#2 フシギナチカラ
その自体を飲み込めず、生唾を飲む。
「何したのか分かんねーが、シャルク君の仇はとる。てめーをぶっ殺すっ!!」
3人がポケットからおもむろに折り畳み式のナイフを取り出し、開く。月光でナイフが煌き、僅かに目が痛む。
「ちょ、ちょっと待って・・・!!ごめんなさいっ!!!」
そのナイフを視界にとらえた瞬間、少女の顔色が一変する。ナイフを持たれ、こちらには対抗策もクソもなく、そして囲まれているため、逃げるという選択肢がない。これはいわゆる、将棋で言う所の『詰み』、チェスで言う所の『チェックメイト』、諺で言う所の『まな板の鯉』。
頭の中では、様々な記憶が写真のように動かない画像として繰り返し浮かび、忘れ、浮かび、忘れを繰り返していた。
少女は、地面に頭を擦りつけ、土下座をする。精一杯の、命をこめた土下座だ。謝罪の言葉を述べたり、お辞儀をするのとは違う、最高最低の謝罪。
「今更許すかよっ!!」
「がはっっ!!・・・・」
直後、横腹への鋭い蹴りを入れられ、軽く吹っ飛ぶ。その衝撃、そしてその後に来る、床との衝突による衝撃、もうすでに、肋骨の2,3本は折れたであろう痛みであった。脇腹をおさえ、嗚咽する。だが、幸い感触で折れていないことが何となく分かった。
「おらっ!!」
さらに追撃で腕を蹴られる。もはや、痛みを抑える悲鳴さえも出ない。ただ、嗚咽による僅かな喘ぎのみが微かに聞こえる。
「誰かっ・・・・助け・・・・」
ほとんど力のない拳で男の一人の脚を殴る。少女にとっては最後の足掻きであった、はずだった。
「うっぎゃぁっっ!!!!」
その悲鳴は少女のものではない。男の野太めの声だった。何故、突然男の悲鳴が聞こえたか。
―――男の左脚が根元まで潰れ、とめどなく血が流れ出ていた。そして体を支えるための脚を片方失ったため、バランスが一気に崩れ、手をついて倒れる。
「ひっ、ひぃぃぃぁああぁっっ・・・!!」
倒れた男の叫び声、肉片を見て吐きそうになりながら叫ぶ男二人の声が響く。そして、少女に恐怖を覚えたヤンキー一行の、無傷の二人は重症の男と、重症なのか、軽症なのか、はたまた重体なのかも分からないシャルクなる男を抱え、叫びながら逃げる。
「はぁっ・・・はぁっ・・・」
痛む脇腹と腕をおさえ、何とか壁に寄りかかり、座る。
「何?・・・今のは・・・・」
髪の毛をくしゃくしゃに崩し、寝起きのような髪型になる。
周りについている血が不安と恐怖を呼び覚ませるが、少女の脳裏にはある事が浮かんでいた。
――――――――――この現象は、自分が起こしたものではないか。と・・・
ただ、『まな板の鯛』から『背水の陣』のような形に変え、絶望的なピンチから助かった。
「あっ・・・早く帰らないと・・・!」
用事に気付き、すぐさま立ち上がって、痛みなど忘れ急いで家へと走って向かう。
この少女の名は、ベリアル・ホープ。
―――家に何とか着き、恐る恐る扉を開く。
「コラァっ!!何やってたの!?こんな時間まで・・・・・って、どうしたの、その汚れ?」
開いた玄関の前に立っていた顔立ちの良い美しい女性が眉間にしわを寄せ、明らかに怒りがこもっていた。が、服についている汚れを見て、その怒りが消える。
「何でもないよ。ただ、転んだだけ。」
と、嘘をつくが、その心配の眼差しは治まらない。蹴られた方の腕を掴み、袖を捲る。
「・・・・この痣、どうしたの!?」
どうしてここまで的確に傷の位置を把握し、一発目で当ててくるのか、だが、ベリアルはその訳が分かった。ヤンキーに蹴られ、靴の汚れが付いたまま、掃うのを忘れていた。
「それに脇腹の辺りも・・・転んだじゃけじゃここまでひどくはないわよ。」
服を脱がせ、直にその傷を確認し、再び服を着させる。そして、怒りや、心配の感情とは違う忠告かとでもいうような真面目な目つきに変わった。
「何かあったなら、すぐにお母さんに言いなさい。」
「う、うん・・・・でも、大丈夫。」
そのまま黙って二階の部屋へと向かい、階段を上がっていく。
「・・・・・・・・」