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53 ドータナの宿

ドータナの宿は、教会の関係者が経営していて王都の中でも高級な宿の部類だ。

そのお陰か泊まり客も上品な人がほとんどで、神官や巡礼者の服装をしている人も多い。


裏庭には高い壁で囲まれていて、馬車は2台まで停めれるようになっている。

2階は6部屋、3階は4部屋のゆったりとした間取り。

1階は右側に風呂場とトイレへ続く廊下があり、左側は食堂で丸テーブルと椅子が置かれ、左奥には階段と調理場がある。


そんなちょっといい宿屋の、少しゆっくりな朝。

3人が座る食堂の丸テーブルには豆のスープとパンと燻製肉が乗っており、おかわり自由だ。


「今日はちょっと二日酔いかもしれない…。」


アルマスは昨日のお酒がまだ響いているらしく、今朝は野菜ジュースにするそうだ。


「まったく…何をやってるんですの?昨日はひどい騒ぎを起こしたんですってね?」


昨日はあれから、宿にたどり着くとすぐ倒れ込むように寝てしまった。

ずっと精霊さんの魔法を解除してなかったのもあったけど、

色々話をして疲れたのもあると思う…。

もう二度と酔ったフリには騙されないようにするぞ、と少しむくれながら朝食を進める。


「えーっとそうそう、色々王都の現状を調べて回ったんだけど…

 ちょっとキナ臭いことになってるみたいだね。」


「キナ臭いって?」


アルマスは少し声をひそめる。


「かなりの数の兵士や傭兵が王都に集まってきている。

 どうやら近いうち、兵を出すみたいだね。」


「兵って…どこかと戦うの?」


「もしかして、また西に遠征軍を出すつもりですの?」


ブリジットの言葉にアルマスは頷く。



アルファルド大陸。

大陸南部、東西にかけて人間の住む【グレイディース王国】がある。

北部は亜人や獣人などが点在し、大陸の最西には凶暴な魔物が住むと言われている。

王国は西の大陸に領土を広げようと定期的に軍を派遣しているそうだが

思うように進んではいないらしい。


「忌まわしい魔術を使う魔術師や、魔物が沢山いるんでしょ?なんでそんな呪われた土地に…。」


ブリジットはこちらを見て、あっと慌てる。


「その…魔法じゃなくて魔術ね?死者を蘇らせたり、自然に反する忌まわしい死霊術よ。」

「そうなんだ…。」


精霊魔法以外に、魔術っていうのがこの世界にはあるのね。

死霊術ってゾンビ?ゾンビとか襲ってくるの?

怖いの嫌だなぁ。


「あそこは良い鉱山があるみたいだからずっと狙ってはいるみたいだけど

 今回は派兵規模が大きそうだね、何か他に理由があるのかも。」


「…まぁ国がやることですから、ワタクシ達には関係ありませんわ。」


ブリジットは朝食をすっかり食べ終わり、口をフキフキしている。


「昨日の話では、多分数日中にこの辺の傭兵も出兵する感じだったよ。」


「とにかくそういう手合いに絡まれないように気をつけるんだよ、ワカ。」


「アルマスもね?」


「…はい。」


私も全部食べ終わっていたけど、燻製肉をおかわりしようか悩んでいた。




---



「ワカ、ちょっと。」


朝食も終わり、アルマスに呼ばれて部屋に行く。

白いカーテンがなびき、初夏の爽やかな風が吹き込んでいる部屋。

同じ間取りなのに爽やかに感じるのは、薔薇の香りがほんのりしているせいだろうか。


ベッドに腰掛けたアルマスは、横をポンポンと叩いて招く。


「…。」


ちょっと緊張しながら隣に腰掛ける。

少し前までは、抱き合って寝たりも平気だったのになぁ。

アルマスはごく自然に頭を撫で撫でしはじめる。


「昨日は、あまりよく覚えてない事もあるんだけど…迷惑かけてごめんね?」


「う、うん。」


どこまで覚えてて、覚えてないんだろう…。


「今日はね、マクファーソンさんの紹介状を持って商会に挨拶に行こうと思ってるよ。」


「あ、お仕事が無いか紹介してもらってたよね。」


「そう、それが早く終われば、紹介してもらった不動産屋にも行っておこうと思ってる。」


「うん。」


「それから街を少し歩いて、住みやすそうな場所、商店街や公園や静かな場所も探しに行くかもしれない。」


「う、うん。」


「家具や、雑貨や食器類、揃えないといけないものを下見してくるかもしれない。」


「え、うん。」


「だから、これから僕は出かける事が多くなるけど、もしブリジットの迎えが早くに来たなら、

 ワカは一人で留守番をすることが多くなるかもしれないけど、大丈夫?」


「…。うん、大丈夫。」


これは、昨日のあれだよね。

しばらく見ないふりをして欲しい、って言葉は覚えててくれたってことだよね。


「色々ありがとう、アルマス。」


アルマスは、両手を取ってじっと見つめている。


「でもワカ…約束して欲しい。決して危ない真似はしないで欲しい。お願い。」


こくり、と頷く。


「うん、約束するよ。」


少し心配そうにアルマスは笑った。


「じゃあ…今日のキスをくれる?」


いやいやいや、そっちは約束してないから!

…なんやかんやツッコミを入れても、結局甘くなってしまう。


男前にはかなわないな、と思いつつ、

今、自分の顔もすごくニヤけてるんだろうな、きっと。



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