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序 花嫁、到着する

「ここが……シンドラメリー」


 私は眼下に広がる広大な海を見て感嘆の溜息を吐いた。

 大陸の東側にある祖国マディーレから、南の大国であるこのシンドラメリーを目指してはや三週間。

 馬車を乗り継ぎ船を乗り換えて、ようやく王宮のある首都トゥリオッキまで辿り着いた。

 郷里を出たときはやや肌寒く感じた春用の礼装も、もはやうっすらと汗をかくぐらい暑く重たい。

 シンドラメリーは四方を海に囲まれており、国の至るところに汽水(きすい)の運河が走っている。人々の移動手段はもっぱら船で、運河沿いの各家庭には一艘か二艘は小型の短艇が(もや)いであった。

 潮の匂いを含んだ風が、髪を優しく撫でていく。私が生まれ育ったのは内陸部だったので、この匂いすら珍しく、(かぐわ)しいものに思えた。

 この国の建物は白煉瓦で組まれたものが多く、空と海との対比がとても美しかった。家の高さは低く、ほとんどが平屋か二階建て。景観を維持するために教会より高い建物が建てられないためだと聞く。

 家の戸口には国色である緑の布地に、神獣である双頭の蛇を縫い取った旗が上がっていて、人々の服にも緑色のものが多い。母国の貴色は白だったので、その鮮やかな装いは私の心を躍らせた。


「アルメリア様、そろそろ出航致しますよ」

「はい、戻ります」


 船頭に声を掛けられ、私は名残を惜しみつつも船内へと踵を返す。折角王都に入ったのだから、一目この国を見ておきたいと我儘を言って甲板へ出してもらっていたのだ。

 平均的なマディーレ人らしい私の容姿はこの国ではやや目立つ。象牙色の肌、亜麻色の髪、榛色の瞳。そして、マディーレの国花である百合紋を多くあしらった伝統的なシュールコー。

 太陽の恵みを浴びて育つこの国の人々は、多くが日に焼けた肌と黒い髪、黒か青の瞳を持つ。人の見た目だけでなく、衣食住、習慣、法に至るまで恐らく何から何までマディーレとは異なっているのだろう。

 薄暗い船内で瞼の裏に瞬くシンドラメリーの水面を反芻しながら、私はこの光景を忘れないようにしようと密かに思う。

 恐らくこの先、気軽に外を出歩くのも難しくなるに違いない。

 何故なら私は。



 この国の妃となるのだから。

 

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