#4 アジン
この森に母を攫った者はいるのだろうか。
「ベリアル、金属類は持ってるか?」
「えーと、持って・・・ない。」
「そうか。」
そして、ついに森の領地に足を踏み入れる。その瞬間、僅かに体が重くなる。
「くっ・・・・そうか・・・人間の体は僅かに磁気を帯びてるって本で見たことがある・・・この森、人間にまで干渉するのか・・・」
いつもよりも物理的に重い足取りで進んでいく。なんとなく、ここにいるような気がした。だが、足跡や、乗り物の跡が出来ていない。
「止まれ。」
突如、リスタが停止命令を下す。
「ど、どうしたの・・・?」
「̪シッ、静かに。」
リスタの視線の先を見ると、その原因はすぐに分かった。
―――ベリアルの母親が縄で木に縛られていた。猿轡をされ、気を失っているようだ。幸い、外傷はないようだ。
「お母さ・・・」
「「止まるがよい。」」
拘束を外そうと、母の元に駆け寄ろうとしたとき、男の低い声が聞こえた。
「「俺の領地に足を踏み入れるとは愚かなり。」」
その声は聞こえてはいるものの、まるで脳内に直接語りかけられているように、声の主の居場所が分からない。
「どういう事だ・・・?どこにいる・・・・?まるで、脳内に・・・というか、全方向から聞こえるような・・・・」
「どういう事・・・?」
男の嘲笑が聞こえる。
「「男の方は察しが良い。」」
そう、聞こえた後、草が一点を中心に靡く。それと共に風が二人に襲う。そして、奴の姿が露わとなった。
人間ではない。亜人というべきだ。額からは日本の角が生えていて、そこはトガ二族、背中から羽が生え、そこはウィロウ族、人間の肌よりも真っ白に肌が透き通っていて、そこはハクバニ族、それぞれの一族の証を持っている。
「何だあいつ。見た目が色々カオスだぞ・・・」
「お前が、私のお母さんを攫ったの・・・・?」
奴の見た目に対してディスるリスタ、単刀直入に、変な流れでベリアルが奴に指さしながら本題を聞く。奴は眉間を爪で軽く掻き、その後腕を組み、しばし考える。思いついたような素振りも見せず、辺りをみまわし、ベリアルの母の姿を見てから、理解したようだ。
「「ああ、そういう事だったか。だが、我ではない。しかし・・・その犯人、分からんでもないぞ?」」
「え?本当?」
ベリアルが期待の眼差しで男を見る。
「「我は命あるものを見れば、いつ、どこにいったか、そして、生年月日、名前、色々と分かる。だから、それを使えば、誰が犯人かなど造作もない。」」
「じゃ、じゃあ・・・探してくれないか?」
「「・・・・いいだろう。ベリアル、リスタ、犯人を見つけ次第、伝えに来る。それまで、ここら一帯を見ていてはくれぬか?」」
犯人を捜してきてくれることと、ジキの森の監視という交換条件、少し条件が楽ではないかと思うが、楽に越したことはないだろう。
「分かった。この森を、私たちが守る。」
「「交渉成立だ。私の名はリノ・アルジェナ。それでは、すぐに見つけてくる。」」
そう言うと、翼を思いきり広げ、10m程の巨大なものとなった。そのままノーモーションで上空50m程まで飛んでいた。すぐに飛び去り、完全に見えなくなる。
「じゃ、ジキの森防衛戦、開始!!」
「そこまで大袈裟じゃないでしょ!!」
大規模な言い方に、ベリアルが間髪入れず突っ込みを入れる。そして、母の元へ駆け寄り、縄に手を掛ける。
「あれ?ほどけない・・・・」
「めっちゃきつく結んであんな。・・・・おりゃあぁぁっ・・・・っっつ・・・・っっっ・・・・・」
結び目に指を引っ掛け、全力で力を入れるが、一向にほどける気がしない。
「くそっ・・・・全然ほどけねえ・・・!?・・・・・・・ベリアル、これを見ろ。」
「何・・・?」
見ると、縄に謎の文字が刻まれていた。
「これ、呪術文字じゃねえか・・・?やべえ、早く解かないとベリアルの母さんの命が危ねぇっ・・・!!」
呪術―――魔法の亜種である。専用の文字を刻み、呪いを込めることで、対象者に災難が降りかかる。
「このパターンは・・・多分、縄がほどけないとか?」
「何その曖昧な感じ!?」
危機的状況の中、またもや突っ込みを入れ、緊張感が崩れる。