34 月夜の廃屋
月光に照らされた窓枠に、ブローチが置かれているのを気付いた時
窓から、優しいあの人の顔が見えた。
静かに横の本棚を足場にして窓枠に近づくと
その手は包むように私を受け止めて、外へと引きずり出す。
残していく闇の煙の中では、うめき声を上げることが出来ず
去っていくモノを見ることも敵わない。
そしてソレを振り向くことも無かった。
「…アルマス!」
「ワカ…ごめん、怖かったね。ごめんね‥。」
朽ちた小屋の前で抱きしめ合う。
月光が優しくふたりを包む。
「ロナンに応援を頼んでる。すぐに来るから。」
よかった。
こうしてるとすごく、安心する。
力が抜けていくのがわかる。
肌が熱い。
汗のニオイ、さっきの人と全然違ういい匂い。
アルマスが肩を、背中を、頭を撫でてくれる。
ピタッ、と手が頭で止まった。
「血…」
手のひらについた血を見て、アルマスの顔が変わる。
「…。」
あれ、いつの間に怪我なんかしたっけ?
「ダメだ。こんなの許せない…。」
アルマスは剣をスラッと抜いて立ち上がる。
「アルマス‥?」
どこ行くの?小屋の方を向いて
「待って!」
「君を傷つけた代償を払わせる。」
まさか、馬番のロイドさん、
あの人と同じように、その剣でってこと?
「アルマス!」
嫌だよ、お願い。
「お願いアルマス、行かないで!」
怖いよ、そんな顔しないで。
「アルマス、お願い、怖いよ…。」
ボロボロ涙が出てきた。
何の力も無い、彼を止めることも出来ない、
無力だ。
「そばにいて…。っうぅぅ…。」
「ワカ。」
顔を上げると、アルマスの顔が。
「ここにいるよ。」
カラン、と剣を置く小さな音。
大きな両腕に包まれる。
そしてゆっくりとアルマスは
涙がこぼれる瞳に、頬に、唇にキスをした。
抱きしめられながら、最後の気力が消えていくのを感じた。




