13 出立前夜
「そう、アルマスがあの娘を王都にね…。」
「はい、奥様。それとあの娘はバーウィン家のエイラ様ではありませんです。ハイ。」
「フン。そんなもの見たらわかります、あんな痩せた娘。
…で、エミルは明日から領地の視察でしばらく帰らないのね?」
「ハイ、奥様。1週間ほどかかるかと。お望みならもっと時間がかかるよういたしますが‥。」
「お前、余計な事は言わなくていいの。」
「はっ。」
「では、あれを手配しなさい。わかっていると思いますが知られないように。」
「ハイ、奥様。ハイ。」
雨の夜。
暗い影が2つ。少し離れた所に1つ。
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「兄上も明日お出かけになるんですか?王都まで?」
「エミル、すまない。お前の帰りを待ってからと思ったんだが、少し急ぎでな。」
「いえ、教会へ挨拶に行くにはいい時期ですし、視察は挨拶回りみたいなものですから。」
弟のエミルは、母上に似て金色の美しい髪、白い肌、紅色の唇。
あまり体を動かさないので細身く、中性的な容姿ではあるが、
とても頭がよく、理知的な雰囲気だ。
4年前に父上が亡くなってから、母上とは話をしなくなっていたけれど
エミルには数年前から全ての領主の仕事を教えていて、すべて順調にこなしてくれている。
去年は一緒に領地の視察に行き、今年はエミルに任せることになっていた。
「ただ、兄上…。僕の体力が心配で。旅の途中で北の視察を一つ、おまかせしてもいいでしょうか?僕は南回りで視察をはじめますので…。」
「ああ、もちろん、ブレーデンの所だな。わかった。お前一人に色々任せてすまない。」
「いえ、母上からも全て教わるよう言われてますし…。」
「母上の期待に応えるよう頑張ってくれよ、もう成人したのだから一人前だ。」
「でも兄上…!」
俺はにっこりと笑う。
これは俺が身につけた、これ以上何も言わせない武器だ。
「母上は高貴な身で、父の代わりに僕らがお守りしなければならない人だ。頼んだよ。」
「はい、、兄上。」
母上にはエミルしか見えていない。
少し寂しい気もするけれど、たった一人の大切な母だ。
だから、俺の代わりに守ってあげて欲しい。
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「なんですって!!アルマス様が王都まで送るぅ?!?」
「レナ、声が大きすぎる、はしたないぞ。」
レナさんとギルマスさん。
お爺ちゃんと孫みたいな感じだ。
お昼を過ぎ、使用人たちが一仕事終えて一息つく頃。
中庭の左側にある平屋の建物を入るとすぐに
使用人が使う休憩所、小さなホールがある。
明日出立する事をお世話になったレナさんに伝えに行くと
ほぼ荷物置き場になっているそこに、レナさんとギルマスさん、メアリさんがいた。
「あはは。レナは相変わらずアルマス様が大好きだねぇ。」
「ちょっと、メアリさん!違いますから!優秀なメイドなだけですから!!」
レナさんが照れている。こんな顔もするんだな。
「それにしたって…」
レナが向き直る。
「ワカ、こんなに早く出ていくこと無いじゃない?そりゃあ居座るなとは言ったけれど。
あなたの引き受け先も、今メアリに聞いていた所なんだからねっ。
王都に身寄りがあるの?そういうことは早く言いなさい!」
「レナはあんたのことが心配なんだよ。妹みたいに思ってるのさ。」
違うったら!とレナさんがまた照れている。
しっかりしているけど、普通の若い娘さんなんだなぁ。
なんだか年上の目でしみじみ見てしまった。
アルマスさんは、北にあるブレーデンって人の所に視察に寄ってから
そのまま中央の街道へ出て西の教会本部へ、それから王都へ向かうらしい。
レナは明日の段取りをギルマスさん達と少し話をしてから、うんうんと頷く。
「急な事ですのでブレーデンの所まで私も着いていきます。帰りは馬車を借りて帰りるのでご心配なく。アルマス様一人で行かせられないですから、そこで王都まで人出を借りれるように話をつけます。メアリにはそれまで泊まってもらうからお屋敷の事は大丈夫ね。
ギルマス、エミル様の準備は終わっているでしょ?アルマス様の準備を手伝って。」
さっきの姿が嘘のように、シャキッとしたレナさんが仕事を始める。
「完璧な、優秀なメイドなだけですから。」
ドヤッ。
『人間って、面白いのな。』
面白いっていうか、すごいなって思うよ。




