42 薔薇の歌声
マクファーソン家のお茶会。
大貴族の一つであるマクファーソン家は、教会都市の中で一番大きな敷地にお屋敷をかまえている。
教会へは昔から多大な資金を援助しており、国一番の信仰心を持つ一族ということで有名だ。
マクファーソン家は、家長であるドナルド・マクファーソンとその妻エンナ・マクファーソン。
長男は、クレイグ・マクファーソンとその妻サーシャ婦人。
次男はブライス・マクファーソン独身、その下に長女のジェニファー・マクファーソン。
お茶会を開いてくれた老夫婦は
バーウィン・マクファーソンとスローニャ婦人だ。
高い壁に囲われた敷地内。
教会のホールよりも大きな建物に、正面には馬車のロータリーのような道がある左右対称の中庭。
左右のバラ園や、植物園のような庭には円形の椅子とテーブルが置いてあり、北側にもプライベートの庭があるそうだ。
その左側の薔薇の庭で小さなお茶会が開かれていた。
「今日がいい天気でよかったわ。」
白い楕円形のテーブルに、いい香りの紅茶。工夫をこらしたお茶菓子達が並ぶ。
メイドと執事はテキパキとしているけど所作が優雅な雰囲気。
ロナンは体が大きいので、少し狭そうに椅子に座っている。
私も一番端に座る。
出迎えてくれたスローニャ婦人は、体型に合ったゆったりとした藤色のドレスを着てくつろいでいる。少し遅れて、バーウィン氏が屋敷から下りてくる。
「また会えて嬉しいよ、勇敢な騎士殿。それに今日はブリジットまで!」
バーウィンは、シャツに紺色のベストのゆったりしたズボン姿だ。
「お招きありがとうございます。バーウィン・マクファーソン様、スローニャ・マクファーソン様」
ブリジットは立ち上がり、優雅に【よそゆき】の完璧な挨拶をする。
婦人はお土産の授与品を、一つ一つ取り出しては喜んでくれた。
「ロナンも、たまには連絡しろと言ってるのに。」
「ははっ、どうも立派なお屋敷は昔のクセで落ち着かんでのぅ。」
チラッと執事とメイドを見る。
2人の姿勢がビシッと正しくなった気がする。
ロナンとバーウィンは、執事の仕事を通じて貴族同士の付き合いで知り合ったらしい。
ロナンさんの方が年上なんだそうだ。
「で、君の親戚のアラン君ーだったかな。偶然ってあるもんだねぇ。」
「本当に。ロナン叔父さんが教会で働いているのは知っていたのですが、たまたま出会ったお二方がお知り合いとは。」
アルマスが盗賊相手に勇敢に戦った話、その盗賊が教会に現れた一連の事件、
そしてアルマスとロナンが見つけ出して解決した話を、バーウィンは目を輝かせて聞いていた。
バーウィンのワシがもっと若かったら参戦したかったとか、スローニャ婦人のいかに自分が信心深いかなどの話をひとしきり聞いた後、ブリジットが中庭の薔薇をバックに一曲、神へ捧げる歌を披露することになった。
「では、僭越ながら…コホン。」
~♪
~♪♪
歌うブリジットはとても神々しい姿で、声量は魂まで響かせるように大きく届く。
高く、低くうねる歌のリズムは、神への祈りを歌に乗せるように
ゆっくりゆっくりと手を掲げ、そして余韻をもって歌い終わる。
パチパチパチ…
スローニャ婦人は感激してありがとうと泣いている。
ブリジットはサービスし過ぎたかなとテヘヘと笑ってる。
そんな優雅な午後のお茶会は終わろうとしていた。
「ところでアラン君、これから王都で働くんだって?」
「はい、王都に移り住む予定なんですが、教会関係で仕事のツテをもらえないか聞いている所です。」
バーウィンはふむむ‥とあごを触る。
「王家おかかえ商人に知り合いがいるんだが、何か仕事が無いか手紙を書いてあげよう。
私の紹介だから悪いようにはしないと思うんだが、どうだね?興味はあるかね?」
アルマスは、即答する。
「はい、是非お願いします!感謝します。」
「そうか、あとで手紙は届けさせよう。今日は楽しい日だった。」
馬車に乗って帰る道中。
アルマスは窓の外を見て黙っている。
今日は一言も話をしていないな。
薬の効果は、もう切れてるはずだよね。
アルマスはまだ、王都に行くつもりなの…?
私と一緒に暮らすって言ったの、あれはまだ…。
「ワカ、今日の夜、昨日の菜園で待ってる。」
馬車を下りた時、アルマスはそっと私に告げた。




