4/24(水) <僕が神だ>
僕は、なんの特徴もないただの高校生である。
これまで生きてきた十数年の人生を、なんの山もなんの谷もなく、ただ普通に生きていた。
熱い青春や深い友情もなければ、病気やいじめに遭うことも無く、ただ単調な日々。
昨日だって、学校に行って勉強して帰るだけの、特に何もない普通の日だった。
夜22時、風呂に入ってパジャマに着替え、寝るためにベッドに入る直前までは――
ベッドに座ったとたん部屋が暗くなった。
停電かと思ったが、なんだか様子がおかしい。
暗くなっただけで灯りはある。
松明の灯りだ。
どこからかお経のような声が聞こえる。
それにお尻もなんだかヒンヤリする。
さっきベッドに座ったはずが、いつのまにか石の椅子に座っていた。
さらに、なぜか僕は全裸になっていた。
目が暗さに慣れてくると、まわりの壁が石で出来ていることに気づいた。
広さは20畳くらいだろうか、そこそこ広い。
湿気ているのか少しカビ臭い。
目の前にはいくつか小さな果物が置いてあり、その奥では十数人の人が僕に向かって土下座していた。
どうやら僕は祭壇に座っているらしい。
一番手前でお経を唱えていた司祭のような男が、顔を上げてこちらを見た。
僕の存在に気づいたようで、驚きと感動を混ぜたような表情に変わった。
「神だ。降りられたぞ!」
司祭のような男が叫んだ。
他の人も次々と顔を上げこちらを見る。
大衆に全裸を晒してる現状にどう反応すればいいか分からず、なんだか恥ずかしくなってきた。
司祭が手を合わせてこちらに語りかけてくる。
「降りたまわれし神よ、弱く儚き我らに御力をお貸し願いたい」
「力を貸す前に、服を貸してくれない……?」
僕がそう言うと、司祭とは別の男が服を脱ぎ、うやうやしくそれを献上してきた。
渡された麻布の服は、ゴワゴワしていて獣のような臭いがする。
着替えるために立ち上がったからか、まわりの人がまた土下座をはじめた。
服を着て石の椅子に座り直すと、司祭がまた語りかけてきた。
「神よ、我々に御力と恵みを与えてください」
「神って……僕は神なんかじゃないよ、ただの高校生」
「コウコウセイ? それは神のみに通じるお言葉。我々の言語にその単語はございません。意味をご教示願いたい」
「違うって、僕は……」
僕の言葉を止めるように、司祭が急に僕の近くまですり寄ってきた。
そして、僕にだけ聞こえるように小声で話しかけてきた。
「嘘でも良いのです、神と名乗っていただきたい。皆の希望になっていただけないでしょうか?」
「いや無理だって、そんな大層なもの」
「その嘘一つで、ここの人々の心を全て救えるのです。なにとぞ、なにとぞ」
「だって神ってあれだろ、『光あれ』とか言って光を生み出したり、そんなの僕に――」
そう言いながら手を前にかざすと、空中に光の玉が現れ、あたりを照らした。
人々がおぉっと驚いたが、僕も驚いた。
手を開けたり閉じたりすると、それにあわせ光の玉も付いたり消えたりした。
これは、僕が生み出した光、なのか?
「神にその御力を披露して頂けたぞ。やはり我らゼディラスの信仰こそ正義なのだ」
司祭の大きな声が石作りの部屋に響いた後、部屋がシンと静まりかえった。
そして部屋に居る人々が僕の方を見つめてきた。
これはどうやら言わざるを得ないらしい。
僕は立ち上がり、両手を斜め上に掲げながら言った。
「僕が、神だ」
わぁぁっと歓声が広がった。
悪くない気分――
次の瞬間、パッと目の前が明るくなった。
徐々に目が慣れてくると、いつもの自分の部屋に居るということに気づいた。
服もいつものパジャマに戻っていた。
ためしに手を前にかざし『光あれ』とつぶやいてみたが、なんの変化もない。
さっきのはなんだったのだろうか?
きっと、夢だったんだろう。
僕はそのまま、ベッドに横になり眠りについた。




