24 宿屋の朝
「昨日はすまねぇな、子供を夜遅くまで働かせちまって。
…お客も多かったし、助かったよ。」
少し寝過ごしたお昼頃。
ボサボサ頭のビデリアは、調理場でイモの皮剥きをしていた。
ネッサさんは教会の礼拝に出かけて、アルマスは馬車の予約を取りに行ったらしい。
プーも、、近くにはいないみたいだ。
「そうだ、湯桶に風呂作ってやるよ。入っていきな。」
この国は夜にゆっくりお風呂に入る習慣は無く、
身支度の為に朝方、湯桶で湯を浴びるのが慣例のようだ。
大きなお風呂も存在はしているけど、それは貴族や大商人の道楽のようだった。
タライにお湯を張ってもらい、食堂の横にある専用の仕切りがある部屋に運んでもらう。
ばさばさーっと布タオルを渡され、好きに使いな、といって部屋を出ていく。
石鹸とかは…高価なものらしいから無いよね。
服を脱ごうとして、またドアがバターンと開く。
「これで洗うと汚れが落ちるぞー。
服もお古だけど洗ったの置いとくから、そこの桶に洗い物入れときなー。」
ぽーいと、葉っぱが詰まった小さい袋が投げ渡される。
クンクン…これはヨモギかなぁ?これでこするの?
一人だけのお風呂でバシャバシャと好きに洗った。
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「子供って髪サラサラだよな~。羨ましいよ。」
お風呂から上がると、ビデリアに捕まって頭を整えてもらった。
「ちゃんと一人で洗えたかー?」
うんうん、と頷く。多分。
「お前もっと食わねぇと、こんな細っこいんじゃダメだぞ。」
うーん、ホントそう。
すぐ体がヘロヘロになってアルマスに迷惑かけてるし…。
ビデリアは、そーだっ!!と立ち上がる。
「今日は精のつく料理にしよう!肉だっ!猪、ヤギ、シカ、豚、牛、兎、鶏!それと卵にチーズだ!燻製の肉もソーセージもある、ニンニクとショウガをカブのスープに入れて、あーっ!何が食べたいよっ??」
「えーとえーと、普通のやつでいい…卵焼きとか?」
「バッカ、そーいうときは全部って言うんだよ!全部食え!!」
どんっとテーブルにカブのポタージュスープが置かれる。
ソーセージが2本放り込まれる。
「早く食わねぇと、肉足していくからなー!」
どういうルール…。
ビデリアは言い終わらないうちにバタバタとどこかへ走っていって、バンバン音を立てて調理場で何かやっていたかと思うと
「今から買い出しに行くけど、荷物持ちについてくるかー?」
こっくり
「行く。」
「よーし!早く食え!いや、ゆっくりよく噛んで、でも早く食え!」
う、うん。…ん?
「アタイいっつもよく噛んで食べろって怒られるんだー。」
ニシシッと笑うと八重歯が見えた。
お店の戸締まりをしていたら、ネッサさんがちょうど戻ってきた。
「うっかりパンを買い忘れたよ、あと卵安かったから追加で買ってきとくれ。」
「わかったー。あっ、洗濯物頼むよ。ワカのもあるんだ!」
「あいよ。せっかくだし街の観光案内もしてきな。」
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「仲がいいんだね、お母さんと。」
「んはは、そうかー?血は繋がってないけどなー。」
「あ、そうなんだ…?」
「この辺はそーいうの多いぞ。でもこの国は子供を大切にするから。そーいう教えなんだ。」
ビデリアは髪を結んで作業着みたいなズボンをはいて、足を上げてブラブラ歩く。
教会の教えでは、子供は神様の加護が沢山詰まっているから
大切にすると、ご加護のおすそ分けがもらえるんだって。
独身の人でも子供を引き取って育てることは善行を積むことと推奨されているらしい。
子供を教会の前に置いておくと教会が引き取って引き受け先を探してくれるので
裕福ではない家庭では、よくそういったことがされるそうだ。特に女の子は。
「そうかー…。」
「アタイも、もう少し大人になったら店を出るつもり。
そんでネッサみたいにチビを引き取って、一人前に育てて送り出してやるんだー!」
明るくて前向きで、やりたいことがしっかり決まってる。
自分もヘロヘロしてないで、前向きな所を見習わないと。
しばらくブラブラ通りを歩いていると、
「ふぁあっ!?」
ビデリアが変な声をあげた。
「ちょちょちょ、こっち隠れて!」
散髪屋の看板の裏に隠れると、ビデリアは歩いてくる青年を見ている。
栗色の短髪、人の良さそうな青年だ。
「あの人…どうしたの?」
「ふぇっ?へっ、ど、どうって?何がっ?全然違うって!」
すごく動揺してる。
顔も赤い気がする。
「もしかして…」
「いや、違うって、いや違わないけど~。」
「好きな人?」
「ば、バッカお前、なんだよ!そんなんじゃ、、そうだけどさー!!」
すごく照れて慌てているかと思ったら、途端にしゅんとなる。
「でももう故郷に帰るんだってさ。だからダメなんだ。」
その青年、ケヴィンは南部の漁師町出身の大工さんで
この街の大きい工事の為に半年前から出稼ぎに来ているらしい。
だた、その工事も終わったから近々故郷に帰るそうだ。
「多分、もう決まった婚約者がいると思う。わかるんだ。」
ケヴィンの後ろ姿を、体育座りでじっと見送る。
「でもさ、こんなアタイでもさ、あいつだけはちゃんと女の子として話してくれたんだぁ…。」
酒場ではいつも男勝りな感じだから、からかわれることが多いけど
あいつだけはいつも、礼儀正しくて、やさしくて、笑顔で。
いつの間にか好きになっちゃったんだぁ。
「はぁ。一度でいいから、帰る前に一瞬でいいから、アタイのこと好きになってくれないかなぁ。」
「物語の妖精の惚れ薬が、ホントにあったら欲しいよ…。」
ため息をつくその隣で
私の心臓はドキドキしていた。




