57 指輪の姫2
「ワカはワタクシの友人ですの。」
「巫女…でも貴族でもなく、平民?」
「ええ。」
じっと姫はこちらを見る。
少しつり眼の大きい瞳。豪華なレースのついた薄紫のドレス。
ドキドキ。
「お姉さまの友人なら、席につくのを許します。」
執事がスッと椅子を下げ、座るように促す。
「は、はい。えーと、ありがたき幸せ?です。」
「ウフフ。」
ストンとそのまま椅子に座り、3人でお茶の時間が始まる。
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初摘みのダージリン。(実際にダージリン地方があるわけではないから勝手にそう呼んでる。)
ワインで言うボルドーみたいなファーストフラッシュと呼ばれる春摘みの、一番高い等級の、50g5000円くらいするような、そんな爽やかで花の香りが広がる紅茶。
これが飲めただけでも来たかいがあった気がしてくる。
さっきの歌は素晴らしかったとか、そろそろ暑くなってきたとか、他愛のない会話をしながら
紅茶を飲む王女の右手薬指の白銀の指輪を見つめる。
あれかぁ~最重要アイテム。
「そんなに指輪が気になる?」
姫に言われてドキッと心臓が跳ねる。視線がバレバレすぎた。
「伝説の指輪ですものね。」
ブリジットがさり気なく助け舟を出してくれた。
姫はぞんざいに指輪を外すとぽいっと投げて渡す。
「ええっ?」
「見ていいわよ。」
後ろで執事さんたちが慌てている。
折角なので両手で指輪を慎重に持って、取り上げられる前に観察させてもらう。
指輪は1センチほどの太さの白銀ぽい素材で出来ていて、全面に装飾が彫られている。
彫り物は長年の使用で削られ大分薄くなっているけど、女神と鳥が彫られて…あ、これは女神じゃなくて妖精王かな。よく見ると耳が長い。
プーがいたら、指輪に魔法が残ってるかどうかわかるのになぁ。どこ行ったんだか。
「この指輪は、歴代の王族の女性にしか扱えないの。他人が持ってもただのボロい指輪よ。」
「魔法…が、いや、神の御使いを操ることが出来るんです…よね?」
恐る恐る聞いてみる。
背後から執事さんの殺気がしてきたので、姫に指輪を返した。
「そうよ、人間に魔法は使えないわ。これは魔法を使える存在を支配することが出来る指輪なのよ。」
「人間には魔法は使えない…ものなんですの?」
ブリジットが横槍を入れる。
「お姉さま。北の亜人や妖精との混血ならわかりますが、人間である以上魔法は使えません。
魔法は妖精のもの、魔術は妖魔のもの。神がそうお作りになられたのですから。」
そう…とブリジットは相槌を打つ。
これは、自分が人間じゃないと思われた感じかな。
この世界ではやっぱり人間じゃないとまずいのかな。
アルマスも、人間じゃなかったら私のこと…。
「言い伝えでは、妖精も人間も昔は同じように暮らしていたんですわよね?」
「お姉さま。この世界は人間のもの。妖精や妖魔にはそれぞれの国があります。
いたずらや災いばかりもたらす妖精など、特別な力を持たない人にとって厄災でしかないと思いませんか?
亜人や妖魔と同じく、この国から排除すべき存在です。」
リアン姫は、さっきから結構過激な発言をしている。
王家は、この国としてはそういう考えなんだな。
そういえば、傭兵を集めて西の魔物を討伐に遠征に出るとか言ってたっけ…?
「…まぁ、使えるものなら魔法でもなんでも使いたいですわ。」
「あ、お姉さまがもし覚醒したとしたら、末永く王家を、人間のこの国をお守りくださいね☆」
また、リアン姫がブリジットにべた~っとくっつこうとする。
さすがに教会の秘密の話でも王家には通じてるのね。
「も、もう15になるし、残念ながら無理かもしれないわ。
もうどこかで別の子が覚醒しているかも…。」
ブリジットが何気なく言ったセリフに、リアン姫は顔色がサッと変わる。
「…そうだとしたら…時間が…早く取り返さないと…。」
「…リアン?」
「実はお姉さま。ずっとお側にいたいのですけど、明後日には遠征に出ます。
今回は私も追いかけて出るので、戻るまで一月以上かかると思う…。」
今朝アルマスから聞いた遠征軍の話だ。
「西へ行く…という噂は聞きましたわ。あんなところにどうして行くんですの?」
リアンは恨めしそうな顔で見上げながら話す。
「大切なものを奪われたんです…許さない…。」
「あ、お姉さまは気にせず滞在してくださいね☆ 戻ってくる時まで居てくださったら泣いて喜びます。」
コロコロと表情を変える姫。
「じゃあさっそく、お姉さまをお部屋に案内して。
こちらの方は馬車を用意してお送りしておきますから。」
ブリジットは、それでいい?と目くばせする。
こくり、と頷く。
色々ありがとうね、と小さくブリジットに手を振る。
ブリジットがメイドと共に出て行き、私も退出しようと一礼。
「ちょっと待ちなさい。」
姫がクイッとあごを上げると、召使いたちはサッと部屋から出ていく。
えっ…なんだろう。
姫は奥のカーテンの中から、何かを持って出てくる。
鳥カゴのようだ。
「お前、これが見えるわね?」
『…!!』
鳥かごの中には淡い光を放つ、そう、小さな妖精プーがそこに居た。




