35 礼拝堂の塔にて
セリドウェン大教会は長方形の大きな敷地内に建っており
街の中央の広場から高い壁に囲まれた門をくぐり、整備された石畳を少し歩く。
入り口には女性や植物の彫刻をほどこしたアーチの門が迎えてくれて、街で一番背の高い屋根の中へと入る。
そこを進むと屋根は円形の形をしている大きなホールがあり、日中3回の祈りの時間はこの季節ならほぼ満員だ。
ホールで祈りを終えると、ほとんどはその先の礼拝堂へ行き、孤児たちへの寄付を入れる箱へ寄付を入れ、礼拝堂の中央にある美しい彫刻、女神ディエバスへ挨拶をして礼拝を終える。
その他は礼拝堂の椅子でくつろいだり、神父に話を聞いてもらったりと様々で
出口近くにある授与所では、女神が持っているとされるピレスラムの花で作った栞や、花の粉が入ったお守り、木彫りのありがたい像や、木のブローチ、教会の菜園で取れた作物や花、椅子でくつろぎながら飲める祈祷済みの水なんかも売っていて、充実していた。
さてその大きな建物の両脇には、従業員や神父の家、特に小さな孤児のための施設が併設されていて、礼拝堂に隣接されている塔のような細い建物の3階は全て、巫女ブリジットの専有フロアになっていた。
「おはよう。昨日は災難だったわね。」
ふかふかのベッド。絹のすべすべのシーツ。
両手を広げても届かない大きいベッド。
端っこに、薄い黄色のワンピースを着た少女が本を読んでいる。
「えーと?」
「私はブリジット。馬車で助けてあげたの、覚えてない?」
ついっとアゴをあげて、金髪カールの少女が横目でこちらを見る。
「あの、鳥になりたいって言ってた…?」
「そ、そ、それは覚えてなくていいのよ!」
ブリジットはこちらに向きなおる。
神々しく歌っていた面影は無い。
「あなた、ロナンのジジイの知り合いなんですってね。」
じじい。
「フン。教会で災難にあったってことで、私が直々に世話を焼いてあげるのよ。そこだけは幸運ね。」
そういえばアルマスは…?プーもいないみたい…。
「この塔は男子禁制だから入れないわ。アナタも数日はゆっくり過ごしていってね。建前上。」
建前上。
「最上級に持てなしてあげるってこと。教会としてもプライドがあるのよ。」
プライド?ふぅむ。
「とりあえず、アルマスに会いたいんだけど…。」
「アナタ聞いてた?ここは男子禁制なの。あの男からアナタを引っぺがすの大変だったのよ。」
あれから気を失ってここに運ばれて、数人がかりで介抱してもらったみたいだ。
髪の毛についていた血を取るのが大変だったとか、怪我が無いか丁寧に調べたとか、そんなことを色々言われたあとブリジットは一息つく。
「アナタ…不思議な力が使えるのね?」
えっ。
栗色の瞳が目前に近づいてきた。
「神の力なの?盗賊が騒いでたらしいじゃない?アナタ【そう】なの?」
「…そうっ…て…?」
じぃーーっと見つめられる。
精霊魔法のことって、人に知られたらまずいんだろうか?
おなかがくぅ~~っと鳴る。
あああ、昨日から食べてないんだった。
「ぷっ。」
クスクスっと笑われる。
「まぁいいわ。ゆっくり、ね?」
何だろう。結構嫌な予感がする。
少女がクルッとまわると、スカートがふわっと柔らかく広がった。
ピレスラムはなんとなくです。
この時代なら貴重かなと。




