37 教会晩景
礼拝堂に隣接している巫女塔は、常時7人の巫女が待機していて、3階がブリジット専用階、2階はレギュラー歌巫女の2人、1階は見習い巫女の4人が暮らしている。
地下には巫女専用のメイドさん2人の部屋と衣裳部屋がある。
祈りのステージは日に5回あり、その日メインの歌巫女が3回歌い、その間2回を見習い歌巫女が交代で歌うスケジュール。日曜のステージはお休みだ。
巫女以外の女性スタッフのほとんどは
敷地内の孤児院で赤ちゃんの世話を交代でしていて、孤児院の2階で寝泊まりをしている。
ホール、礼拝堂を挟んだ反対側には男性寮と客人用の宿泊施設、事務所や警備兵の詰め所の建物が壁に沿って並ぶ。
アルマスは客人用の見栄えの良い建物で寝泊まりしているそうだ。
日に2回の食事は、孤児院を抜けた菜園の隣に大食堂があり、キッチンは火災予防の為通路を挟んだ別棟だ。
4、50人は入れるようテーブルと椅子が並んでおり、広い窓がついている開放的な食堂からは菜園を囲むように植えられた花壇が見えて、窓の前には段差があるだけのステージもあり、歌巫女の練習場所にもなっているようだ。
17時になるとキッチンから料理が数台台車で運ばれて来て、調理場で器に盛られ、よそわれ、トレイに乗せられ、それが複数台のワゴンに乗せられ、正面の長いテーブルに次々並べられる。
着いた順にトレイに乗った食事を取って、好きな席に座り、各自祈りを捧げてから食べる。
ほとんどの従業員はこのスタイルで食事を取っているそうだ。
客人や巫女、お年を召された神官数人は食堂へ行かずにメイドさんが部屋まで運んでくれるけど、案内がてら今回は、食堂で夕食を食べることにした。
「ふふ、食堂で食べるなんていつぶりかしら?格が上がると中々来れないのよ。」
格ねぇと、ブリジットが歩く度に揺れる金髪くるくるカールを見ながら歩く。
食堂はすでに20人ほど席に座っていた。ブリジットはやはり目立つのかそれなりに注目されている。
トレイを取る時、食堂のおばちゃんが出てきて、盛り付けが綺麗なものを手渡ししてくれた。
「ここから見える夕日が好きだったわ。」
窓の近くの席を取り、夕空と中庭を見ながら食事をする。
中庭の菜園には見知った光り方をしているのがいるけど、よっぽどそこが気に入ったんだな。
食事の前のお祈りは、手を組んで軽く祈った仕草をしたくらいだった。
「お腹すいてる時は簡易的でいいのよ。こちとら仕事で十分祈ってるんだから。」
こちとら。
「…ブリジットは、どうして歌巫女をやっているの?」
今日の食事のメニューは、塩漬け肉のシチューと豆のスープ、麦粥だ。
「ああ、そうね、巫女は全部拾われっ子でね。教会には赤ちゃんの捨て子が多いから。」
ビデリアも言ってたけど、教会に孤児院があるくらいだしそういう風習なんだなぁ。
「ただ、私は特別でね。予言があったらしいのよ。その時、その特別な時間に拾われたってだけで特別扱いなの。神の生まれ変わりってね。その時点で巫女に決定したってワケ。」
「えっ!?」
思わずハッと口を抑える。
この世界にはそういうのあるの?生まれ変わりとか…?
「…そ、そうなの?ブリジット?」
ブリジットは塩漬け肉が噛み切れなくて忌々(いまいま)しそうな顔をしている。
「ぁ?そんなの知るわけないわよ。迷信よ。特別な力なんて何も無いわ。」
スプーンを置くと、はぁっとため息をつく。
薄暗くなってきた中庭を見つめる。
「魔法のひとつも使えたらいいなって思うわよ、そりゃ。期待に応えたいけど…。
出来ることは必死で歌の練習をすることくらい。もうすぐ15だからそれまでに…」
「15?」
ブリジットは慌ててカチャカチャ豆のスープをすくう。
「何でもないわ、、。あら?あちらアナタの騎士じゃなくて?」
振り向くと、後ろの入り口からアルマスとロナンが入ってくるのが見えた。
「…!」
思わず前を向く。
どうしよう。
いや、どうもしないけど、なんかドキドキする、どうしよう。
えっと、昨日の夜ぶりだよね。
あの…キスしたぶりだよね。
なんか照れるけど。どんな顔したらいいだろ。
いや、普通でいいでしょ。
え、元気だった?とか?
