38 菜園の魔法
「ちょっと風に当たってくるから、ゆっくりしてて。」
食事を終えた後もデザート皿や紅茶が何故か出てきて、テーブルはまだまだ充実している。
「えっ、ワタクシも…」
「紅茶出てきたとこだし、すぐそこのお花見てくるだけだから。」
遠くにアルマスとロナンさんが5、6人仲間で喋っているのが見える。
プーをつかまえて、そっと食堂を出ると暗い菜園へと入る。
「プー、いいよね?」
『お前ひとりで、おつかいが出来るとは思えないけど?』
「この世界にもだいぶ慣れたし、魔法ももっと上手く使えるようにがんばるし、アルマスをこれ以上危ないことに巻き込めないよ。」
『また他のやつに協力してもらうんならいいけど…』
「ダメだよ、出来るだけ惚れ薬は使わないようにしよ。心を苦しめる、悪いことだよ。」
『別にいいじゃん、人間なんか‥。』
「私だって人間だよ!人間も妖精も関係ないよ。プーだって心を変えられたら一番嫌でしょ?」
『そりゃそうだけど…』
『お前だけで無理と思ったら、その時はこっちはこっちで行動するからな。』
暗い畑の中で話し合う。
一応納得してもらえたみたいだ。
よし、じゃあどうやってアルマスを呼ぼ‥
「ワカ?」
また、心臓が跳ねる。
食堂の明かりに逆光で照らされている長身の男性。
「あ、アルマス、…食事は?」
影が近づくと、はっきり笑顔が見えてくる。
いつもの精悍な凛々しくって優しい顔。
「うん、ワカが出て行くのが見えたから…。」
「そ、そう。」
なんだか目を合わせることが出来なくて横を向く。
照れてないで落ち着かないと。
アルマスが片膝をついて顔を近づけてくる。
ちょっ、一旦離れさせて。
と数歩下がる。
また頭が真っ白になって何も出来なくなってしまうから。
「…ワカ。」
アルマスは、寂しそうな顔になる。
ああ、嫌だから離れたんじゃないんだよ、ごめんね。
「…。」
気まずい。
どうやって魔法をかけたらいいかな。
耳をふさいでもらえたらいいんだけど…。
「…ワカ。」
「…。」
「…俺は、」
「自分の全てを捧げたら、君が選んでくれるんじゃないかと思ってた。」
え?
「でも、それでも足りないなら、俺は、どうしたらいい?」
アルマスはとても悲しそうな笑顔で、胸に手を当てる。
「どうしたら君は、俺を選んでくれる?」
アルマス、
ごめん。
ぼろぼろっと涙が出てきた。
嘘の気持ちで苦しめてしまった。
辛い思いをさせてしまった。
危ない目に沢山合わせてしまった。
本当に悪いことをしてしまった。
こんなに大好きな人に。
近寄って、アルマスを抱きしめる。
力強く抱きしめ返してくれる。
大好き、大好きだよ。
それで、腕を回して思いっきり力を込めて両腕で耳を塞ぐ。
「植物の精霊さん、アルマスが飲んだ妖精の薬を、体から解毒して欲しい。」
アメーバ状の小さな光が暗闇でキラキラと光り、
アルマスの体を次々這い上がってくる。
「‥ん?ワカ、今何て?」
ゆっくりと離れる。
1歩、2歩。
ボロボロの顔をごしごしこすって少し落ち着く。
「今まで本当にありがとう。」
「今までごめんね。」
精霊が体に入っていくからか、アルマスは薄ぼんやりと光っているように見える。
うん、よかった。
これでよかった。
じゃあ、といって走り出す。
巫女塔は男子禁制だから追いかけてこれないはず。
精霊さんがすっかり解毒してくれた頃に、また会おうね。
走りながら、またボロボロ涙が出てきた。
アルマスのこと、こんなに好きだったんだなぁ。




