46 少女達の夜
「おはようワカ。バーウィンさんからの紹介状も届いたし、明日の朝にでも王都へ発とうと思うんだけど、どうかな?」
朝食をブリジットと部屋で終えた後、巫女塔を下りると
アルマスは教会の制服、紺色のローブ姿で待っていた。
「うん、わ…」
「待ち伏せなんて、失礼ですわ!変態ですわ!行きますわよ!!」
ブリジットはまくし立てて、腕を引っ張ると礼拝堂へ向かう。
アルマスは困り顔で、またねと手を振った。
「ブ、ブリジット…。」
霧がかった朝の礼拝堂は、今は誰もいない。
カツカツと足音を響かせて歩くと中央にある美しい彫刻、女神ディエバスが2人を迎える。
「綺麗だね、この女神の像。」
ブリジットは神妙な顔でこちらを見てから、ぎゅっと強く抱きしめる。
少し膨らんだ胸が当たる。
「…あの男と行くんですのね?」
「…嫌われて無かったみたいで…。」
「そんなの顔を見たらわかりますわ。」
きゅっと口を尖らせているであろう声。
よく日に干した服の匂いが心地良い。
「アル…アランとこれからどうなるかわからないけど、今は離れたくないってすごく思う。」
「そう…。」
ゆっくりと体を離すと、ブリジットは膝を折って真っ直ぐ顔を見つめる。
大きな栗色の瞳、まつ毛も長く、美しい。
「私達、もうお友達ですわね?」
ふふっと笑い合う。
「うん!」
それから、優しく見下ろしている女神ディエバスに
二人の永遠の友情を誓った。
それから残りの今日は、ステージを見に行ったり、菜園で花を摘むのを手伝ったり、礼拝堂で神官達と話をしたり、好きに過ごすことになった。
夕方の最後のステージでブリジットが急遽歌うと言い出したので、準備を少し手伝ってから会場の端に座って美しい歌を聞かせてもらった。
人員整理を手伝っていたアルマスが歌が始まるといつの間にか隣に来ていて、一緒に座ってお祈りをした。
チラッと目を開けて左に座るアルマスの様子を伺うと、目が合ってしまい、慌てて目をつぶる。
アルマスはもっとくっついてきて、右手をさり気なく腰に回す。
私は赤くなった顔を伏せると、そのまま動けず固まってしまった。
教会での最後の夜―。
アルマスは何をしてるかなぁ~なんて呆けていたら、ドアをノックする音が。
ブリジットかなとドアを開けると、そこには5人の美しい女性達が。
「ワカ様。今夜は私達ともお話いたしませんか?」
「ブリジットばかりずるいですわ。私達も色々お話聞きたい!」
この巫女塔に住んでる歌巫女達だ。
1階の部屋の見習い巫女の3人(1人は風邪で欠席)と、2階のレギュラー歌巫女2人。
みんな寝間着姿で、枕を持ってきてる人もいる。
わらわら入ってきておしゃべりを始め、おやつを持ち込み、誰かがこっそりワインも持ち込み、
最後の夜はみんなでパジャマパーティーのようになった。
「ななな何ですの!この有様は!?ワタクシの許可無く~!!」
最後に寝間着姿のブリジットが、一番騒がしく入ってきた。
プーの姿は早々に見えなくなっている。
日頃の仕事の愚痴や、イケメンの神官は誰だとか、同業者は嫌だとか、いい男を捕まえる方法はどうしたら良いかとか、ここではとても言えない話とかが続く。
「…それで、彼とはどこまで行きましたの?」
「あー、アラン様!あの方すごく素敵!」
「ダメよ、人のモノを羨ましがったりしちゃ。」
「どんな関係ですの!?だって年は随分離れていますわよね?」
「早く嫁ぎ先が決まった方が楽ですわよ。」
「私は絶対貴族が良いですわ!玉の輿ですわ!」
「私はまだそんなの考えられませんわ‥。」
一番年下のボブカットの栗毛の歌巫女は言う。
「いつか金の鳥に乗って王子様を迎えにいく、なんてまだ信じていませんわよね?」
王国には指輪の姫が金の鳥に乗って王子を迎えにいく、
という内容の有名な童話があるらしい。
「私はロナンのような逞しい体つきの方が良いですわ。」
ロングストレートの大人しそうな歌巫女は言う。
「えーっ!」「あんなジジイ、ダメですわ!」
一斉に反対の声が。
「体型ですわよ!!さすがに年齢が…。」
年頃の女性が集まると、こうなるよね~って話が夜遅くまで続いた。
アルマスとの事をかなり突っ込まれて、その、キスしたこととか、
その度キャーキャーと騒いでいると、メイドのロアさんにドアを激しく叩かれ解散となった。
・・・。
楽しかった。
この時代に生きている普通の女の子達。
明るくて、どこまでも前向きで。
沢山、沢山、元気をもらった。
月の精霊さんに、巫女達の喉の健康を願った。




