第一章 1
もし言葉と文字のどちらかを捨てなければならないと言われたらどうするだろうか。
人類は言葉を手に入れ文字を手に入れ文化や技術を生み出してきた。だが皮肉なまでに進んだ言葉や文字の省略が、こんな事態を引き起こすとは
「キモイだのなんだのとそんなに省略したいのなら私がどちらかを消し去ってやろう。」
唐突な女神の宣告である。
それを聞いた人々は泣き喚きあるいは頭を地につけ許しを乞うた。だが、
「私にも慈悲はある、一年だ。一年でどちらを残しどちらを消し去るか選択せよ。答えが出なければ...」
一年後、国民投票によって各国が決断を下した。
僕の名前はみちだ はるき
さいてん高校1年3組
「おっはよー!」
元気に手を振りながら女の子が走ってくる。
彼女の名前はさくらぎ ももか。
僕の幼馴染だ。
同じくさいてん高校1年僕と同じクラスだ。
なぜところどころひらがななのかと不思議に思うだろう。それは、日本の決断により「文字」を失ったからだ。
他の国はというと地球の約9割が言葉をとったそうだ。
じゃあ残り1割の国に学べばいいと思うかもしれない。だが女神の力かそれもできなかった。
「どうしたの?はーちゃん難しい顔して。」
ももかが不思議そうに顔を覗き込む。
「いや、なんでもない。」
「そっかー。はーちゃんは部活どうするの?」
「僕は帰宅部かなー」
「そっか…」
何か声のトーンが下がった気がするけど気のせいかな
授業が終わり僕の席へももかがやってきた
「はーちゃん部活見学行こー?」
いつもながら急な話だなぁ
「朝も行ったでしょ?僕は部活やんないの。」
「聞いてませーん。」
そういって耳を塞ぐ
「行こうよぉー。」
こういうとき、ももかは言いだしたら他人の話は聞かない
「しょうがないなー今日だけだよ?」
「じゃあ行くよー!」
「ちょっとまって?どこから行くの?」
「気分!」
「気分ってぇぇぇ」
ももかが僕の手を引いて走り出した
「ももか、ちょっと疲れたんだけど」
ももかと僕は気分にまかせて7つも部を見学していた。
「えー?あと一個だけ!」
「しょうがないな、あと一個だけだよ?それで最後は何部に行くの?」
「最後はねデッセージ部だよ!」
「失礼します!」
部室に入るなり部長らしき人が声をかけてきた。
「こんにちは。見学かな?」
「はい!さくらぎももかです!」
さすがの元気な声だ
「おおー元気な子だねーそっちの男の子は?」
僕を指差して言う
「あ、いえ、僕は付き添いで…」
ももかが急に服を引っ張って
「何言ってんの?はーちゃん。あ、先輩この人はみちだはるきです。私の幼馴染です!」
先輩は何か悟ったように
「ふーん。ももかちゃんにはるきくんね。私はデッセージ部部長のやまだゆりです。みんなからはやまゆりって呼ばれてるよ。」
「「よろしくお願いします!」」
「ふたりはデッセージって何かわかる?」
ももかは完全にはてなマークが顔に出ている。
「まあわからなくて入ってきた人がほとんどだから気にしないでね。デッセージっていうのは歴史で習ったと思うけど文字が消されたことで生まれた競技なんだ。基本的には伝言ゲームみたいなものなんだけど言葉じゃなくてお題を連想させる絵でお題を伝えるって感じ。」
ももかは目が点になっている。
「ま、一回やってみよう!今日は人数があまりいないから簡単なお題で野球で行こうか。制限時間は一人10分ね。何か質問はある?」
僕もやる流れになっっちゃってるな
「「ありません!」」
「じゃあ始め!」
〜10分後〜
「じゃあゆうちゃん!これから連想できるものは何?」
僕は塁とラインを。ももかはメロンパンに似た何かを書いていた。
部長がゆうちゃんというらしい男子部員に声をかける。
「野球ですね。」
意外にもあっさりと正解してくれた
「という感じね。ああ、この子はゆうちゃんことまついゆうさくくん。君たちと同じ一年生だよ。」
「あーゆうさくです。よろしく。」
この人は人見知りをするタイプらしい。
「「よろしくお願いします」」
部長が
「見学は以上です!入部したかったらまた明日来てね。」
帰り道…
「ももか、デッセージ部で何書いてたの?」
「えー?ドームだよ!」
あのメロンパンみたいなのドームのつもりだったんだ…
「どの部活も面白かったねー」
「結局何部に入るの?」
ももかはあごに手をあてて
「うーんどの部活も面白かったけどデッセージ部かなー」
なんとなくそんな気はしていたけど…
「そうなのか。頑張ってね。」
「?はーちゃんは入ってくれないの?」
「えっ僕も入るの?」
「はーちゃんも入るの!はい!もうけってーい!」
ナンテコッタイ