29 それぞれの夜
「ジェト兄ィ、ちょっとあれからおかしいよォ。」
「うるせぇ、絶対に手に入れてみせる!!」
4つの影。
路地裏にシミターの刃が反射し闇を裂く。
「タビア、デン、ファンテ、命がけで探すんだ!あの2人組のガキの方を連れてこい!」
「こいつがこうなっちまったらお手上げだ、付き合うしかねぇぜ。」
「っていっても教会都市は広いぜ?」
「1人は安い宿から順に宿を当たっていけ。1人は教会の入口で巡礼者を見張るんだ。もう1人は馬車乗り場と出口の門を見張れ。それらしい奴がいたら居場所をつけるんだ。」
「兄貴は?」
「マクファーソン家に探りを入れてくる。あいつらと関係あるかどうか。」
「マクファーソンって、大貴族じゃないか!!一人でなんて危ないよ兄貴!」
「うるせぇ!ガキがいなかったらすぐ戻ってくる。教会前で落ち合うぞ。」
「兄」
「うるせぇ!!!」
「鼻血出てるよ兄ィ…」
「うえっ。」
ある夜、路地裏での出来事。
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「盗賊に出会うとは災難でしたね、坊っちゃん…」
ロナンさんは一人暮らし。毎日教会へ働きに出ている。
この2階建ての家は借家らしい。
小さなキッチンに大きい木のテーブルがあるリビング、2階は寝室と荷物部屋。
あまり物は多くなく、慎ましく暮らしているようだった。
マッチョで短髪の白髪、よく日に焼けていてシワは深く、歯は白く、笑顔は明るく、まだ寒い日もあるのにタンクトップを着て、サンダル履きにズボン。
突然の訪問にも快く迎え入れてくれて、アルマスの頬の手当をし、
美味しい料理も素晴らしい要領で手早く作ってくれた。
「このスープ美味しい!」
「ロナンは本当に最高の、スーパー執事だったから。」
ロナンはうやうやしく一礼をする。
今夜のメニューは野菜スープに猪鍋と鶏の照り焼き、高級そうなワインと林檎のソーダを出してくれた。家事一般は勿論、馬術や剣術も長けていて、屋敷周辺に出た魔物も退治したことがあるらしい。
「それで、このお嬢様は?」
「ああ、僕の婚約者だ。」
ええっ!
「…ああ、えーと、違った?」
アルマスがちょっと寂しそうに笑う。
「えーと、まだ、違うけど…。」
いや、恥ずかしいし、ワタシまだまだ子供だし。幼児だし。
「あはは、『まだ』だった。僕がプロポーズしてるワカだよ。」
アルマスはまた優しく笑う。
「そうですか、アタックの最中でしたか。」
「大人になるまでに、なんとか好きになってもらうよ。」
男前にこんなこと言わせてしまって、申し訳ない気持ちになるのは何故だろう。
惚れ薬が切れたら、態度が豹変してしまったらどうしようか。
考えたって仕方ないけど、すごく心がソワソワする。
「ワカお嬢様、よくこの爺やの所へ来てくださいました。ゆっくりしていってくださいね。」
「…あの、お世話になるます。」
あ、噛んだ。恥ずかしい…。
ロナンさんは外見から想像出来ない程とても丁寧に接してくれる。
アルマスは全面的に信頼を置いているらしく
食事をしながら今までのこと、お母さんのことなどをすべて、ゆっくり話を進めた。
途中、ロナンさんの顔つきが物凄く怖くなって拳を握りしめたり(筋肉が浮き出たり)、
悲しそうに顔をぐしゃっと歪めたり、最後はポロポロと泣き出してしまった。
「なんという…ことですか…だからあの美しい髪を切られたと…?ふぐぅぅ…!」
「だからね、僕がここに来たことは誰にも言わないで欲しい。生きてるってことも。」
「爺としては、いつでも乗り込む準備はできますが…坊ちゃまがそう言われるなら…。」
ロウソクの灯りでゆらゆらと、ロナンさんの深い皺がゆれていた。
アルマスはいつもと同じ、静かな笑顔をしていた。
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経緯を話し終えた後も、2人はもう少し飲み合うそうで、夜も更けてきたので先に部屋に上がらせてもらう。
上の階の小さな荷物部屋に簡易ベッドを置いてもらって、個室にしてもらった。
今日は色々あったな。ゆっくり寝れそうだ。
『あの人間おもしろいなー。顔がコロコロ変わって!』
プー、面白がっちゃだめだよ。
きっとアルマスのことすごく大事なんだよ。
だからあんなに、怒ったり、泣いたり、自分のことのようにしてくれてるんだよ。
私はアルマスに良くしてもらってるけど、いつもニコニコしていて、助けてくれて優しくて、剣も強くて、紳士で、他に何を知ってるんだろうか。
もし、惚れ薬が切れて離れることになったとして、このままサヨナラでいいんだろうか。
たとえ嫌われて別れることになったとしても、その前にやることがあるんじゃないか。
夢の中のように他人事のようにフワフワやってたけど、何か恩返ししなきゃいけないんじゃないのか。
ああ、今更こんなこと思ってるなんて本当にバカだ。
「ああ、ホント自分がバカと思う…。」
思わずつぶやくと
『お前なー。落ち込むとかホントな。』
・・・。
『そんな暇があるなら魔法の練習でもして、イザって時に活躍したらいいじゃん。』
・・・プー、あんたって。
「たまには良いこと言うんだ。」
それからプーと、精霊魔法の練習を少しやった。
疲れていたのであまり出来なかったけど
月の精霊を呼んで、アルマスの怪我を治して欲しいことと、ロナンさんの健康を願った。
出来る限り、毎日何か精霊にお願いしよう。
アルマスへの感謝を祈ろう。
せめて私に出来ること、まずひとつ。
月光は優しく窓辺へ降り注ぎ、夜の闇を少し和らげた。
次、30回で一回、登場人物の整理します。




