43 不安と溶解
地に足が着かないってこういうことを言うんだっけ。
心臓がずっと落ち着かなくて考えもまとまらなくて
不安と恐怖と後悔とかグルグルさっきから回ってる。
ブリジットは何かを察して心配していたけど、一人でアルマスと話そうと思う。
謝るしかない。
正直に謝って、…許してもらえなくてもそれは仕方ない。
はぁ。最高に憂鬱な気分だよ。
「ワカ、ごめん、待った?」
ドキッ。
心臓に悪い。
泣きそうになりながらも、アルマスに近寄る。
「寒くない?」
ふるふる。
あー、なんか緊張して声が出ない。
もしかして、手が震えてるかも。
「そう。ちょっと歩こうか。」
こくり。
月明かりは優しく菜園を照らしている。
「…手を繋いでもいい?」
こくり。
あ、でも手震えてないかな。
「手、冷たいよ?」
こくり。
はぁ。心臓がドキドキしてだめだ。
あ、でも、何で手を繋ぎたいんだろう?
「…。昨日の、どういう意味かなって思って。」
?
昨日、昨日、何て言ったっけ、あの時。
あれ?魔法をかけて…逃げ出したんだよね。
アルマスは手をぎゅっと強く握る。
「…いや、そうじゃなくて…つまり…。
昨日俺の気持ちは伝えたと思うんだけど。」
え?
「えっと…?気持ち…?昨日…何だっけ?」
アルマスの顔が真っ青になる。
「えっ…?えっ…まさか。」
何が言いたいんだろう?
「まさか、遠回しに言い過ぎて通じてなかっ…た…?」
「えっと、ごめん、…何のこと言ってる?」
「…。」
「…。」
アルマスが、男前のアルマスが、
あんな顔をしたのを初めて見てしまった。
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5分…10分くらいだったかもしれない。
アルマスは眉間を押さえてしばらく上を向いて唸っていた。
自分としては、謝りに来たつもりだったんだけど…。
そういえば今日一日、アルマスを見ていたけど特に変わった様子は無い感じだったな。
あの盗賊の人みたいに、変な感じは無かったし、王都で働きたいとも話をしていたし。
「あの、アルマス?変なこと聞いてもいい?」
「あ、うん、どうぞ?」
「昨日のあの夜までと今日とで、何か変わったことはない?気持ちとかで。」
「気持ちって?」
うーん、どう言ったらうまく伝わるのかな。
うん、もう正直に聞いてみよう。
「私のことは今も…好きとか思ってる?」
「もちろん。」
アルマスは当然だといった風に答える。
…。あれ?
「何で?」
「何でって何で!?」
「気のせいじゃなくて?」
「ワカ、何でそんな事…」
アルマスは手を引き寄せて私を抱きしめる。
お風呂上がりの香りがふわっと漂う。
すぐ心臓がドキドキ跳ね上がる。
頭が真っ白になる前に、謝らないと頭が回らなくなる!
「惚れ薬を飲ませました!ごめんなさいっ!!」
「えっ?」
謝れた?
今、謝ったよね?
昨日ブリジットに話した感じで説明したらいいはず。
「最初に会った時、気絶してる間に、妖精の惚れ薬を飲ませて、あっ、でも、昨日魔法で解毒したから、だからアルマスはもう私のこと嫌いなはずで…。」
ああ、自分がバカだってわかる。
全然説明が、順序が、ろれつが回ってない。
「ごめん、だから…。」
「好きだよ。」
えっ。
アルマスの顔が近い。
「通じて無かったみたいだから、ちゃんと言うね。」
えっ…と…。
何で?とか、他に色々考えることはあるはず…なのに、
心臓がバクバク鳴って頭が回らない。
アルマスは少し周りを見渡し、
傍に咲いていたピレスラムの花を1本手折った。
優しい、いつもの溶けるような笑顔。
そして片膝をついて、花を差し出す。
「俺と結婚してください。」
そのまま、おでこをコツンとくっつける。
「ねぇ、ワカ。惚れ薬を飲ませたって事は、君を好きでいていいってコトだよね?」
甘い声。
もうだめ。泣く。
「ワカ…好きだよ。」
頭を撫でる大きな手。
「私も…好き…。」
やっと押し出した声は情けなく震えていて
それから、アルマスと長い、長いキスをした。