えっと何て言えばいいの??
…顔赤くなってないよね?
あれ?プー、いつの間に戻ってきたの?
見上げてニヤニヤしてるけど、殴るよ?
あ、だめだ、なんか頭混乱して…
「ワカ!」
「ひゃいぃっ!!!」
ビクッと手が当たって豆のスープ皿がこぼれ
それに驚いてスプーンがカラーンと落ちる。
「あぁ…」
「ああっ、驚かせてごめん!」
アルマスがハンカチを出して手や服をフキフキ拭いてくれる。
両腕をグーにして曲げたまま体も思考も固まってしまう。
何でこんなに緊張しちゃうんだろう??
すると目があったブリジットが軽くウィンクする。
「…アラン様、失礼ですわよ。レディに後ろから声をかけるなんて。」
【アラン】はロナンが考えたアルマスの偽名だ。
元領主だったのもあって一応名前は伏せていて、ロナンの親戚ということになっている。
「あとは、世話役であるワタクシにおまかせくださる?」
チラッと周囲を見回すと、数人の男性が察したように駆け出し
おしぼりと替えのスプーンを持ってきてくれた。
男性はデレッと照れた顔をするが、
ブリジットがアゴをクイッと上げると真顔になり、そそくさと自分の席へと戻る。
「ここでの滞在中は、すべて教会が責任を持ってもてなします。」
ブリジットは美しく礼をすると、アルマスを押しやり
ワカにおしぼりを渡すと、アゴを上げて睨む。
「いや、、でも…。」
「しばらくは教会の顔を立ててやってくださいますか…。すみませんです…。」
悲しそうな顔をするアルマスをロナンはなだめる。
「ワカ、ゆっくり休めてる?問題は無い?」
こくり。
おしぼりをぎゅっと握って目を合わさずに頷く。
「そう。早く元気になってね…。僕は滞在中、ほんの数日だと思うけど、その間はロナンに教会の仕事を手伝わせてもらうことにしたよ。」
こくり。
そうなんだ…。
「王都で教会関係の仕事を紹介してもらえるかもしれないから、コネを作っとこうと思って。」
こくり。
ああ、自分が泣きべそしてる間にアルマスはしっかりしてるな…。
そっと、アルマスは頭を撫でる。
「怖かったね。僕が一生、君を守るからね。」
ドキッ
また体が硬直してしまった。
ブリジットに助けてもらおうとそちらを見ると、ブリジットの顔も赤い。
多分自分の顔はもっと赤いから顔を上げれなくなった。
「坊っちゃん…ゴホン。」
「あ、ああロナン、行こうか。また会いに行くね、ワカ。」
こくり。
アルマスの気配が遠のく。
ふぅっとブリジットのため息が聞こえ、席に座るのがわかった。
自分も顔を伏せたまま席に座りなおす。
「まったく…。あのロリコンは何ですの?恥ずかしいセリフをしゃあしゃあと。」
ロリコン。
「アナタは滞在中にああいうのの、あしらい方を覚えないといけませんわね?」
「いや、アル‥アランはいい人なの。素晴らしい人で、何も悪くないから…。」
何一つ悪いところが無い、完璧な人に思える。
優しいし、しっかりしてるし、ハンサムだし、いい匂いするし…。
プーと目が合う。なんだよ?って顔をしてる。
はぁ…とため息が出る。
ブリジットは手の甲に顎を乗せ、前のめりにこちらを見ている。
「ウフフ。今日の夜は長くなりそうね?」
「えっ‥何…?」
「何でも聞くわよ♡」
ブリジットの瞳はイキイキとしている。
なんか、余計不安になってくるんですけど…。




