19 新しい朝
鳥の声が聞こえる。もう朝が近いのかな。
抱えられているうちに、眠っていたみたいだ。
ポツリポツリと話し声が聞こえてくる。
「ワカには悪いことをした。小さい体に負担だったろうなぁ。」
「…アルマス様、先程の、本気なのでしょうか?その…。」
レナの声だ。
「もう少し大きくなってからと思っていたけど、今すぐにでも結婚したい。」
「…失礼ながら、どういった事情かわからない娘、その、いい子だとは思いますが…まだ子供ですし…それに…。」
「最初は、この美しい姿に一目惚れしてしまったけれど。」
美しい…貧相の間違いじゃないか。
それ完全に惚れ薬のせいだよね。
「この時の為に神が遣わせてくれた天使だと思っている。俺の人生を変えてくれた。」
いや、その、大げさな。てゆうか変えるつもり全く無かったんだけど。
『天使っていうより妖精だよなー。』
プーさん、面白がってないの!責任はほとんどそっちにあるんだからね。
昔から、恋心をテーマにした妖精の話が沢山あるように
妖精は、恋バナがすごく好きらしい。
「アルマス様に仕える身ですので、これ以上何も言いません。でも、一つだけ。」
「私はっ、昔から、アルマス様を…」
!
『!!』
「起きてるね?ワカ。」
ドキッ!
・・・
・・・
・・・・・。
「はい…。」
ごめん、レナ。ごめんなさい。
邪魔するつもりは無かったの。ホント。ごめん。
「もう山は抜けて、街道に出るところだよ。」
アルマスが背中から下ろしてくれた。
「眩しっ…」
朝の光が、森を、草原を、後ろの山々を、
新しい光で白く照らしていた。
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「ブレーデンの所は避けて、そのまま街道へ抜けましょうか。」
「いや、レナ、君は屋敷に戻って欲しい。」
ロイドがああなってしまった以上、誰かが母上に俺が死んだ事を報告しなければいけない。
行方不明のままだとギルマス達も心配するし、エミルもすぐ領主になれない。
領主不在だと、領民にも迷惑をかけてしまう。
ロイドも一緒に事故で巻き込まれて、レナだけ助かったことにして、
屋敷に戻ってエミルを支えてやって欲しい。
―と、アルマスはレナに伝えた。
「アルマス様をこのまま行かせられると…?」
レナはうつむき、拳をぎゅっと握っている。
「僕らの安全の為に戻って欲しい。生死がわからなければ、また追っ手を送ってくるかもしれない。時間が立てば立つほど怪しまれる。頼む、レナ。」
「…奥様が私を信用すると思えません。このままアルマス様をお守りしたい…です。」
「守るって、そこいらの野盗位は僕の腕なら大丈夫。そうだね…。」
アルマスは、ナイフを取り出す。
おもむろに、結んでいる長い髪を根元からざっくり切った。
「アルマス様!何を‥!?」
「これを証拠として母上に持っていくといい。」
「何てこと…ミュージェル様が愛された黒髪を…。」
「平民になるなら、長髪はおかしいからね。」
まとめた髪束を受け取ったレナは、ボロボロ涙を落とす。
髪を切ることが、とても重要なことなのか
それとも悔し涙なのかはわからなかった。
黙って泣きながら、レナはアルマスの髪を整え
そしてレナと別れることになった。
ミュージェルはアルマスの母
ケルト名で明るい海の意味。




