23 酒場の夜
「「せーのっ、安くて旨いよビディの酒場ー!」」
あたたかく、優しい夜だった。
アルマスが教会へ向かったあと、宿のベッドでひとしきり寝る。
気付けば窓から見える異国の夕暮れは、紫の空。
『起きたか~。』
「プー、私だいぶ寝ちゃったかな?」
なんか、プーとこうして会話するのも久しぶりな気がする。
『もうあいつは手伝いに行ってるぞ。』
そうか、寝すぎちゃった。
ここのトコいいとこ無しだから、沢山手伝わなきゃ。
「あのね、プーに教えてもらわなきゃいけないこと沢山あるんだけど…。
今日はもう手伝いに行くね。」
『気にするな。俺も勝手にやってる。』
そーだろうね。
でもいざとなったら頼るんだからね。頼むよ。
1階に下りると、調理場でビデリアのお母さん、ネッサさんが
スープを温めたり炒め物をしたり忙しく準備をしていた。いい匂い。
ビデリアはテーブルを拭いて椅子を下ろしたり、看板を外に出したりしている。
さっきと違ってボサボサ髪はポニーテールにしばって、茶色のエプロン姿だ。
アルマスは調理場の隅っこで沢山の皿に野菜を並べていた。
「あの、遅くなりました、手伝いますっ!」
ビデリアさんのテーブル拭きを手伝おうと向かったその時。
「待ちな!」
ドンッ。
「先に食べてからだよ。」
並々と入ったスープ皿。
ベーコンと野菜が入ってるホワイトシチュー?
「ワカ、俺もさっきもらったよ。それ食べてから手伝おうね。」
早く手伝いたい気持ちはあったけど、ネッサさんには逆らえない雰囲気がある。
調理場の近くのテーブルに座ると、木のスプーンを口に入れる。
…意外にピリ辛スープ。
辛さがお肉と相性ピッタリで美味しい。
「…おいしいです~。」
アルマスがこっちを凝視する。なんだろ、恥ずかしいな?
「ほらっ、手を休めるんじゃないよ!」
「あんなにかわいい顔見れないなんて拷問ですよ!」
「シスコンは後にしな!次はそっち、もうお客が来るからね!」
なんか調理場の方は和気藹々(わきあいあい)と楽しそうだ。
アルマスは誰に対しても社交的で仲良くなれるんだなぁ。
「食べ終わったら、このエプロン貸してやるよ。アタイのお古だけど!」
リリーン♪
「おばちゃん、もうやってるー?」
「はいよー!いらっしゃい!」
慌ただしくビディの酒場は開店した。
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「次はこれだよ。扉の近くのテーブルだ。ほら、頭が真っ金金のヤツのとこさ。持てるかい?」
「はいっ!」
「おおっ、今日はずいぶん小さいのがいるじゃねーか!」
お皿洗いを手伝うつもりだったんだけど、何故かウェイトレスを手伝うことになったので、せっせとお皿や木製のジョッキを運ぶ。
お客は常連さんが多く、店に入って来ては次々とお気に入りの席に座っていく。
大体、その日の日替わりスープと1品(今日は肉と野菜の炒め物)―を出して、足りなければ追加の品と好みでお酒、エール酒(ビールみたいなお酒)、ワイン、ミード(蜂蜜酒)なんかを頼むのが定番らしい。注文しなくても、あいつはチキンとエールだからと決まった料理を席に持っていくことも多かった。
「ワカちゃん、こっちもエール追加でー!」
「俺もエールゥ!」
「あはっ、こっちはワインおかわりー♪ゆっくりでいいわよ~」
「はいっ!ただいま!」
お客さんはみんな優しくて、お皿を間違えて持って行っても何にも気にしなかった。
「おーい、このデカイ猪肉は誰の注文だー?」
「あーこっちこっちー!」
金髪のお兄さんはウィンクして、正しい席の客へ持っていってくれる。
「あ、ありがとうございます!」
「ちゃんとお礼が言えるなんて、よくできた子じゃねーか!」
アルマスは、調理場から金髪を睨む。
ビデリアは空の皿をどさっとアルマスに押し付けると、戻ってきたワカの頭をぐりぐり撫でる。
「ワカ、お前すっげーな!人気者じゃん!酒もこんなに注文取りやがって!ちくしょう!!」
あっはっは!と笑う少女。
「ビデリア、看板娘取られちまったな!」
「かわいい妹分に文句なんかねーよ!おっ、席が少し空いてきたな、ワカ、おいで!」
ビデリアはワカを入り口に連れていくとがばっと肩車をして立ち上がる。
「わわわっ!?」
「いいな、ワカ、おっきなおっきな声でお客を呼ぶんだぞ!一緒にこう言うんだ…。」
「「せーのっ、安くて旨いよビディの酒場ー!」」
夜遅くまで、笑い声は続いた。




