出来ることなら」
「心強いお言葉です。えぇと、この国の資源不足や技術不足を補うため、異教徒の国と貿易する必要が迫られてます。帝国と袂を分かつ我々が帝国と取引するわけにはいきませんので」
「異教徒……か」
「そうです。我々アティガト教では神は一人だと信じられているのですが、北にあるゼルン王国は神は善神と悪神の二人だと言っています。そして東のウァルデン王国は神は見つけ次第殺せという教義を押し付けているとか」
「なんだか面倒な話だね」
「本当は関わりたくも無いのですが、そうも言ってられません。ゼルンかウァルデンか、どちらと国交を結ぶべきか御導きを頂きたい」
「要は資源さえあれば問題無いんだね、なら心配無用だよ」
僕は椅子から立ち上がり、ヴィダの横を抜け、窓の所まで歩く。
そして窓の外、村の中央に向けて僕は叫んだ。
「ゼディロ国国民、僕の言葉を聞け!」
人々の視線が僕に集まる。
緊張して体が小刻みに揺れ始めた。
落ち着け、大丈夫だ、僕は神なんだ。
「もう生活の心配など不要だ。この国は神の国、資源不足は神の力でいくらでも補おう。願いならいくらでも叶えてやろう!」
僕はさっきの絵馬の内容を思い出しながら、手から魚や牛乳といった食べ物を作りだした。
畑もいくらでも成長させる。
骨折や病気だって治してやる。
この世界に居られる時間が短かろうと、限界までやってやる。
僕が何かを施すたび村人の歓声があがった。
こんな達成感、他に無い。
あぁ、この国こそ僕の存在意義――
こっちに戻っても、まだ大浴場には僕ひとりだった。
体はポカポカだったので、そのまま風呂からあがって何事も無かったかのように部屋に戻った。
心も体もすごく満たされた気分で布団に入り、眠りについた。




