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26 小さな約束

「さ、準備はできたかい?」


昨日はビデリアと一緒の部屋で寝たし

その前は先に寝てしまって、アルマスは片付けを最後まで手伝っていたから

ここの所こういうの、なかったんだけど。


「酔い止め飲んだし、予備の薬も買ったし、お弁当も水筒ももらったし、ケープも羽織ったし、御髪おぐしもサラサラだし、いつもかわいいし。大丈夫だね!」


うん?…うん、大丈夫。


こっそりプーに呼びかける。

「プー、アルマスはこれ、惚れ薬が効いててこうなんだよね…?」


『えっ?いや…えーと、そりゃそうだろ?…多分。』


ちょっと今晩アルマスが寝てから、惚れ薬の信憑性について会議しよね。


ビデリアは、見送りは宿の前まででいいからと断って

2人で街外れの停留所に着くと、馬車―高級そうな造りの―は準備が出来ていて、

執事みたいな御者さんの案内は丁寧で、4人乗りの馬車は昼ぴったりに出発した。



---



今回の馬車は揺れも少なく快適だ。

街道も大きくて舗装されてる道だし、天気で風は爽やか。旅にはいい時期だ。


アルマスと向かい合って座り、通路を挟んで向こう側にはもう2人座っている。

品のある年配の老夫婦で、教会には毎年巡礼に行っているそうだ。

しばらく走ると景色を眺めてあまり喋ったりしない雰囲気になった。

こちらもつられて無言になる。と、眠くなる。


「今日朝早かったんだよね、起こしてあげるから寝てていいよ。」


アルマスは眠そうにするとすぐ声をかけてくれる。

子供の身体のせいにしたらダメだろうけど、眠気がものすごく強く感じる。

歩いてても眠くなったらその場で倒れて寝たいくらい眠気が強い。


タオルをかけてもらってうとうとしながら、

さっきのビデリアの言葉を思い出す。



燃えるような髪、ギラッと光る瞳、少し焼けた肌。

朝日に照らされたビデリアは、力強く美しい。


「ワカ、アンタは大人みたいな顔することがあるけどまだまだ子供だ。だから言っとく。

 いい大人ばっかりじゃねぇんだ、この世の中は。覚えておきなよ。」


「え…うん。」


「ただの、身の上話さ。」


この国の孤児はまず、最初に教会へ引き取られるのが決まりだ。

そして洗礼を受け、教会の孤児院で教育を受けながら引き取り先を探す。


引き取り先が見つからなくても、各地の教会でシスターや孤児院の働き手として派遣され、あるいは王国の下働きなんかで将来は補償される。

孤児だからといって蔑まれたりすることも無く、逆にしっかり教育されているからと子供の引き取り希望は多い。なによりそれが善行とされているのだ。


それがわかっているから、いい就職先として教会に子供を捨てに来る人もいる。

ただし、捨てる行為は良くない事なので、夜中にこっそり捨てるんだそうだ。


ビデリアもそうなるはずだった。


「14年前、子供が欲しくて親父のやつ、教会の子供を勝手に盗んで来たんだ。それがアタイ。」


教会から子供を譲り受ける時には、ある程度収入などの審査がある。

特に赤子は神様の加護が強いとされ滅多なことでは譲ってもらえない。

低い子供の生存率を上げるためでもあるんだそうだ。


結婚して数年、子宝に恵まれずにネッサはずっと落ち込んでいた。

父ニールは、妻を思って子供を拾いに行く。


「そういう子供を取るのって、重い罪でさぁ。捕まっちまって。」


「お父さんは大丈夫だったの?」


「その時、恩赦があってなー。ブロドウェン教の大きなお祭りが。」


20年に一度、国家宗教上の大きな式典があって、大きな儀式が執り行われたらしい。

その時期にたまたま重なって、早くに牢から出ることを許されたそうだ。


「ただ、その時の怪我で足を悪くしちまってな。体も弱っちまって、死ぬまでずっと荒れてたな、アイツ。」


家の中なら子供殴ったって誰も気付かねぇしな。

とビデリアはつぶやいた。


「アタイ、大教会の聖堂前に捨てられてたんだって。ホントだったら読み書きも出来て、ちゃんとしたトコで働いてたのかもしれねぇなぁ。」


ははっ、と乾いた笑いが出る。


「…ネッサの事は大好きだよ。ここまで育ててくれて感謝してる。賠償金も全部あの人が払いきったんだ。こんなバカに育って生みの親には申し訳ねぇけど、教会の人から何度も誘われても、自分がここでネッサを助けるって決めたんだ。」


「でもアイツ、親父のことは…。色んな気持ちごちゃごちゃしてたけど。」


ビデリアは頭をぐしゃぐしゃかき乱す。


「好きになりたかった。けどなれなかった。それ以上でも以下でもない、それだけ。」


「汚かったり、騙したり、殴ったり、そんな悪い奴がこの世にいっぱいいて、死ぬまで信じてたけどいい人に変わったりしなかったし、…だから自分の身は自分で守んなきゃいけないんだ。

 なんだ…その、全然うまく言えないけど、親切な大人ばっかりじゃないって事!」


頭をぽんと撫でられ、うんうん、とビデリアは頷く。

言葉にならないけど、何かが伝わった。


「そうだ、アタイが一人立ちして店を構えたら働きにこいよ!目印は店の名前だ!!」



2人の少女は、またいつかの小さな約束をして別れた。


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