#6 オオカミタチノシュウゲキ
もはや、完全に自棄になり、体を守りながら殴る構えをとる。
「おりゃぁっ!!」
飛び掛かってきた狼に、魔力鎧の殴りをくらわす。
『フギャッッッ!!』
不意に出た鳴き声を発しながら吹っ飛び、二匹巻き込みながら木に衝突する。木が揺れ、木の葉が数枚、ひらひらと落ちてくる。
「こ・・・この力、前の時みたい・・・」
殴った拳を動かし、その威力を実感する。本来、魔力というのは、魔法にしか使えない。鎧などの生成など誰もできたことがない、だからこの特殊能力は、ベリアルだけのものだ。
「他の道具も、もしかしたら・・・・」
頭の中に武器を思い浮かべ、それを現実に持っているようにイメージする。すると、鎧が光の火花を散らし、消えるとともに、手に二重の魔法陣が現れ、魔力の剣が出現する。
「武具は一度に一つまでか。使った事ないけど、やってみよう・・・」
両手で持ち、重心を前に傾けながら一気に斬り裂く。一匹、真っ二つになり、臓物がどろどろと体外に出てくる。
「次ッ!!」
どんどんと斬り裂き、何匹も死んでいく。辺りが血みどろになり、ベリアル自身も血で真っ赤に濡れる。
『ガルルルルッ・・・ガウッ!!!』
一匹の狼が隙をついて腕に噛みつく。
「痛っ・・・!!」
激痛で怯み、さらにもう一匹が捨て身の体当たりでベリアルの背を地に叩きつける。そして、追撃。一気に襲い掛かり、ベリアルが狼の群れで見えなくなる。
「喰らえ!!ファスクッ!!」
揺らぐ魔力を炎に変換しようとしたが、その手を止める。
「駄目だ・・・!火球じゃ巻き添えだ・・・、なら、苦手だが・・・・」
手を思いきり振り、魔力の粒が氷と化し、日の光を受け、水を滴らせながら狼に突き刺さる。
『キャウンッ!!』
絶命、までには至らなかったが、ベリアルから全匹を放すことに成功した。幸い、ベリアルは腕や足に軽い噛み傷を負っただけですんだ。
「ハァッ・・・ハァッ・・・ハァッ・・・危なッ・・・かった・・・・。リスタ、ありがとう。」
先ほどよりも息を大幅に切らしたベリアルがリスタに目を合わせず礼を言う。
「フィデアッッ!!」
手を頭の上で交差し、風がベリアルを揺らし、その風が刃のように鋭利になって狼に飛ぶ、斬り裂き、切った時と同じように血が噴き出し、臓物が辺りに飛び散る。
「あと・・・20匹位か・・・・」
指で数え、大体数を数える。だが、最後に指さした先に狼ではない何かがいた・・・・
「君達か。俺の可愛い狼達を殺しているのは。」
「!?・・・誰!?」
顔にかかる影が消え、スラっとした顔立ちの20~30代くらいの男性が姿を現した。
「俺は・・・どうしようかな、名前は、言っておくべきか・・・・言っておこう。」
一度、咳払いし、「俺の名前は」と、言ってニヤッと笑う。
「ネイラ・ホープ。」
ベリアルは思わず「えっ!?」と、驚き、声を漏らしてしまう。なぜなら、奴・ネイラの苗字がホープ。ベリアルと同じ苗字だからであった。
「今、驚いたよね。同じ苗字だから。まあ、誰でも同じ苗字の人と合ったら一瞬驚くのも無理はない。」
「お前は、何者だ?」
魔力で作った剣の先をネイラの頬に当てる。薄く切れ、血が僅かにツーっと垂れる。
「俺は、君の兄だ。と言っても、君には分からないだろうが・・・」
「!?」
突如の爆弾発言にベリアルは唖然とし、剣が地面に落ち金属音を立てた後、消滅する。
「ベリアル、君には8歳までの記憶が一切ないだろう?俺たちは、その時に生き別れたんだ。」
「ど、どういう事!?」
「そのまんまの意味さ。今までベリアル、お前にどんなことが起きたのか、知りたくないか?」
そう言うと、手を暗号のようにベリアルには分からない動きで狼たちを後ろへ下げる。そして、ベリアルに近づく。
「何を・・・」
魔力を手に纏わせ、剣を作り出す直前で手を掴まれる。
「待てと言ってるだろう。」
触れられた瞬間、体中がとてつもない不快感に苛まれ、気を失いかけ、腕だけ掴まれた状態で座り込む。
「あ・・・ああ・・・・」
頭を押さえ、嗚咽する。頭の中には、今まで経験したことのない記憶が大量に流れ込み、気が狂いそうになる。